<ethica編集長の一押し映画> 「縫い裁つ人」を監督した三島有紀子さん 「この映画を通じて、今の日本人が忘れがちな、想いを込めて作られたものを大切に使うという心を取り戻してほしいですね。」
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<ethica編集長の一押し映画> 「縫い裁つ人」を監督した三島有紀子さん

これまで「しあわせのパン」「ぶどうのなみだ」で「職人」をテーマにした映画を作ってきた三島有紀子監督の最新作「縫い裁つ人」が1月31日からロードショー公開されます。

今回、三島監督が光を当てたのは「衣」です。女優・中谷美紀さん扮する市江という頑固な女性仕立屋が生み出す1着の洋服が人の心を動かし、人生をも変えていきます。そこには物づくりにこだわったり、丁寧に作られたものを大切に使うという、今の日本に失われがちな心が描かれています。

そこで、三島監督がこの映画に託した想いをお聞きしました。

想いを込めて作られたものを長く大事に使う

「私の父親は神戸のテーラーでオーダーメイドしたスーツしか着ない人でした。それもたくさんあるのではなく、季節に合わせた数着を大切にして死ぬまで着ていました。そして私に縫い目を見せては『見てみい、ええ仕事をしているやろ。一針一針丁寧に縫ってある。お父さんは職人の誇りをまとっているんだ』と言っていました。

そんな父親の影響もあって、私は小さい頃から想いを込めてものを作った人、つまり、職人に興味を持ち、使い捨てではなくて、想いを込めて作られたいいものを長く大事に使うことがいかに素晴らしいことかという気持ちが自然と芽生えてきたのです。

もちろん映画を作る立場になった今、自分自身の映画づくりもそうありたいと願っています。大切に丁寧に作った作品を観てくれた方が何度でも観たくなったり、何年か先にもう一度観たいなあと思ってくれれば、物づくりをしている人間としては本望です」

愛した人が大切にしてきたものを守ろうという気持ち

「映画の中には、市江さんの恩師が引退して、亡くなったご主人が大事にしてきた庭を1人で守っているというエピソードを盛り込みました。彼女は口では寂しくないといっていますが、実は孤独なんですね。それで市江さんは、そんな恩師の気持ちを静かにくみ取って、今の彼女にとってもっともふさわしい服を作ってあげるのです」

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

「この1つのエピソードを通じて、愛していた人が大切にしてきたものをその人に代わって守っていくこと、自分にとって大事な人のために想いを込めてものを作ってあげることがいかに大切かということを伝えたいと思いました。それを感じ取っていただければ嬉しいです。想いを込めて作った物にはストーリーが生まれてくるんです。逆にいえば、ストーリーのあるものは人が想いを込めて作ったものではないかと思います

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

歳を取ることで初めて知る楽しさ

「もう一つ、この映画の中には歳を重ねた大人たちが1年に一度、大切にしている洋服を身にまとって集う夜会のシーンを描きました。

今の日本では、どうしても若い子たちにスポットライトが当たることが多くなっています。大人たちが今を楽しんでいないと、若い子たちは『今が最高だ』と思ってしまうんですね。

でも、本当は60歳70歳になってからでもいろいろな楽しみがある、もっといえば、歳を取らなければ得られない楽しさもあるように思います。それが分かれば、歳を取ることが嫌ではなくなるし、むしろ早く歳を取りたいと思うようになるはずです。私だって、あんな夢見るような夜会があるのなら、その日だけ着るワンピースを作ってぜひ参加してみたいですもの」

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

「職人」が探し出してきた南洋裁店

「市江さんが仕事をしている南洋裁店は、原作では日本家屋となっています。しかし、先代が店をオープンするとしたら洋館じゃないかと考えて、この映画の世界観が表現できる建物を探しました。

当初はイメージに合う建物がなかなか見つからず苦労しましたが、結局、兵庫県川西市の、今は郷土資料館になっている旧平賀邸という歴史的建造物に決めました。明治時代にここに住んでいた平賀さんは外国から染物の技術を取り入れて日本の繊維技術の向上に貢献のあった人なんだそうです。偶然ですが、『縫い裁つ人』という映画にはうってつけの建物だったと思いますね。

それから、夜会のシーンは神戸どうぶつ王国、結婚式のシーンは旧グッデンハイム邸で撮影しました。どちらも私のリクエストにぴったりのロケーションで、みんなで、てくてく歩いて探した甲斐がありました」

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

主演の中谷美紀さんも「職人」

「職人といえば、主演の中谷さんも、この映画にふさわしいストイックな職人さんでした。ただ単に演技をする人ではなく、この作品の向かうべき方向を一緒になって悩み、感じ、考えて映画を作っていく人、まさに物づくりの人でした。

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

この作品は、自分が愛着を持っているもの、作った人の想いがこもっているものを受け継いでいくことの大切さを描いた作品です。いわば今の日本に足りないエッセンスが詰まった作品でもあります。1人でも多くの方に見ていただき、その方の“一生大切にしたい1本”になってくれるとしたら作り手として最高の幸せです」

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

(C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会、配給:ギャガ

映画が教えてくれた、この世を生きる価値

「いろいろなことを誰かとシェアすると、人生が豊かになって楽しくなります。悲しみは少なくなりますし、喜びはさらに大きくなります。

私に、この世は生きる価値があると教えてくれたのが映画でした。私の作った映画を観て、もし私と同じように感じてくれる人が出てくればそれは本望です。まだまだですが」

左から、中尾ミエさん、黒木華さん、三浦貴大さん、中谷美紀さん、片桐はいりさん、杉咲花さん、伊武雅刀さん、三島有紀子監督

『繕い裁つ人』
1月31日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー

【物語】
町の仕立て屋「南洋裁店」。祖母が始めたこだわりの洋裁店を受け継いだ2代目の店主・市江。彼女が古びたミシンで作るオーダーメイド服は大人気。しかし職人スタイルを貫くため量産は出来ず、百貨店の営業、藤井(三浦貴大)からのブランド化の依頼も断り続ける。なじみの客たちは、ここで仕立てた服と共に年を重ね人生を彩る。市江はその人だけの服を繕う日々で十分だったが――。

監督:三島有紀子『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』
原作:池辺葵「繕い裁つ人」(講談社 Kiss) 衣装:伊藤佐智子 脚本:林民夫
出演:中谷美紀 三浦貴大 片桐はいり 黒木華 杉咲花 中尾ミエ 伊武雅刀 余貴美子

配給:ギャガ (C)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会

■公式サイトはこちら
http://tsukuroi.gaga.ne.jp/

ーーBackstage from “ethica”ーー

「想いを込めて作られたものを大切に使うという心」「大人になければ得られない楽しさ」など、今の日本が忘れがちな気持ちが沢山詰まったethicaの一押し映画です。それぞれの想いを胸に、この感動を劇場で感じ取って頂きたい。(ethica編集長:大谷賢太郎)

■『繕い裁つ人』完成披露イベントレポートはこちら
http://www.ethica.jp/12547/

インタビュアー 清水 一利(しみずかずとし)
55年千葉県市川市生まれ。明治大学文学部(史学地理学科日本史専攻)を卒業後、79年、株式会社電通PRセンター(現・株式会社電通パブリックリレーションズ)に入社。クライアント各社のパブリシティ業務、PRイベントの企画・運営などに携わる。86年、同社退社後、87年、編集プロダクション・フリークスを主宰。新聞、雑誌(週刊誌・月刊誌)およびPR誌・一般書籍の企画・取材・執筆活動に従事。12年「フラガール3.11~つながる絆」(講談社)、13年「SOS!500人を救え~3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)を刊行。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

清水一利

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