ファッション? アート? レディー・ガガ愛用ヒールレスシューズのルーツを探る 【編集長対談】 アーティスト 舘鼻則孝さん
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ファッション? アート? レディー・ガガ愛用ヒールレスシューズのルーツを探る

アーティストの舘鼻則孝さん。「リ・シンク展」会場にて。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

レディー・ガガが愛用するヒールレスシューズの作者として注目を集め、今や世界的に活躍するアーティスト、舘鼻則孝(たてはな・のりたか)さん。近年はカルティエ現代美術財団にて人形浄瑠璃文楽の舞台を初監督するなど、ファッションとアートの分野を横断した幅広い活動を展開しています。

夏休みの表参道ヒルズ(東京・渋谷)にて、自身の創作のルーツ、そして日本のファッション・文化について再考する「舘鼻則孝 リ・シンク展」(展覧会の紹介記事はこちら)を開催した舘鼻則孝さんに、ethica編集長がインタビューしました。

手づくりのものに囲まれて育った幼少期

大谷: ethica編集長の大谷と申します。本日は、短い時間ではありますが、舘鼻さんのこれまでのご活動、そして今後の展望について、お話をうかがえればと思います。

舘鼻: はい、よろしくお願いします。

大谷: まず舘鼻さんのプロフィールを拝見して、シュタイナーの思想をバックグラウンドにもつ人形を作っていたお母様の影響があった、というところを興味深く思いました。幼少期にお母様から受けられた教育は、現在の活動に何かつながっていますか?

舘鼻:  とても自由な環境で育てられたと思います。母がシュタイナー教育に基づく人形をつくる作家であり講師でして、わかりやすく言うと、すべて手づくりのものに囲まれて育ちました。だから当時は、市販の玩具やお菓子を買ってもらえる友達がうらやましかったんです。友達が遊びに来ても、うちは母の手作りのお菓子が出てくるので、うちは貧乏なんだって(笑)。

大谷: いま思えばとても贅沢なことですね。

舘鼻: はい。母にはよく 「欲しいものがあるなら自分でつくれば良い」と言われていました。欲しいものを自分でつくるとなると、プロセスを考えて、材料を揃えるところから始めなければならないですよね。教育というよりは、母はそういう考え方や頭の中の引き出しを幼い頃から僕と共有してくれたんだと思っています。

「自分で発案する、ゼロをイチに変えるような仕事、何かを生み出すということを、小さい頃から母は僕と共有してくれていたんです」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

世界での活躍を夢見て日本文化へ原点回帰

大谷: 先ほど展覧会のご紹介の中で、江戸時代のアヴァンギャルドなファッションとして、学生時代から今日まで遊女の研究をされているというお話が出ました。そこに注目された理由というものはあるんでしょうか。

舘鼻: 高校生の頃に、世界で活躍するようなファッションデザイナーになりたいと思ったんです。それでヨーロッパへの留学を夢見ていたんですけれど、考えを巡らせているうちに、自分の武器になるのは、自国の文化を学ぶことなんじゃないかと気づいたんです。

そこから日本の伝統的なファッション、つまり着物に興味を持ちました。着物についてしっかり学べるところはどこだろうと調べた結果、東京藝術大学の染織(工芸科)に行こうと思ったんです。

大谷: そうやってご自身の進路につながって行ったんですね。

舘鼻: はい、だから僕はファッションデザイナーになるために、デザインの勉強をしたわけではないんです。領域に区切りを設けるのではなく、未来を見据えて「いま自分がどういうことをしていくべきなのか」を考えて進んでいく、今のような活動スタイルが自分には合っているんだろうな、と思います。

大谷: 確かに、パリに留学してフランスのファッションをただ学ぶだけでは、そこに並ぶことはできても、それを越えることは難しいですね。

舘鼻: そうですね。自分にしかできないこと、日本人がやるべき新しいものづくりが何なのかを考えたとき、日本にもともとあるアイデンティティー、江戸時代のファッションの分野に於ける前衛的な要素を探っていった結果、花魁(おいらん)というテーマに行き着きました。

「大学で学んだ染織の技法を自分の表現として昇華していくにあたって、現代的・前衛的なものづくりを紐解いていくうちにたどり着いたのが、江戸時代の花魁の文化だったんです」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

大谷: フランス人が、フランス事情に精通した日本人に出会ったところで、インターナショナルだとはあまり思わないですね。でも、日本文化に造詣が深い日本人に出会えれば、フランス語ができるできないは別として、歓待されます。ナショナルが分かっていなければ、インターナショナルが見えてこない。

舘鼻: 相対的に物事を見られるようにならないといけないということですよね。

「リ・シンク展」会場内に設けられたミニシアターでは、毎日3回、花魁の恋をテーマにした舞台を上演。舘鼻さんが演出から舞台美術まですべてを担当した。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

「用途のある芸術品」から用途をそぎ落とす挑戦

大谷: 今のお話にもあったように、舘鼻さんは、着用を前提としたファッションと、鑑賞を前提としたアートという二つの異なるジャンルで活動をされています。作品の制作や発表において意識していることはありますか?

舘鼻: 僕にとって、ファッションは日本的な言い方をすれば、工芸なんです。工芸とは、つまり「用途のある芸術品」ですね。僕の靴も、履けるからこそ成り立つものです。

僕の作品の場合、ビジュアルとしてのコミュニケーションで言えばファッションの分野だと思いますが、日本美術の観点からとらえれば、技術的には日本の工芸的な要素が強いですし、マーケットで言えばアートマーケットになります。

遊女の簪をモチーフにした彫刻作品を前に語る舘鼻さん。作品には、ダフネ・ギネスが彼に宛てた手紙の内容が螺鈿細工で記されている。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

もちろん、自分では使い分けていますし、そうした領域の線引きを理解しているからこそ、現在のようなスタイルで活動ができていると思っています。

例えば、会場に展示してあるこの作品は、簪(かんざし)の形はしていますが、簪としては使用できません。つまり 「用途のある芸術品」である工芸から、用途をそぎ落としてアートにする、というのが、僕がとった一つのアクションです。現代では使われなくなってしまったもの、そこから用途を取り去ったとき、それが現代においてはどのような価値観で捉えられるのか、ということを僕は実験的に行なっているんです。

ものづくりの根底にある職人気質

大谷: 東京藝大で工芸を学ばれたことがやはり大きなベースになっているのですね。

舘鼻: そうですね。藝大の工芸科って、もちろん自分の手で作品をつくるんですけれど、そのための素材や道具から自分でつくるんです。例えば友禅染の染めの工程で糊を使用するんですが、その糊のもち米を炊くところからスタートするんです。僕たちにしてみたら、材料も道具もまた作品なんですよね。ある意味、職人的というか。

今の僕は、こうして人前に出ることも仕事ですけれど、いつも手なんか汚いですし、ふだんはキレイな格好をしているわけじゃないですから。五感で感じ、五感で表現するようなものづくり、それは幼少期からつながって来ていることだと思います。

大谷: 日本的な美意識というか、これは世界共通なのかもしれませんが、工芸の世界では、道具ひとつを取っても、非常に洗練されていますね。

舘鼻: まず道具が良いものでなければ、良い作品はできないですね。

大谷: ファッションにおいても、ただプロダクトだけが洗練されていてもダメなんですよね。見えない部分まで洗練されていないと。それこそ、お店の雰囲気、店員の接客、使っている道具、見えない裏の部分まで、意識が行き渡っていないとブランドはできないですよね。

舘鼻: 全ての要素はリンクしていますので、その均衡が保たれていないと、ブランドにはならないですね。

「イタリアの靴屋さんなんかを見ても、使いこまれた道具のひとつひとつが美しいですよね」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

レディー・ガガからの「見たことがないくらい背の高いトウシューズ」の注文

大谷: 今回の会場には、舘鼻さんの代表作であるヒールレスシューズが数点展示されています。レディー・ガガさんがミュージックビデオで使用されたヒールレスシューズと同じ形のものも展示されていますね。レディー・ガガさんとのエピソードをうかがえますか?

舘鼻: 「レディー・ポワント」(※)は、ミュージックビデオ「Marry The Night」のために制作したものです。彼女からの注文依頼は「今までに見たことがないくらい背の高いトウシューズ」というものでした。依頼の時点で、曲やミュージックビデオの情報まではもらっていませんでした。ただそのイメージだけを伝えられてつくったんです。

大学の卒業制作で、花魁の高下駄に着想を得て制作した「ヒールレスシューズ」は舘鼻さんの代表作に。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

舘鼻: 「背の高いトウシューズ」なんて、ハチャメチャな注文なわけですが、出来上がったものを彼女はとても気に入ってくれました。彼女の中のイメージとうまくフィットしたようなんです。実は、彼女自身はデコラティブなものはあまり好きではなくて、プレーンで削ぎ落とされたものが好きなんです。僕自身はエンボス柄とかを入れたいんですけれど(笑)。

大谷: それは意外ですねえ。

ヒールレスシューズ・シリーズ "レディー・ポワント” 2014。※ ワインレッドのクリスタルガラスが貼られた会場展示作品は、レディー・ガガへのクリスマスプレゼントとして制作したもの。 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

空間・環境をつくることへの興味

大谷: アーティストとしての活動だけでなく、伝統工芸士とのコラボレーションや文楽公演の監督など、様々な活動を行なっていらっしゃいますが、今後チャレンジしてみたい仕事はありますか? 赤坂インターシティ AIR内のレストランのクリエイティブディレクションにも携わっていらっしゃるとうかがっています。

舘鼻: 情報が早いですね、どこで噂を(笑)。はい、「コーテシー」というフレンチのレストランの建築デザインと総合的なクリエイティブディレクションを今回担当させていただきました。大学時代は、一つのものをつくることに集中していましたが、最近は空間をつくること、来ていただいたお客様に、つくった作品をどういった環境で見ていただくか、ということにまで興味が広がってきました。

大谷: 今回の「リ・シンク展」でも、会場内に「茶屋」を設えたり、展示空間を花魁姿の出演者が練り歩くパフォーマンスがあったりと、コンセプトからものづくり、見せ方まで、垂直の軸が、広がりを持っていらっしゃいますね。

舘鼻: クリエイションをコミュニケーションの軸として、発信すべき内容に合わせたメディアを取捨選択することが重要です。表現の方法は様々ですが、僕の中で姿勢はずっと変わらないです。

「作品を見に来てくれるお客様がいる。そのお客様が作品と共存する空間そのものに、いま非常に興味があるんです」 Photo=COCO Kanai ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

ものづくりで人とつながる

大谷: では最後に、舘鼻さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」を教えてください。

舘鼻: 自分にとって、ものづくりというのはコミュニケーションなんです。自分の考えていることを人とシェアするためのツール。常に自分と他者との間にはクリエイションがあり、それによって関係が成り立っています。

大谷: 舘鼻さんのものづくりとは、人とつながる仕組みをつくっていらっしゃるということですね。

舘鼻: はい、そのサイクルだと思うんです。それがまた自分に返ってきて、次のものづくりにつながっていく。

大谷: 本日は貴重なお時間をありがとうございました。

アーティスト 舘鼻則孝

1985年、東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ鎌倉で育つ。シュタイナー教育に基づく人形作家である母の影響で幼少期から手でものをつくることを覚える。東京藝術大学では絵画や彫刻を学び、後年は染織を専攻する。遊女に関する文化研究とともに日本の伝統的な染色技法である友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。近年はアーティストとして、国内外の展覧会へ参加している。2015年12月に和敬塾本館で開催した「舘鼻則孝:面目と続行」展では、JT(日本たばこ産業株式会社)の「Rethink」の考えに共鳴し、日本各地の伝統工芸士とともに制作した現代的な煙管作品「Theory of the Elements」を発表した。 2016年3月には、仏カルティエ現代美術財団にて人形浄瑠璃文楽の舞台を初監督「TATEHANA BUNRAKU / The Love Suicides on the Bridge」を公演した。作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館など、世界の著名な美術館に永久収蔵されている。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2023年までに、5つの強みを持った会社運営と、その5人の社長をハンズオンする事を目標に日々奮闘中。

記者:松崎 未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

関連映像(関連キーワードでYoutubeから抜粋)

・Lady Gaga – Marry The Night

・Lady Gaga – Super Bowl LI Halftime Show 2017(3千300万回再生)

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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