明日のリーダー育成を紐解く鍵(米倉誠一郎教授)【副編集長対談・前編】
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明日のリーダー育成を紐解く鍵(米倉誠一郎教授)【副編集長対談・前編】

アメリカン・エキスプレス財団が2008年より世界9ヶ国で展開している社会貢献プロジェクト「アメリカン・エキスプレス・アカデミー」が、日本で取り組みを開始してから今年で10周年を迎えました。この春開催されたアカデミー10周年記念プログラムに、エシカ編集部もお招きいただき聴講してきました。

アメリカン・エキスプレス・アカデミーは、日本においては「明日のリーダー育成」と「サービスのイノベーションによる組織改革」をテーマに、NPOや社会起業家を対象とした人材育成に取り組んでいます。その卒業生ネットワークは41都道府県に広がり、700名を超える人材を輩出しています。

基調講演に登壇された法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科の米倉誠一郎教授は、講演のなかで「この25年間、日本は経済的にほとんど成長していない。隣の韓国は3倍、中国は20倍、ドイツだって1.5倍。日本が勝てない原因は失敗を許容できない社会にある。日本の子供は自己肯定感が低い。それは尺度がひとつになってしまっているから。」と仰いました。

イノベーションを作る人材が育つために社会や教育がどうあるべきなのか。講演後に米倉教授からethica副編集長・萱島がお話を伺いました。

ドロップアウトしてもまた巻き直しができる社会

萱島: 日、米、英、仏、独、スウェーデン、韓国の7か国で比較したとき、日本の13歳~29歳の若者のうち自分に価値があると思っている人は45.8%しかいない。アメリカは86%くらい、韓国でさえ71.5%なのに、日本だけ50%を切ってしまっているというデータがあるそうですね。日本は経済的に豊かで便利な国になっているはずなのに、これは驚きです。

米倉先生: これは結構深刻な数字ですね。多くの国の7~8割の若者が「I am OK」と思っているのに、日本は5割にも満たない。何が問題なのかを真剣に考える必要があります。

極論すれば東大以外は全員落ちこぼれ??

米倉先生: 自己肯定感が低いというのは、たぶん尺度の多様性が低いからではないかと。さっき会場で東大に行った人の人数を聞いたら一人しかいなかった。いまの尺度でいうと、それ以外全員落ちこぼれなんですよ。こんなもので測っていたら、絶対に自己肯定感が上がるわけがない。足の速い人とか、歌の上手い人とか、色々な人がいて初めてみんな自分に価値があると思える。社会に出たら大企業に行くのが最良の選択だとか、そんなことではなくて、色々人生はあるだろうと。もうひとつ言うと、一度ドロップアウトしてもまた巻き直しができる社会を作るのが良い。

アメリカのある乱暴な子どもの話。クラスメイトを殴ってしまう乱暴な小学生が居て、その子がどうしたらクラスメイトを殴らずに中学校に通えるかを先生たちが真摯に考えた。そこで、その子のためにボクシング部を作ったら、そこの自己肯定感はものすごいことになりました。いままで否定されてきた乱暴が突然「いいパンチ」に変わったのですから。その子はそれからの3年間、どうやって自分をマネージしたら一番成果が出るのかとか、食事制限は何をやったらどうなるのかとか、スクエアのリングをどのように使うかとか、そういうことを考えていくようになって、ハイスクールに行った時は学校内で最も優秀な生徒になっていたという話です。

萱島: ボクシング部を作ってあげるとは、驚きですね。なかなかそこまでは出来ないのではないかと思います。デジタル化がどんどん進んで子供達を取り巻く環境も変化していますが。

分断された社会をテクノロジーでつなぎ合わせる

米倉先生: 今日、面白い話を聞きました。スペインで2つ新しいアプリが出て、ひとつは「塩貸して」というアプリ。隣近所のコミュニティが厚いというのをスペインでは「お塩貸して」と言える環境だと言うらしい。それをスマホのアプリケーション上で再現するというアイデア。ソフトウエアとかアプリというのは大事なイノベーションで、いまみんながやっているけれども、それをゲーム化するとか一企業に使うというものではなくて、もう一回近隣の紐帯(絆)を取り戻すための道具にするという素晴らしいアイデアでした。それがイノベーションの本質だと思う。

もうひとつはラ・プラーザ(広場という意味)の携帯のアプリで、いまそれが流行っているらしい。例えば転職とか恋愛とか、自分に困ったことや悩みがあるときに相談ができるアプリなんだけど、そのアプリのステッカーを貼っているリアルのお店でも居合わせた人と相談ができるそうです。テクノロジーのおかげで分断された社会を、もういちどテクノロジーでつなぎ合わせることができるのだなと思いました。

萱島: リアルのお店でも相談ができるというのは、面白いアプリですね。

組み合わせると全く新しいものになる

米倉先生: 僕ら古い世代の考えだと、もうスマホをやめて、みんなで手を繋ごう!と思っちゃう。それも大事なことだけど、こんなに中毒になっているのだから、それを利用してもう一回人間の絆を取り戻すというのも一つの在り方かなと思いました。イノベーションというのは色々ありますが、シュムペーターという人が、イノベーションの本質はNew Combination(新しい組み合わせ)」だと言っています。すでにあるものを新たに組み合わせると全く新しいものになるという。

萱島: スマホの世界は子供にとって怖いと思いがちですが、リアルとうまく繋げられたらいいですよね。話は変わりますが、近ごろは教育格差、親の年収の差が受けられる教育の質の差につながっていると問題になっていますね。公教育の質が下がっているなんて言われますが本当でしょうか。

後編に続く

【副編集長対談・後編】明日のリーダー育成を紐解く鍵(米倉誠一郎教授)

米倉 誠一郎(法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授・一橋大学名誉教授)

1953年東京生まれ。一橋大学社会学部(1977年)・経済学部(1979年)卒、同大社会学修士(1981年)。ハーバード大学PhD(歴史学博士、1990年)。一橋大学商学部産業経営研究所教授、同大学イノベーション研究センター教授を経て、2017年4月より現職。企業経営の歴史的発展プロセスを戦略・組織・イノベーションの観点から研究。著書に、『経営革命の構造』(岩波新書)、『企業家の条件』(ダイヤモンド社)、『脱カリスマ時代のリーダー論』(NTT出版)、『創発的破壊:未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『オープン・イノベーションのマネジメント』(有斐閣)、『二枚目の名刺 未来を変える働き方』(講談社)、『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)、『松下幸之助:きみならできる、必ずできる』(ミネルヴァ書房)など多数。

ethica副編集長 萱島礼香

法政大学文学部卒。総合不動産会社に新卒入社都市と自然との共生」をテーマに屋上や公開空地の緑化をすすめるコミュニティ組織の立ち上げ行うIT関連企業に転職後はwebディレクターを経験。主なプロジェクトには、Sony Drive、リクルート進学ネットなどがある。その後、研究機関から発足したNPO法人に参加し、街の歴史・見どころを紹介する情報施設の運営を担当した201811webマガジン「ethica」の副編集長に就任。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

萱島礼香

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