【ethica編集長対談】フィリップ モリス ジャパン・ 井上哲さん(前編)
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【ethica編集長対談】フィリップ モリス ジャパン・ 井上哲さん(前編)

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

2月19日・20日の2日間、パシフィコ横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」(SB 2020 YOKOHAMA)にスピーカーの1人として参加されたフィリップ モリス ジャパンの職務執行役副社長・井上哲さんは高校卒業後、アメリカ留学を経て東大法学部を卒業。その後は松下電器、アンダーセン・ビジネスリスク・コンサルティング、アップルなどで働き、現在はその経験を生かしてフィリップ モリス ジャパンで活躍されているという、まさに絵に描いたような華麗な経歴の持ち主です。

しかし、井上さんご本人は自らを「高校時代は落ちこぼれだった、その後の人生は決してスマートでも何でもない」とおっしゃいます。そこで、そんな井上さんのこれまでの歩みを、エシカ編集長・大谷賢太郎がお聞きしました。

奈良県の山奥の小さな村で生まれ育ち、アメリカに行くなんて両親も大反対

大谷: 今日はよろしくお願いします。まず、高校卒業後に行かれたアメリカ留学のことからお話しいただけますか?

井上: 高校を卒業して3カ月後の18歳でしたね。1981年のことです。ロサンゼルスから北に車で1時間ほど行ったところにあるサウザンドオークスという小さな町に行きました。

当時は高校を卒業してアメリカに行く人は極端に少なくて、ほとんどいないといってもいいくらいでした。何しろ私は奈良県の山奥の、アメリカとはもっとも縁の薄い東吉野村という小さな村で生まれ育ちましたので、アメリカに行くなんて両親も大反対でした。

同級生に「世捨て人」という仇名をつけられていた・・・

大谷: それでも敢えてアメリカに行かれたのは何かやりたいことがあったのでしょうか?

井上: いや、何もなかったですね。英語もめちゃくちゃ苦手でしたし。

実は高校2年生の後半に大きな病気をしたこともあって、落ちこぼれて荒れた生活をしていたんです。決していじめられていたわけではないのですが、同級生に「世捨て人」という仇名をつけられて踏みつけられていました。ですから、何かやりたいことがあってというよりも、日本にいても仕方がないのでアメリカに行ったというのが本当のところなんですよ。

大谷: なるほど。でも、当時の留学は費用もかかったのではないですか?

井上: 為替レートが大きく変わったのは1980年代後半で、私が留学したのはその前、1ドルが200円台の時代でしたからね。今のレートと比較しますと単純に2倍以上かかっていることになります。しかも向こうに5年間行っていましたから親に感謝しかありません。

大谷: たしかにお金も大変だったと思いますが、当時は携帯電話もインターネットもない時代ですよね? そういう意味でも大変だったのではないですか?

井上: 今、私の息子がシリコンバレーに留学しているのですが、ネットはあるしSNSはあるしで全く環境が違っています。それに今はどこに行っても日本人がたくさんいます。私が留学していた頃、日本人は珍しく、ほとんどいませんでしたから。

「君がアメリカで通用すれば、君は上にはみ出ていたんだよ」

大谷: 先ほど、日本にいても仕方がないのでアメリカに行ったというお話がありましたが、井上さんに留学を決意させたきっかけのようなものはあるんでしょうか?

井上: ええ、ありますね。たまたま当時、留学支援のプログラムを立ち上げておられた先生にお会いしたのがきっかけになりました。

落ちこぼれたと思って荒んでいた自分に対して、その先生が「落ちこぼれというのは普通は枠から下にはみ出ることだけど、横にはみ出る場合も上にはみ出る場合もあるんだ。アメリカに行くとそんな枠はないから、君がアメリカで通用すれば君は上にはみ出ていたんだよ」というのです。私はその言葉にものすごく感銘を受けてアメリカで頑張ることを決意しました。

大谷: 上にはみ出るというのは面白い発想ですね。いわれてみればたしかにその通りだと思います。井上さんのこれまでの人生の歩みを拝見すると、スマートなキャリアアップ人生を歩んでこられたと思っていたのですが、最初は決してそんなことはなかったんですね。

井上: ええ、その通りです。決してそんな恰好のいいものではないんですよ。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

ダイバーシティ&インクルージョンに対する考え方を身を持って経験

大谷: 向こうでは何を勉強されたのですか?

井上: 最初の半年間だけ英語学校に通って徹底的に英語を学び、その後、大学に入って社会学を学びました。

当時は面白い時代でした。というのは、その頃は夏休みに語学研修として短期間だけ来る日本人学生はたくさんいましたが、私のように正規に大学に入ってというのは本当に少なかったんです。日本人はずっと私1人で、同級生はアジア人の区別がほとんどできなかったのに、私がいた5年間で日本の、アメリカにおける認知度が大きく変わりました。

ちょうど社会学者のエズラ・ヴォ―ゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本を書いたりして、まさに日本の高度経済成長が一番勢いのある頃で、貿易摩擦もレーガン大統領の下で起こっています。私にとって、そうしたことを現場で目撃できたというのが大きな経験となりました。

大学での専攻は社会学でしたが、自分のアイデンティティについてもアメリカ時代の勉強の1つのテーマになっていました。日本人としてのアイデンティティ、あるいはそれ以外のアイデンティティ、これが結局、今のダイバーシティ&インクルージョンに対する考え方に直結しています。それは理屈ではなく、まさに身を持って肌で感じたことが今となっては私の大きな財産になっていると思います。

大谷: 留学して人種の多様性を経験した上で、何かしらのカルチャーショックを受けたというのはよかったですね。それは日本にいただけでは分かりづらい感覚だと思いますから。

井上: たしかにおっしゃる通りですね。社会人になってからも感じましたが、やっぱり多様な価値観に直接触れる経験というのは、どう考えても貴重ですよ。

国際化というのは海外に行くことではないと思っています。自分自身の殻やアイデンティティをいかにして破れるか、違う視点をいかにして自分の中で受け入れるか、そういう経験の有無が、海外に行ったかどうかには関係なく、すごく重要だと思っています。

海外を経験する人はそこのハードルを乗り越えないともうどうしようもありません。やはりそれは、海外経験を持つ強みだと思いますね。

ただ海外に行かないとしても、特に日本の社会は多様化が顕著ですから、いくらでもそういう意識を持つことはできるはずです。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

東大の法学部に学士入学、松下電器に入社

大谷: アメリカから日本に帰ってきてどうされましたか?

井上: 86年の秋に日本に帰ってきたのですが、当時の日本の社会で秋に帰ってきて、それから就職活動をするというのはあり得ないことでした。それに、今でこそ海外の大学卒は門戸が広いですが、アメリカの誰も聞いたことのないような大学を卒業した私は誰からも相手にされず、どこにも就職できなかったんです。

それで仕方なくバイトを始めた時、母親から学士入学の制度があると聞いて、東大の法学部に入学してさらに2年間勉強をしてから、改めて就職活動をしました。

大谷: それで松下電器に入られたんですね?

井上: ええ、そうです。大学卒で入社する人の4年遅れで、ようやく社会人としてのスタートを切ったわけです。

大谷: どうして松下電器に入られたのですか?

井上: 私はもともと関西の出身ですから、松下に親しみがありましたし、松下という会社は面白い会社だと思っていました。それに、松下幸之助さんという人にも興味があったので松下に決めました。

(後編に続く)

【ethica編集長対談】フィリップ モリス ジャパン・ 井上哲さん(後編)

フィリップ モリス ジャパン 副社長 井上哲

奈良県東吉野村生まれ。高校卒業後、米国California Lutheran Universityに留学。帰国後に東京大学法学部に学士入学し、1989年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。アンダーセン・ビジネスリスク・コンサルティング、アップルなどを経て、2007年、フィリップ モリス ジャパンに入社。趣味は渓流釣り。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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