国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Chapter 1】
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国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Chapter 1】

撮影:平間至

「未来は、私たちの手で変えられる」。そんな熱い想いを抱くモデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。およそ20年をフランスで暮らし、日本に移り住んで5年。国民性や文化の違いを乗り越えて、いまの日本の若い世代を自分の言葉で勇気付けたい、と語ります。

本企画は、パリでファッションを学び、モデルとして活躍する国木田さんに、日本の女性たちのエンパワーメントを目指し、ファッションの歴史を紐解きながら、セクシャリティやジェンダーの問題について、フランクに語っていただく連載コラムです。

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「ファッション」の誕生

 

——「ファッション」とひと口に言っても、その言葉が意味するものは非常に広範です。まず第1回では「ファッションとは何か」ということについて、国木田さんなりの言葉で語っていただければと思います。

 

「ファッション(Fashion)」という言葉が確立するのは、1940年代、戦後になってからです。それまでは「モード(Mode)」という言葉が用いられていました。(※今回のコラムでは、便宜上、過去の歴史について言及する際や、両者を総括して話す際にも「ファッション」という言葉を用いる場合があります)

 

「ファッション」が登場するまで、「モード」は、ごく一部の特権階級のみに許されたものだったと言えます。贅を尽くした王侯貴族のオーダーメイド品が、各時代の「モード」でした。そもそも戦前、庶民に服飾品を楽しむ余裕なんて、ありませんでしたから。

 

現在「ファッション」という言葉がカジュアルに用いられ、幅広いものを対象としているのに対して、「モード」という言葉に高級でエッジィなイメージがあるのも、そのためです。ハイブランドは「ファッション」という言葉よりも「モード」という言葉を用いていますよね。

 

それが戦後、産業・経済の発展によって、大衆の「ファッション」が生まれました。ですから「ファッション」は、マスプロダクション、量産可能な規格製品の意味合いが強いんです。

 

CHLOE(クロエ)がプレタポルテ(高級既製服)を発表し、他のメゾンが次々にプレタポルテ市場に参入するのが、1950年代。CELINE(セリーヌ)が60年代後半にプレタポルテのコレクションを展開したのが、「ファッション」という市場が隆盛する決定打だったと思います。

 

撮影:平間至

「モード」から「ファッション」へ

 

——日本語の「モード」や「ファッション」は、かなり曖昧な意味で使われていますが、歴史的には「モード」から「ファッション」に向かって、服飾文化の裾野が広がっていったということですね。

 

波及の流れも、人が変わり、モードが変わり、それに伴ってファッションが変わっていきます。そうしてまた、そのファッションの変化に、人が影響される場合があるのですが。日本語の「ファッション」には、最新のものというイメージがありますが、新たな価値観やスタイルが「ファッション」として認識された時点で、それはもはや広く世間に浸透しているので、最新のものではなくなっている、とも言えます。

 

「モード」はコンセプチュアルで、より前衛的。新しい思想を取り入れているんです。日本においては、Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)やCOMME des GARÇONS(コム・デ・ギャルソン)などが挙げられると思います。それに対して「ファッション」の方は、より形式化されたもの、と言えばよいでしょうか。

 

「モード」の例としては、近年のLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)がわかりやすいかもしれません。2018年にクリエイティブ・ディレクターに採用したヴァージル・アブローは、もとは建築学を学んでいて、ストリートカルチャーに通じていました。また彼はDJ(ディスクジョッキー)の顔も持ち合わせています。ハイファッションの世界に、異ジャンルの思想を導入したことが「モード」だったんです。

 

けれど今、ストリート系はひとつの「ファッション」として市民権を獲得してしまっていますから、時代はもう次のフェーズに向かい始めているのかもしれませんね。

「内」と「外」の中間にあるファッション

 

——国木田さんは、学生時代にファッションの勉強をされて、そこからどんなことを学び取られたのでしょうか。

 

とても多くのことを学びましたが、ひとつには、ファッションがポリティカルな側面を持っているということ。ファッションが、その成り立ちからマスのものである、ということは、つまり社会・経済と密接に結びついているということです。

 

そして、ファッションは「内」と「外」の中間にあるものだということです。本来の自分と、対外的な自分。自分が認識している自分と、他人に認識させたい自分。ファッションは、この「内」と「外」の中間にあります。自己表現のツールであると同時に、社会的役割を演じるためのツールでもあるんです。

 

ファッションは、長い歴史の中で、女性たちを幸福にもしたし、不幸にもしてきたと思います。ファッションの歴史を学ぶことは、現代のセクシャリティやジェンダーの問題を考える上で非常に有意義です。

 

——次回は、ファッションの歴史をたどりながら、その社会的な影響力についてお話をうかがっていきます。

続きを読む【Chapter 2-1】>>>

国木田彩良/Saila Kunikida

1993年、イギリス・ロンドン生まれ。フランス・パリで育ち、高校卒業後に服飾の名門スタジオ・ベルソーでファッションの歴史、デザイン、マーケティングを学ぶ。日本人の母とイタリア人の父を持ち、明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたる。

自身のルーツである日本に興味を持ち2014年単身来日、モデル活動を開始。2015年、三越伊勢丹の企業広告「this is japan」のイメージビジュアルに登場し注目を集める。国内外のハイファッション誌を中心に活動の傍ら、パリで形成された感性と日本で暮らす中で見えてきたことを発信していこうとSDGsに携わりながら、主にフェミニズムに関するトークショーに参加したり文章書いたりするなど活動の幅を広げている。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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