言語と私 【スミレのドイツ留学 回顧録】
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文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」の9期生としてドイツに留学し、そこで学んだこと、感じたことを綴ってきたこの連載ですが、9月で終了することとなりました。1年間お付き合いいただき、ありがとうございました! 残り数回ですが、最終回まで読んでいただけるとうれしいです!

留学で一番大変だったこと

この質問への答えは迷いません。言語の壁でした。

高校の国際教養科を卒業し、大学では英語学科に進学した私。

そこは24人のクラスで半分が帰国子女、残りの半分が長期留学の経験者、海外経験がないのは私を含めてたった3人でした。これまでずっと大好きで得意だった「英語」で誰にも勝てない状況。

授業では英語で発言することにさえ抵抗を感じるようになり、英語が嫌いになりかけましたが、事前に準備ができるスピーチやプレゼンテーションに誰よりも力を入れ、なんとか対応してきました。

「英語ではもう勝てない」。だったらもう一つ言語を習得しよう。

そんな想いから、高校でも授業を取っていたドイツ語の履修を始め、他のクラスメイトよりも第二外国語の授業を多く取るようになりました。しかしなかなかモチベーションが上がらず、話すスキルは身につかないまま。大学生活は3年目を終えようとしていました。

ドイツ語の私  = シャイでおとなしい子

そんな私がぶち当たった2度目の言語の壁 in ドイツ。

その壁は、私には想像よりも高いものでした。

「シャイでおとなしい子」……。ドイツ語で自分をうまく表現できなかった私が、周りの人に与えていた印象です。日本での私とはまるで違う自分になっているような感覚。

言語の壁なんて笑顔とテンションで乗り切れるよ! という人もいるかもしれませんが、私には簡単ではありませんでした。ミスを恐れ、会話のペースについていけず、しまいには何を話せばいいのかわからず黙っている日々。それはドイツ語が話せるようになっても続きました。

そんな私に、一つの転機を与えてくれた人がいました。

それは、私が日本語教師として働いていた中高一貫校の”Putzfrau” いわゆる清掃作業員の方でした。難民や、外国から移住してくる人が多いドイツでは、高校などの学校施設の清掃は彼らの仕事です。私の学校で働いていた女性も若い時にトルコから来た方でした。

生徒がいなくなってから作業を開始する清掃員。誰からも注目を浴びることなく、毎日清掃の仕事をしています。彼女は、私が授業を行う教室の担当でした。ある日、英語を話せない彼女に、私は勇気を振り絞ってドイツ語で話しかけてみました。それから毎週、彼女と会話するのが楽しみになっていました。私の経緯を話したり、言語の壁の話をしたり、彼女の家族のことを聞いたり……。

大切なことは自分が心を開くこと

「あれ? 私、ドイツ語を話せてる。楽しんでる」。ふと気付きました。ミスすることを気にするどころか、私の拙いドイツ語を真剣に聞いてくれる彼女。私と彼女の間に言語の壁なんて1ミリもありませんでした。

今まで高すぎて登れなかった壁が少し低くなった瞬間でした。ドイツ語で話した彼女との時間はたくさん私を勇気付けてくれました。そして素敵な出会いや転機によって、壁は低くなっていきました。

ただそれでも、正直、帰国するまでに言語の壁をなくすことはできませんでした。

「言語の壁の高さ」は、きっと人によって全然違うのだと思います。語学が大好きだった私にとって、壁の高さに気づいた時はとてもショックでした。それと同時に、一つ大切なことにも気付きました。日本語が私の強みであるということ。私の良さは日本語を通した方が表現できるんだということ。私の中では大発見でした。たとえ日常生活や授業において不自由のないレベルの英語を使っていたとしても、です。

言語って面白い

「その国の言語を習得することはその文化に敬意を表すこと」という言葉を聞きました。確かにその通りかもしれません。ドイツ語で話すと喜んでくれる人が多かったな〜と振り返ってみて思います。何よりも、挑戦することって大切! 壁は無くせなかったものの、その挑戦をできたことはとても誇りに思います。

帰国後は留学中よりもドイツ語がさらに好きになりました。また、スペイン語圏の友達が多く、彼らの楽しそうなスペイン語トークに入りたいので、スペイン語の勉強も始めました! 英語も継続しています! でも私には『日本語』が必要です! これが「私 × 言語 =」の現段階での答え。

みなさんにとっての言語とはなんですか?

記者:スミレ

1997年生まれ。千葉県出身の大学生。トビタテ9期生として、2019年1月よりドイツに留学。2016年よりNPO法人じぶん未来クラブにて学生ボランティアとして活動。日本各地で行われる教育ワークショップにてこれまでに1000人以上の子どもたちと関わる。ボランティアリーダーとして各ワークショップを率いたり、新規ボランティアを対象とした研修等も行う。学業やアルバイトからは得ることのできない「ボランティアの魅力」を1人でも多くの学生に伝えたいとの想いのもと、「ボランティア先進国」と呼ばれるドイツにてボランティアを行いその仕組みを探る。

Pay it Forward ~優しさは連鎖する~

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

スミレ

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