(第31話)「日本古来の天然塗料、柿渋の歴史と魅力」キコの「暮らしの塩梅」
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
(第31話)「日本古来の天然塗料、柿渋の歴史と魅力」キコの「暮らしの塩梅」

「私によくて、世界にイイ」が実現できる、エシカルな暮らしのカタチってなんだろう。仕事に家事に育児に……。日々生活を回すだけでも大変な私たちにとって、新しく行動を起こすのはエネルギーも時間も使うし、ハードルが高く感じてしまうもの。

でも日々の暮らしのなかで、少しでも”良い”につながることができたら?

当たり前の毎日のなかで、大切な家族も、世界も、そして私自身もほんのちょっぴり幸せになるような選択をしていけたらいいなと思うのです。

第30話では、日々に彩を与えてくれるクラシック音楽の魅力をお伝えしました。今回の記事では、日本の伝統的な染色塗料である柿渋についてお話ししたいと思います。

柿渋とは?

秋の旬の果物として、よく食べられる柿。

田畑の近くや近所のお庭に、橙色に色づいた柿がたわわに実っているのを見かけることもあるのではないでしょうか。

 

毎年秋になると、祖母の家の渋柿の実を収穫して皮をむき、シュロのひもに吊るして干し柿を作っていました。

少し舐めただけでも舌が痺れるように渋い柿が、ただ干すことで甘く美味しくなるなんて、不思議な果物だなぁと子ども心に感じていた記憶があります。

 

渋柿の渋みの正体はタンニンという成分で、水溶性のため、口に入れた時に唾液で溶けて渋みとして感じます。

タンニンはポリフェノールの一種で抗酸化作用があり、赤ワインや緑茶などにも多く含まれています。

 

今回ご紹介する柿渋は、このタンニンの持つ殺菌効果、防腐・防水効果を利用して、古くから塗料や染料、治療薬としてさまざまなな用途に用いられてきたものです。

 

柿渋液は、赤く熟す前のまだ青い渋柿の実をすりつぶして、搾り取った液を発酵させて約一年以上熟成させて作られます。最初は黄緑色だった液が、時間が経つにつれて、赤みがかった茶褐色に。

その液を何度も塗り重ね太陽に晒すことによって、茶色とも焦げ茶色とも言えない、鮮やかで独特の味のある風合いへと変化します。

柿渋の歴史

柿は古来から日本に馴染みのある果実で、最も古いものでは弥生時代の遺跡から炭化した柿の種が出土されています。

江戸時代にはすでに200種類以上もの品種があったとの記録も。古くから人々の暮らしに根ざしていたものであることが分かります。

 

柿渋の利用が始まったのは、平安時代。漆の下塗りとして利用されていました。

柿渋は高い防水・防虫・防腐作用を持ち、紙・木・布など自然の素材で作られていた昔の生活用品の消耗や腐敗の防止に役立っていました。

 

柿渋は、主に、日常品である木製の道具や農具、漁網、和傘、器、建物などの塗料や、染色用の型紙、布の染料として使われています。

また法隆寺や薬師寺など、伝統のある寺社の建材にも防腐剤として使われ、その効果はかなり強力なものであったことがわかります。

 

江戸時代には、歌舞伎役者の市川団十郎が好んだことから別名「団十郎茶」とも呼ばれ、当時の流行色の一つでもあったそうです。

 

現在も上記の用途をはじめ、日本酒の製造では清澄剤(お酒の混濁を予防し透明度を向上させる働きがあるもの)などとして、幅広く利用されています。

柿渋の特徴と効果

渋柿に豊富に含まれる「タンニン」には、多くの効能があります。

戦後、化学製品が普及したため柿渋の存在感は薄れていましたが、近年はその歴史と安全性から再び注目されています。

 

建築物の塗料などに含まれる化学物質に反応して、アレルギー反応などが起こるシックハウス症候群。

その主な原因物質であるホルムアルデヒドを吸着・中和する効果があり、化学物質を含まない安全な自然塗料として家の建材などに多く使われています。

 

布や和紙を染めてみたり、お気に入りの家具を好みの色に塗り直したり、DIYで使う建材をぬっってみたり……。防腐・防虫効果に加えて、液を塗り重ねていくことで深みのある色へと変化していく様子も楽しめたら素敵ですよね。

太陽染めとも呼ばれる柿渋染め。

日光や空気に触れると、酸化して次第に色が濃くなる柿渋は、時間が経つにつれ深い味わいに変化していきます。重ね塗りすることで好みの色に調整することも可能です。

かばん、衣服などの布製品などの染料としても使われていて、オリジナルの経年変化を楽しめるのも自然塗料ならではですね。

 

また消毒効果も高く、昔から柿渋の持つ収れん効果を利用して火傷やしもやけ、虫刺されなどに塗り薬として用いたり、高血圧や歯周病の治療薬として服用されていました。

現在もその効能を活用して、スキンケア用品、抗菌スプレー、石鹸、歯磨き粉などに使われています。

 

ノロウイルスや大腸菌のような、健康に害を及ぼす菌やウイルスの繁殖を防ぐ効果もあり、先日は、高純度に抽出された柿タンニン(柿渋)が新型コロナウイルスを1万分の1以下に不活化することが確認されたという報道も。

 

柿渋の効能は、現代にも活かせる、生きるための知恵が詰まったものなのではないでしょうか。

普段あまり耳にすることのない柿渋ですが、古くから日本人の暮らしに寄り添ってきた歴史があることがお分かりいただけたかと思います。

本来の柿渋は発酵物独特の強い臭いを放ち扱い辛さがあったものの、現在は無臭の柿渋も開発され、より暮らしに取り入れやすいものとなっています。

 

染料として秋らしい深みのある色を出すだけでなく、薬効などいくつもの効能がある柿渋。

 

環境にも体にも優しい天然のエキスとして、現代の生活にも取り入れて行けたら素敵ですね。

【連載】キコの「暮らしの塩梅」を読む>>>

季子(キコ)

一児の母親。高校生のころ「食べたもので体はできている」という言葉と出会い食生活を見直したことで、長い付き合いだったアトピーが大きく改善。その体験をきっかけに食を取り巻く問題へと関心が広がり、大学では環境社会学を専攻する。

産後一年間の育休を経て職場復帰。あわただしい日々のなかでも気軽に取り入れられる、私にとっても家族にとっても、地球にとっても無理のない「いい塩梅」な生き方を模索中。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

季子(キコ)

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
[エシカ編集部 体験企画]環境や人権に配慮したエシカル素材で心地の良いナチュラルな香りと時間を実感「Care me(ケアミー)」のインバスグッズ
sponsored 【 2024/3/29 】 Health & Beauty
一日の終わりのバスタイムは、その日の自分をとびきり労って心とからだを回復させてあげたい愛おしい時間。そんなセルフケアの習慣にほんの少し、地球環境や自分以外の人にもちょっと良いアクションが取れたら、自分のことがもっと好きになれる気がしませんか? 今回ご紹介するのはエシカ編集部が前々から注目していた、エシカルな素材を使って...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.6 宇賀なつみ (第5章)ゴールデン・ゲート・ブリッジ
独自記事 【 2024/3/27 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
そろそろ知っておかなくちゃ! 水素のこと。森中絵美(川崎重工)×中村知弘(UCC)
sponsored 【 2024/3/26 】 Work & Study
2023年の記録的な猛暑に、地球温暖化を肌で感じた人も多いだろう。こうした気候変動を食い止めるために、今、社会は脱炭素への取り組みを強化している。その中で次世代エネルギーとして世界から注目を集めているのが「水素」だ。とはいえまだ「水素ってどんなもの?」という問いを持っている人も多い。2024年2月に開催された「サステナ...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】連載企画Vol.4 宇賀なつみ (第3章)アリス・ウォータースの哲学
独自記事 【 2024/2/28 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【ethica Traveler】連載企画Vol.3 宇賀なつみ (第2章)W サンフランシスコ ホテル
独自記事 【 2024/2/14 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.2 宇賀なつみ (第1章)サンフランシスコ国際空港
独自記事 【 2024/1/31 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

企画展示「性差(ジェンダー)の日本史」国立歴史民俗博物館レポート 男とは? 女とは? 男女の区別意識はどのように生まれ、変化してきたのか?
【ethica-Tips】季節の果物をふんだんに使ったスイーツやドリンク3点でコロナに負けない健康づくりを

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます