(第6話)山の冬仕事・漬け物作り【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
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(第6話)山の冬仕事・漬け物作り【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

〜パーマカルチャーを訪ねて〜(※注)

八ヶ岳暮らしの大切な冬仕事のひとつが、漬け物作りです。11月末から年明けにかけて「八ヶ岳颪(おろし)と呼ばれる冷たく乾燥した北西風が吹くこのあたりは、ダイコンや葉ものなど丹精込めて育てた野菜たちを天日に干して漬けるのに最適な地域です。そこで今回は、一味違う八ヶ岳の自家製漬け物作りを教えていただきました。

前回は、優雅なハーブティーの楽しみ方をご紹介しました。冬の山暮らしにはまだまだ美味しいお楽しみがいっぱい!

(※注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと。

野沢菜、高菜、ダイコンetc. 80kgの野菜を漬け込む

樽いっぱいに漬かった野沢菜はご飯やお酒のおつまみにも欠かせない漬け物のスタメン選手

そもそも漬け物は、野菜を長期保存するために考えられた保存食です。中でも塩漬けは、海水から塩を取り始めた太古の昔から行われてきた野菜の貯蔵法のひとつ。奈良時代にはナスやウリなど、さまざまな野菜や果実を塩で漬けて食べていたという記録が残っているようです。漬け物は、人間の歴史とともに歩んできた食品と言えるかもしれません。

毎年年末になると、高菜やダイコンなど、畑で育てたいろいろな野菜を漬けます。ひと冬の間に家族4人で食べ切る量は、だいたい一種類20kgくらい。知人に分けたりすることも多く、数種類の野菜を合わせると全部で80〜90kgほどを漬け物にします。3年前に長男の木水土(きみと)が種を蒔いて育てたのをきっかけに、野沢菜漬けも我が家の新定番に加わりました。

野沢菜漬けは、11月末から12月にかけて、たくましく育った菜を根っこごと抜き取る収穫作業からスタートします。抜いた野沢菜を半日ほど、太陽の下で天日干し。

最近では都会でも「干し野菜」が注目されていますが、太陽の力を借りることで野菜の余分な水分が抜けて栄養がぎゅっと凝縮され、美味しさも栄養も倍増します!

少し残ってしまった野菜や野菜の皮なども、干し野菜にすると美味しく食べることができるので、ぜひ試してみてくださいね。

天日干しの後、極寒の流水で野沢菜を洗って土などの汚れをよく落としてから専用の漬け物樽に漬け込みます。野沢菜の重さの3%の塩、昆布、鷹の爪で漬けるのが我が家流。

野沢菜は、山梨や長野周辺でも食卓にのぼる漬け物の代表選手です。冬の間はどうしても野菜が不足しがちですが、食物繊維もたっぷり、ビタミンA、ビタミンCも豊富な野沢菜は、ご飯のお供やお酒のつまみ、おやつ代わりとして、いつでも食卓にあるような、ホッと心が和むような存在です。

他にも高菜、たくあん、赤カブなどを冬の間に漬け込みますが、冬の漬け物作業の中で、特に思い入れがあるのがたくあん作りです。漬けるまでにひと手間かかり、とても重労働なのですが自家製のたくあんの美味しさは格別です。

まず、畑から抜いてきたダイコンを洗って軒下に吊るし、葉野菜より長めに天日干しをして「干しダイコン」を作ります。気温が氷点下になる夜間は霜を避けるために覆いをかけ、1〜2週間くらい干します。ダイコンが手で丸められるくらいにやわらかな状態になったらいよいよダイコンを漬けていきます。

ダイコンの重さの7%の粗塩と米ぬか、昆布、鷹の爪と一緒に樽の底から順番に丸く漬けていきます。

昔は1本2kgもあるずっしり重いダイコンを、ひとりで軒下に吊るす作業がなかなか思い通りにいきませんでした。子供が小さかった頃は、おぶったままダイコンを持ち上げることができなくて、ダイコンを何度も落として夫に叱られたことも。でも、継続は力なり!年々スキルが上がり、今では片手でラクラク持ち上げて干せるようになりました(笑)。

軒下にずらりと吊るされたダイコンは、我が家の冬の風物詩です。

漬け物は美味しいだけでなく体に良い発酵食品

漬け物樽に蓋をしてしっかり重石を乗せます

春夏に収穫した野菜を塩で漬けることで、腐敗菌や害虫から守る…そんな先人たちの生活の知恵が詰まった漬け物。昔の人は、保存性を高めるだけでなく、塩や米ぬか、酒かすなどで野菜を漬けることで、野菜が発酵・熟成して“うま味が増す”ということにも気づきました。

漬け物のうま味は、野菜が持つ本来の甘みを乳酸菌が分解することで生まれます。漬け物が発酵する過程で生まれる乳酸菌には、生の野菜よりも優れた健康効果があるそうです。水分が抜けた分だけ食物繊維の割合も多くなるため、便秘予防や腸内環境の改善にも一役買います。

また、漬け物に含まれる乳酸菌には、アミノ酸の一種であるGABAと呼ばれる成分が含まれていて、GABAには免疫力アップやストレス軽減効果があると言われています。

程よく発酵した漬け物は美味しいだけでなく、私たちの体にも良い影響を与えてくれる健康食品でもあるのです。

里山から拾ってきた漬け物石でしっかりと重石をすることも漬け物のポイントです

我が家では、昔ながらの杉の樽で野菜を漬けます。八ヶ岳に引っ越して来た12年前から吉野杉で作られた漬け物樽を使っています。漬け物だけでなく、味噌や醤油もすべて同じ杉樽で作られたものを使っています。接着剤など科学的なものは使わずに作られているので安心感があります。

また杉の木には優れた自浄作用があり、殺菌効果があります。木製の樽の表面には無数の小さな穴が空いているため、発酵に必要な微生物が活動するのに適しています。杉の力が漬け物の発酵を促してくれるのです。

不思議なことに、同じレシピで漬け物を作っても、私の母が作る漬け物と、私の漬け物ではまるで味が違います。

地域や作り手によって住んでいる微生物に違いがあるため、出来上がる漬け物の味も異なると言われています。私たちの「手」の常在菌にもそれぞれ違いますから、家族みんなで漬ける漬け物は、我が家にしかない味に出来上がり、母の漬け物とはひと味違ったできあがりになるのだと思います。

毎年家族みんなが“美味しい”と感じる自家製の漬け物は、子供たちにも受け継いでほしい「我が家の味」です。

世の中がどんどん便利になっていく中で、発酵という工程を省いた調味液による漬け物も多く出回るようになりました。手間やコストをかけないことで、失われていくものもあるように思います。

色とりどりの漬物が冬の食卓を彩る

赤大根の鮮やかな色が冬の食卓を華やかに彩ります

木樽に野菜を漬けた後、4〜5日したら樽の中の様子を確認します。野菜からじわじわ水が出て、表面まで水分が上がってきます。10日くらい経っても野菜の上まで水が上がってこない場合は、重石を足したり水を差したり。野菜が漬け液から顔を出さないように、ベストな状態を保つのも美味しい漬け物作りのコツです。

漬け物の種類はさまざまですが、赤ダイコンや赤カブなど、色鮮やかなものを加えると、冬の食卓がぐんと華やかになりますね。

漬け物を漬ける時は下記の4つのポイントに注意して、皆さんもぜひ、冬の漬け物作りに挑戦してはいかがでしょう。

 

<上手な漬け物作りのポイント>

1、野菜の重さと食塩の量を正しく量りましょう。葉物の場合は野菜の3〜5%の塩を、ダイコンは6〜8%を目安に。

2、野菜を切る時に使う包丁やまな板は清潔なものを使用しましょう。野菜は土や汚れを洗い落としてから漬けるようにしてください。雑菌が入ると漬け物が発酵せず、カビや臭いの原因になります。

3、漬けた野菜は冷暗所、または冷蔵庫など寒い場所に保管しましょう。暖かな室内に置いておくと発酵が早まり、酸味が強くなります。

4、樽漬けの場合は漬けた後、4〜5日したら中の様子を確認します。野菜が漬け液から出ないように水分の調節をしましょう。

 

ダイコンや白菜を漬ける時には、あらかじめ天日干ししてから漬けると甘みとうま味がアップしますよ。

歯ごたえ“パリッ”!真冬の贅沢いただきます

氷点下の屋外で漬けた野沢菜は、パリッとした歯ごたえと野菜の甘みが食欲をそそります

茎が太く、青々とした自家製の野沢菜は、漬けてから2、3週間くらいたったら食べごろです。漬かり具合を見て樽から出し、つけ汁を軽く絞ってから食べやすい長さに切って盛り付けます。

パリッと爽快!大地の恵みと生きる知恵が凝縮された野沢菜漬けは、自然な甘みと程よい塩け、そして野沢菜特有のほろ苦さが絶妙なバランス。かまど炊きのご飯と最高の相性です。

あまり長く漬け過ぎると発酵が進んで酸味が強くなるため、漬けてから1〜1ヶ月半くらいで食べきりますが、古漬けになった場合はチャーハンや野菜炒めなどの調理に活用します。

素敵な道具が教えてくれる「冬仕事」の楽しさ

古道具店で見つけたという大きなザル。編み目も美しく、使い勝手が良い

このザルは、主人が古道具屋さんで見つけてきました。なかなかない楕円の大ザルは、洗い終わったたくさんの野沢菜などを一度に入れることができてとても助かります。

職人が作った吉野杉の樽やザルや野菜カゴなどは、決して安価なものではありません。でも、日本人が昔から愛用してきた道具を使い継いでいくことで、日本の伝統文化を守っていきたいという思いもあります。

本物の良い道具には、暮らしに充実感と豊かさを与えてくれる魅力があります。

今、世の中は従来の価値観が大きく変わりつつあります。私たちは、時代の節目を生きているのだと思います。便利だったものや当たり前だったことを見直して、自分の手で作る暮らしを立て直す時なのかもしれません。

自然と人とのつながりを大切に、新しい1年を始めましょう。

左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

四井真治

福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。

Soil Design http://soildesign.jp/

四井千里

2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

<自然の仕組みがわかるオススメの2冊>

パーマカルチャーや土と自然のつながりがわかりやすく紹介されている『地球のくらしの絵本』シリーズ「自然に学ぶくらしのデザイン」と「土とつながる知恵」(四井真治著 農文協)ともに2,500円/税別

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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