そして、この季節になると心がじんわりとあたたかくなる香りがもうひとつ。
いちごの香りです。
娘が生まれた3年前。
産後初めて迎えた朝、まどろむ娘をそっと抱き上げると、ふんわりといちごのような甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐりました。
出産前によくいちごを食べていたからかな? と思いきや、その日以降も、娘は時々その香りをまとっていたのです。
抱っこするたびに、ミルクの乳くさい匂いといちごの甘酸っぱい香りを胸いっぱいに吸い込むのが、慌ただしい毎日のなかでの、ささやかな楽しみでした。
そんな娘は、離乳食が始まって間もないころから、当然のようにいちご好き。
顔も服も赤く染めながらいちごを口いっぱいに頬張り、眉間にしわを寄せた真剣な表情でもぐもぐもぐ。
そのあとに広がる笑顔は、見ているだけで、幸せだなぁと感じます。
大きくなるにつれ、いつのまにか消えていた娘の甘酸っぱい香りですが、いちごを食べた日は赤ちゃんだったころの懐かしい記憶を思い出させてくれます。
つい嬉しくて顔をうずめるようにふがふがしていると、最近では「もう、ママやめて〜」と笑いながら逃げられますが。
そんな娘も外遊びをたくさんするようになったこのごろは、いつも砂っぽい日向の匂い。
保育園帰りの足からは、たまにツンと鼻につく臭いが漂ってくる日も……。
でもいつか、この香りも大切な思い出になるのでしょうか。
いま、この瞬間の気持ちをとっておきたくて、今日も胸いっぱい香りを吸い込むのです。