(第17話)〜ミツバチからの贈り物〜 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
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(第17話)〜ミツバチからの贈り物〜 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

子供の頃、夏のプールサイドや家のお風呂場で、誤ってハチを踏んでしまい、よく足の裏を刺されたものです。ビリっと痺れるようなあの痛さは、注射針なんか比べものにならないくらい強烈で、2、3日は腫れがひかず、ずきんずきんと脈打つような痛みが続いて夜も眠れなかったことを覚えています。

夏から秋にかけては、ミツバチたちの活動がピークになる時期。都会では目にすることが少なくなりましたが、ここ八ヶ岳にはまだまだミツバチが飛び回る豊かなフィールドがあちこちにあります。お隣の長野県富士見にある富士見高等学校には、創部12年の養蜂部があって、地域のみなさんと一緒にミツバチの保護活動を行なっているそうですよ。

ヒマワリやクチナシ、ラベンダーやエキナセアといった季節の花を次々と訪れ、おしべを抱えながらクシュクシュと蜜を吸うミツバチの姿を目にすると、ホッと心が癒されます。

ハチと聞くだけで「怖い」「刺されたくない」と敬遠する人も多いようですが、ハチの中でもミツバチは性格がおとなしく、こちらが危害を加えない限り襲ってくることはないと言われています。

ミツバチの針には、ノコギリの刃のような「逆棘(かえり)」がついていて、一度刺すと針が抜けないため、刺したミツバチも腹部がちぎれて死んでしまいます。昔から「ハチのひと刺し」とよく言われますが、一度刺さしたら死んでしまうのは、ハチの中でもミツバチだけなのだそう。

また、ミツバチは他の昆虫や動物と違って“生き物”を食べません。花の蜜と花粉を食べて生きています。花の蜜の糖度は、一般的には5〜15%ほどですが、ミツバチはその花の糖度を80%ほどに濃縮して巣の中に保存します。

いまだに謎の多いミツバチの生態ですが、ミツバチのコミュニケーションの方法を、40年以上かけて究明したオーストラリアの動物学者、カール・フォン・フリッシュ(1886-1982)は、『ミツバチのダンス研究』という著書によりノーベル医学生理学賞を受賞。ダンスによって花と蜜のありかを仲間に伝えていることを突き止め、世界初の新発見として話題になりました。

さらに、もうひとつはっきりとわかっていることは、ミツバチは私たちが大好きな果物や野菜、ナッツなどの生産にとても重要な役割を果たしているということ。私たちが毎日のように口にする約100種類の作物のうち、70種以上がミツバチの受粉に支えられているというデータ(2011年・国連環境計画報告書)もあります。あのアインシュタインが「ミツバチが絶滅したら、4年後には人類も滅びる」という言葉を残したほど、地球の環境保全に欠かせない存在なのです。

生物多様性保全のために必要不可なミツバチ

送紛者(ポリネーター)とも呼ばれるミツバチが、花から花へと飛びまわって花粉を媒介し、受粉を助けることで果実や植物が実ります。ハウス栽培のいちごやメロン、また、りんごや桃などの花粉媒介にも、ミツバチそのものが利用されています。

花粉や花の蜜はミツバチにとって大切な食料であり、ミツバチもまた花がなくては生きていけません。食料を確保する代わりに、受粉を媒介して植物の再生産を助けています。

「生物多様性」という言葉をよく耳にしますが、私たちの生活は多様な生物の恩恵の上に成り立っています。ミツバチは、生物多様性保全のために必要不可欠な存在なのです。

ところが、最近、気候変動や農薬被害など、さまざまな要因によってミツバチが世界各地で減少しているのです。このままミツバチがいなくなってしまったら、農作物への影響はもちろん、生態系への打撃も避けられません。

世界中でミツバチが減少。その原因は?

ミツバチが急にいなくなる現象が、2006年アメリカで報告されました。原因不明のミツバチの大失踪は、「蜂群崩壊(ほうぐんほうかい)症候群(CCD)」と名付けられ、その年の秋から全米22の州に広がり、翌年春にかけて全米の養蜂家のほぼ4分の1が被害を受けたとか。こうした被害は、アメリカだけでなくカナダやヨーロッパ、インド、台湾などでもみられ、CCDによって北半球全体で4分の1のミツバチが消えたとみられています。

その原因は、ネオニコチノイド系農薬が関係しているという説が有力です。日本では、園芸用の殺虫剤や稲作、山林への空中散布、またペットのノミ取りなどにも使用されていて、農林水産省では注意を呼びかけています。

毎日1000以上もの卵を産み続ける女王蜂

日本には、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種類のミツバチが生息しています。どちらも巣ごとに群になって生活し、1つの巣の中は「女王蜂(メス・巣に1匹)、数万匹の働き蜂(メス・数万匹)、雄蜂(オス・全体の1割程度)」で構成されています。

巣に1匹のみ生息する女王蜂の役割は「産卵」で、1日1000〜2000個もの卵を産み落とすと言われています。4〜6月の繁殖期に、受精卵と未受精卵を巧みに産み分け、受精卵からメスが、未受精卵からオスが誕生します。

働き蜂は、生まれてからの日数でそれぞれの役割分担がきちんと振り分けられ、巣の掃除、子育てにはじまり、生まれて20日目からは、蜜や花粉採集のために、巣の外を飛び回ります。あらゆることをこなす文字通りの働き者。ちなみにローヤルゼリーは働き蜂が花粉から作り出した分泌液なのだとか。女王蜂は、働き蜂からひたすらローヤルゼリーをもらいながら、4年ほどの生涯の間に毎日たくさんの卵を産み続けるのです。

雄蜂は、女王蜂との交尾のためだけに生まれてきます。その役割を全うすると、そのまま命を落とします。

一つの群れに基本的に女王蜂は一匹だけ。新しい女王蜂が羽化しそうになると、母女王蜂は娘である新女王蜂のために数千匹の働き蜂を連れて「分蜂(ぶんぽう)」します。ミツバチが分蜂する驚きの瞬間を目にしたという人もいるかもしれません。ミツバチの社会性は、知れば知るほど驚かされることばかりです。

この写真は、女王が群れを引き連れて旅立ち(分蜂)しているところを友達が偶然目撃して撮影したもの。蜂たちにとっては命がけ…外敵とか寒さから逃れるための生き物の知恵が詰まった固まりという感じですね。生き物の世界は実に奥が深いです。

腐らない蜂蜜は究極の保存食

さて、古くから「神の食べ物」とあがめられていた蜂蜜。ミツバチは植物の蜜を体内に取り入れて、消化酵素を加えてショ糖をブドウ糖と果糖に分解します。そしていったん巣の中に蓄え、羽ばたくことで余分な水分を蒸発させます。ミツバチがつくる蜂蜜は、とても濃度の濃く、微生物も生息できないために腐ることがないと言われています。ビタミン、ミネラル、アミノ酸を豊富に含んだ究極の保存食というわけです。

ミツバチが命がけで集めた花の蜜は、巣の中で美しく濃厚な黄金色の蜂蜜に生まれ変わります。

もともと自然界にあったミツバチの巣ですが、人工的な「巣箱」を作ることで、ミツバチの恩恵を美味しく「横取り」してしまおうというのが人間の知恵。ちょっと厚かましい気もしますが、美味しく味わう代わりに、ミツバチの生育環境を整え、危機的状況から守ろうとする動きも各地で広がっています。

農地の近くでミツバチを飼育すれば、農作物の収穫量が増え、ミツバチの存続もサポーツすることができます。その他、

  • ミツバチの生態を理解し、彼らが好む花や木を育てる。
  • 庭の手入れをする時には、合成農薬は避ける。
  • 害虫から作物を守ってくれる益虫(クモ、テントウムシ、トンボ、ミミズなど)を駆除しない。

養蜂に興味をもってミツバチを飼育してみる、というのもミツバチ保護のアクションの1つです。

ミツバチがつくりだすのは、蜂蜜だけではありません。
栄養豊富なローヤルゼリーや、抗菌作用があると言われるプロポリス(ミツバチが採取してきた樹液などが主成分と考えられる)は健康食品や薬品の原材料としても活用され、ミツロウでできたハニカム(六角)構造の巣は、ワックスやキャンドルにも使われています。まさにミツバチの恩恵に感謝です!

おまけの話

先日、友達が都会で見たニホンミツバチの巣。都心では見ることが少なくなったとお話ししましたが、実は東京の真ん中にもニホンミツバチは生息しています。

都心のとある教会の前に、プラスチックの箱にてんこ盛りになった蜂の巣のかけらが無造作に置いてあったそうです。桜の老木の中にニホンミツバチが巣を作っていて、それをスズメバチが襲撃して大騒ぎになったとか。場所は新宿駅と代々木駅の両駅から徒歩10分くらいのところ。大通り裏の住宅街ですが、人口密集地帯。「まさかこんな街中にミツバチが巣作っていたとは」と友達も驚いたそうです。

去り際に、撤去のオジサンが蜂の巣の欠けらを「自由に持って帰って下さい」と…。だけど誰ももらわない。

ええぇ…こんな貴重なもん…くれるんだ!!ということで、彼はデイバッグの中に買い物袋を入れておいたのを思い出して取り出し、よく蜜の詰まった大きな巣の欠けらを放り込んで帰りました。そして、ご覧のようにたっぷりの蜜が採れました。

セイヨウミツバチは、特定の花に集中して蜜を採るのに対し、ニホンミツバチはさまざまな花から蜜を集めてきます。花粉も含まれているため栄養価も抜群。

「今度会った時に持っていくね」と言ってくれた蜂蜜は、もう残っていないだろうな…。

 

写真協力:Somei Shinnishi

 

参考文献

https://www.kaku-ichi.co.jp/media/tips/pollinator

 

農業の未来を実現する

http://www.beekeeping.or.jp/honeybee/partnership

 

日本養蜂協会『ミツバチと花のパートナーシップ』

http://www.fao.org/3/i6429e/i6429e.pdf

“Beekeeping to buffer against economic shocks caused by natural hazards in Somaliland”

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

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記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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