読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第3章:食から考える豊かさ編(第3節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第3章:食から考える豊かさ編(第3節)

寺院(パゴダ)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第3章は「食から考える豊かさ」と題して、全四節にわたりお送りします。食とのつながりをヒントに、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第3章 食から考える豊かさ

第3節 ドラゴンフルーツ

日本ではトロピカルフルーツがとても高いです。近くのスーパーマーケットではあまり入荷しないので、ふとしたタイミングで見つけると、あまりの値段の高さに毎回新鮮な気持ちで驚きます。ちなみに私には、奮発してマンゴスチンを買った時に、食べるのがもったいなくて気づいたら半分ほど腐らせてしまった苦い経験があります。
でも、トロピカルな国、東南アジアでは「大事にしすぎて腐らせはしないか」などという心配は無用です。小学生のお小遣いで買えるほど安いからです。値段のことを気にせずにフルーツをひたすら食べられる東南アジアはまさに私にとっては天国ですが、私にはそんなトロピカルフルーツに関係した素敵な思い出があります。

街の市場

ホーチミン市から車で5~6時間ほどの街ドン・ソアイは、省都だけあってとても大きい街です。国際交流プログラムのコーディネーターとして訪れていた私は、そこで省政府高官の方々と食事を共にする機会が何度かあったのですが、ベトナム語を話せない私に皆さんとても良くしてくれました。

お馴染みの(?)丸テーブルで私の隣に座っていたのは若い党員の方で、笑顔が清々しい男性でした。年齢が近い(と言っても10以上は離れている)ということもあったのか、お互い身振り手振りと少しの英語でなんとかコミュニケーションを取っていました。「このエビ料理が上手い!」だとか「日本はどんな国だ」などと話している間にお酒もどんどん進み、あの特徴的な笑顔がどんどん赤く染まっていくのが見えます。
会も終盤のころ、デザートのフルーツを頬張っていると、「何のフルーツが好きなのか?」と彼から質問が。私は「ドラゴンフルーツ」と答え、ドラゴンフルーツがどれだけ美味しいか、日本では手に入らないかを英語で説明しました。彼は酔っているのか、英語があまり理解出来ていないのか、当初はぼーっとしていましたが、最後には大きな笑顔で「OK!」と言いました。その時、その笑顔がどういう意味を持っていたのか私には理解出来ませんでした。

宴会の席

その後も、プログラム中に何度かその男性とは顔を合わせていましたが、いよいよ街を出るという日の夜、唐突に彼が近づいてきて「ドラゴンフルーツ!」と大きな袋を私に差し出したのです。中身を見ると、見事に成熟した大きなドラゴンフルーツが10房以上も。帰国までに到底食べられない量のドラゴンフルーツを前に私は断ろうとしましたが、どうしても持って帰れと彼も引きません。結局半ば無理矢理袋を握らされて、彼は行ってしまい、私はその背中にひたすら「Thank you」と言っていました。

ただ、人というのは他人の親切に後から気づくもので、彼が完全に去ってしまったあと、私はそのフルーツが私のためだけではないことに気付きました。彼は、私がそのフルーツを好きな人とシェア出来るようにあえてこれだけの量くれたのです。その場限りのギフトではなく、その後の時間をも演出してくれる粋なプレゼントに、私は胸が熱くなるのを感じました。

さすがに日本に持ち込むことは出来なかったので、結局はプログラム参加者と分け合って食べました。ホテルのルーフトップでホーチミン市を見下ろしながら皆と食べるドラゴンフルーツはとてもみずみずしく、その時間が何とも素敵で今でも忘れられません。

ルーフトップに並ぶトロピカルフルーツ

「お裾分け」や「プレゼント」として食べ物をあげることはよくありますが、私はいつもそれが相手の口に運ばれることばかり願っていました。ところが、食事の楽しみは本来、好きな人と一緒に過ごすことにあります。相手がそれを食べて満足すれば良いのではなく、相手がその食事で好きな人との時間を過ごすことの方がよっぽど素敵なプレゼントになるでしょう。

ベトナムで出会った彼が私にくれたドラゴンフルーツには、「好きな人との時間」が含まれていたのです。皆さんもこれから誰かにギフトを贈るときは、その中に「素敵な時間」も一緒に閉じ込めてみてはいかがでしょうか。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

 

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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