読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第2節)

首都カトマンズのビジーストリート

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第4章は「歓迎の意を込めて」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国で受けた歓迎の形を例に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第4章 歓迎の意を込めて

第2節 侮辱のサインは歓迎のサイン

世界各国には様々なハンドジェスチャーがあります。日本では、グーとパーを合わせて「なるほど」の意を表したり、人差し指と親指をくっつけて「お金」を表したりします。一方で、顔の前で手を振る「否定」のジェスチャーが、他の国では「くさい」の意味になってしまったりと、ジェスチャーが国ごとによって違う意味を持つこともあります。

 

それでも比較的世界共通のジェスチャーがあります。侮辱のジェスチャーです。中指を立てるジェスチャーはiPhoneの絵文字にも採用されるほどほとんどワールドワイドで使用されます。だからこそ、旅先でもしもそれに遭遇してしまうと傷ついてしまうものです。

 

私は一度ネパールで、とある少年に中指を立てられたことがあります。でも不思議に私はそれに傷つきませんでした。むしろそれを好意的に感じたのです。もちろん、ネパールでも中指は侮辱の意味ですが、それでも彼はそれを侮辱として使わなかったし、私もそれを侮辱として受け取らなかったのです。一体何が起きたのでしょう。

夕方のラッシュ直前

ネパールの首都カトマンズはとても人口密度の高い街です。1平方キロメートルあたり5000人ほどなので、街には人が溢れています。ちなみに東京は3800人ほどですから、カトマンズがどれほど混雑した街かわかるかと思います。

 

到着初日に観光がてら街を闊歩していた私は、夕方の帰宅ラッシュに巻き込まれました。ほとんど日曜日の原宿竹下通りかと思うほど混雑した道に疲れてしまった私はそこで、少し先にある開けた広場まで行くことにしました。広場では観光客向けの市が催されており、小さなアクセサリーから伝統的な衣装まで床に並べられていました。その頃にはあたりは暗く、店じまいする店舗もいくつかありましたが、まだまだ人は多く賑わっている印象です。

広場近くの古い建造物

夕食までまだ時間があった私は行く当てもなくフラフラとしていましたが、そこに少年4人組がおもむろに近づいてきました。スリかと思い少し警戒しましたが、どうやらそうではなさそうです。物乞いかとも思いましたが、彼らのうちの一人は携帯電話を手に握っていたのでそうでもないようです。

 

驚いたことに15にも満たない彼らは拙いながらも英語で、しかし慣れた様子で話かけてきました。どうやら暇なら遊んでくれ、とのこと。つい「いいよ」と言いそうになるのを押しとどめて、「もう行かないと」と私は先を急ごうとしましたが、彼らも引きません。突然手を握って、「手でこの形を作ってみて!」と私にせまるのです。既に彼らの遊びに巻き込まれているなと思いつつ、指示に従ってわけのわからないハンドジェスチャーを作っていきます。そうしていくつかランダムな形を手で作ったあとに彼らがおもむろに作ったのが、中指を立てるポーズです。しかも、満点の笑顔で。

 

「してやられた」と思いながらも、こっちも負けてはいられません。「これは知ってる?」と、手で何かを握っているジェスチャーを作ります。彼らが気になってそれを覗きにきたときに、ゆっくりと中指を立てます。それを見て彼らも大騒ぎ。大の大人と少年4人が広場の真ん中で笑いこけている光景は奇妙だったに違いありません。一通り楽しんでから、彼らは走り去っていきました。

色鮮やかな家が多い

あとから聞くと、彼らは観光客相手にそれを楽しんでいたようです。現地の人からすれば「馬鹿にされるだけだから関わるな」だそうですが、私は決して、ただ彼らが観光客を侮辱するためにあの遊びをやっていたとは思えません。もちろん中指を立てるというやり方に問題はあっても、子供ですからそれを責めるべきではありません。むしろ、私はその背景にあった彼らの気持ちを汲んでやることの方が重要な気がします。

 

つまり、彼らは外からやってくる新しい人々に興味を持ち、彼らなりの方法でコミュニケーションを取ろうとしているのです。彼らがそのために遊びに誘うのは一種の歓迎の意であって、その方法が何であれ——そこに侮辱のジェスチャーが含まれようと——相手に十分それが伝わるのであれば全く問題はないのです。私は彼らの中指を決して侮辱として受け取ってはいないし、彼らもその気は全くなかったはずです。お互いの間に「歓迎している/されている」という共通認識が成立している点で、私たちは異文化コミュニケーションを成功させたと言えます。

 

コミュニケーションの形は千差万別ですが、「お互いに同じことを考えている」という状態は共通しています。歓迎にもいろいろな形があり、その一部は自分にとって一見不快かもしれません。それでも相手が伝えようとしていること、そして自分が受け取ることの共通点を見つけられれば、自然と気持ちの良いコミュニケーションが成り立つはずです。「私がどう思うか」以上に「私たちがどう思っているか」を考えることが出来れば、世界はより広がるかもしれませんね。

カトマンズ近くの農場

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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