読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第4節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第4節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第6章は「教育の現場から」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジアの学校教育現場を観察して得た学びをヒントに、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第6章 教育の現場から

第4節 創造力はサスティナブル

小さい頃に夢中になった遊び、みなさんは何でしょうか?

私は、カードを読み込んで戦うアーケードゲーム、通称カードダスゲームにどっぷりで、月のおこずかいのほとんどをそれに使っていました。キラキラ光るカードが出ては大喜びしていたのを覚えています。幼い頃は、そのホログラムの入ったカードが何よりも大切で、遊び道具であると同時に宝物でもありました。スポーツに夢中になっていた人は、ボールやラケットが遊び道具かつ宝物であったかもしれません。

使っているからこそ大事にする。大事にするからこそ使う。高い服を買うと、なんだかもったいない気がしてなかなか着ることができない今の私に比べると、子供のときの方がよっぽど、モノとの向き合い方を知っていたような気がします。

モノとの向き合い方と言えば、私は、ネパール山間の村の学校で出会った子供たちのことを思い出さないわけにはいきません。ネパールの中でも比較的貧しいその村で、子供たちが自分たちの創造力を存分に発揮して遊びに興じる姿は、私に「限りある資源とどのように付き合うか」について教えてくれました。

授業風景

ほとんどコミュニティベースで運営されているその学校は、学校というにはあまりにこじんまりとしていて、建物の老朽化も進んでいました。丘の上にあって、校庭(というより「庭」)からの眺めが良いことが唯一の救いであるように思われるほど、その学校は教育施設としての魅力を欠いていました。それでも子供たちは学校が大好きなようで、信じられないほど薄給な先生たちにとってもそれがモチベーションのようでした。

私はその学校に夕方お邪魔し、授業を1コマ見学しました。16時ほどになると、その日の授業は終わり、下校が始まります。遊び足りない子供たちは先生に追い出されるまでの間、校庭を走り回り、甲高い奇声を上げていました。

そんな中、1つのボールを追いかける男の子の集団がいました。彼らはゴールを設定するでもなく、ただ誰かが蹴り飛ばしたボールを追いかけまわして遊んでいるようで、校庭全体を存分に利用してはしゃいでいました。備品なんてほとんど見当たらない学校だったので、誰がボールを持ち込んだのだろうかと疑問に思っていると、たまたま足元にそれが転がってきました。思い切り蹴り飛ばしてやろうと狙いを定めたところで、私は気づきました。ボールだと思っていたそれは、お菓子の袋の塊だったのです。いくつもの袋をまとめて、テープで巻きあげただけの、ほとんど「ゴミ」に見違えるそれを、彼らはサッカーボールのように蹴とばして遊んでいたのでした。しかも、もうそれは何か月も使い古されているような雰囲気でした。彼らはすぐさま私の足元からボールを取り返すと、また元のように戯れていました。

下校時の様子

彼らにとって、それは紛れもなくボールです。それも、息を切らしてでも追いかけ続けたい、最高の宝物なのです。良く跳ねる、綺麗なサッカーボールが手元にないからこそ、彼らの創造力がそれを生み出したと言えます。

私は単に、ゴミを再利用してボールを作ったことに感動しているわけではなくて、そのボールが「本物」のボールに負けずとも劣らない、彼らの宝物であることにどこか気づかされることがあるのです。つまり、子供たちにとって、モノの価値はもっと実践的で即物的だからこそ、「ボール的な何か」それ自体に充足するのです。

社会学者のタルコット・パーソンズは、自己充足的なものを「コンサマトリー」、反対に、道具的なものを「インストゥルメンタル」と表現しています。例えば、大学に行くために勉強するとすれば、勉強という行為はインストゥルメンタルです。逆に、知識を得たいからこそ勉強するのであれば、それはコンサマトリーです。

子供たちにとって、お菓子の袋でできたボールはインストゥルメンタルだけでなく、コンサマトリー的意味合いが強いでしょう。もし、ただインストゥルメンタル(道具的)なのであれば、何度も上からテープを巻いて修理する必要はないはずです。彼らは、あのLaysのポテトチップスの袋で一番外側を包んだ、あのボールそれ自体が大好きなのであって、あれは単なる遊び道具以上に宝物なのでしょう。

これは、私自身の生活を振り返る良い機会でした。モノを道具的に考えると、どうしても壊れたものは買い替えるという意識になりがちです。それは決してサスティナブルではないし、ウェルビーイングとは程遠いでしょう。モノそれ自体に価値がある、モノがもたらす効用ではなくて、そのものに愛着を感じることで、限りある資源をセーブできるかもしれません。彼らの創造力がそう教えてくれたのです。

教室に飾られた子供たちの描いた絵

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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