読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第2節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第8章は「挑戦の哲学」と題してお送りします。新年度を控え、この春に卒業・進学・就職を迎える人、あるいはこの春新しいことにチャレンジする人へ向けて、東南アジアで見つけた挑戦と幸せの哲学をご紹介します。

第8章 挑戦の哲学

第2節 信頼関係のために(前編:「信じる」ということ)

人との出会いが増える春、信頼を構築するのは骨の折れる作業です。全く事務的なものと割り切れる繋がりは、お互い恥じらいや躊躇もなく進行するでしょうが、友人関係に発展し得るものに関してはなかなか距離の取り方が難しいですよね。特に、排他的な集団に後から参入していくときは、ほとんど透明人間のような状態からスタートせざるを得ません。目立たないように少しずつ近づいていって、ひたすら観察する。あまりにも早すぎる段階で目立ってしまえば、「誰だお前は」と言われて、すぐに締め出されてしまいます。

ああ、信頼は何て難しいのだろう。そう大げさに嘆きたくなるほど、私たちは「『信頼』なるもの」に怯えています。でも、信頼とは一体何でしょうか。何が信頼をもたらすのでしょうか。

手元の国語辞典に依れば、信頼は「信じて頼りにすること」です。ただ漢字を平仮名に直しただけで、あまり良い解説ではありませんが、少なくとも「①信じて」「②頼りにする」という順番はわかりました。次に知りたいのは、どうすれば信じられるか、そして、「信じる」ことと「頼りにする」ことはどう繋がるのか、ということです。

国際プログラムと呼ばれるものに多く参加する上で、私はその2つの疑問にずっと向き合ってきました。とりわけ、文化背景の違う相手と、母語ではない言語でコミュニケーションを行うとき、信頼関係の構築は何倍も難しくなります。ただ、私がこれらの問いに対する大変興味深い視点を得たのも、そうした異文化コミュニケーションの場でありました。特に、カンボジアでの交流には、「信頼」という掴みどころのない蒸気のような言葉を咀嚼できるような体験があったのです。

チームメンバーと

私がカンボジアを訪れたのは、国際的な学生環境フォーラムのためです。アジア10カ国から80人の学生が集まり、持続可能な平和について討議、提言を行うもので、参加国は日本、韓国、中国、ベトナム、マレーシア、フィリピン、カンボジア、タイ、インドネシア、ミャンマーでした。全ての活動はチームごとに行われ、各チームには各国から1人ずつ学生が参加します。

不安もありましたが、いざ始まってみると、オープンマインドな学生が多く、アイスブレイクですぐに仲良くなれたような気がしました。ところが、局所的に私は孤立を感じたのです。例えば食事時、多くの学生はチームメンバーと座っているのに、私のチームはどこのテーブルにも固まっていない。ある人は他のチームに合流していたり、ある人は同じ国の友達と母語で話していたりする。ディスカッションの時間になればアクティブに会話するのに、それ以外ではまるで他人なのです。仲良くなることと、信頼を得る/与えることはイコールではないのだと悟った瞬間です。

そんなとき、明らかに「信頼を得ている」と言える人が1人いることに気がつきました。彼女はフィリピン代表の学生で、チームリーダーを担っていました。チームメンバーに限らず、様々な学生が彼女の周りに輪を作っているのを見て、彼女の何が「信頼」をもたらしているのか観察を始めた私は、彼女の中に「信じること」と「それを『頼ること』に繋げること」に関する技法を見つけたのです。

文字通り、孤独のグルメ

まず、彼女が「互いに信じている状態」を作り出すために行っていたことは、私生活(プライベート)の共有です。家族の話から、恋人の話、趣味の話までとにかく雑多な、しかし本筋とは全く関係のない日常を、誰に聞かれるでもなく話す。自らの懐を先に晒して、散々観察させることで、信じるに値するかをとっとと決めさせるわけです。互いに探りを入れながら、徐々に防壁を取り去っていくようなやり方では時間がかかりすぎるので、正面玄関を開け放って「誰でも見ていっていいよ」と宣伝する。もちろんどこまでプライベートを公開するかは当人がボーダーラインを設定していますが、それでも私生活を明かすというのは「会って間もない人が、そこまで自分に教えてくれた」という感覚を相手に与えることになります。

彼女は、そんな私生活の1つとして、「1児の母」という側面を共有していました。学生ながら婚姻関係にあった彼女は既に数か月になる赤ちゃんの母で、子を両親のもとに預けてプログラムに参加していました。彼女はわざわざテレビ電話をして赤ちゃんの顔を皆に見せることで、相手からの信用を獲得していたわけです。

これは彼女が戦略的に赤ちゃんを利用したということではなくて、彼女には自分の本当に愛するものを躊躇なく周りに示す寛大さがあったということです。その寛大さ、懐の深さが、他者から信用を引き出していたわけです。つまり、信じられるためにはまず自分から腹を見せ、自分が相手を信用していることを示すことが必要ということになります。

信頼関係の構築を砂崩のようなものだと思っていた私はこれに驚きました。彼女のやり方は、砂を少しずつ削っていって相手の内側深くを目指していくものではなく、砂を取っ払って、さらにはその下にあるものを手に取って見せてくれるものです。そのおおっぴらな態度は、相手に抵抗感のない印象を与えます。

ですが、こうして得た信用も「信用」にすぎません。相手を信じている状態であるだけで、それ以上でもそれ以下でもない。そこで次の彼女の行動が、それを「頼る」という行為へと繋げるわけです。

「信じること」から「頼ること」へ

(後編に続く)

左前の彼女が「信頼」のプロ

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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