読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第3節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第3節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第8章は「挑戦の哲学」と題してお送りします。新年度を控え、この春に卒業・進学・就職を迎える人、あるいはこの春新しいことにチャレンジする人へ向けて、東南アジアで見つけた挑戦と幸せの哲学をご紹介します。

第8章 挑戦の哲学

第3節 信頼関係のために(後編:「信じること」から「頼ること」へ)

(この記事は前回の続きになっています。バックナンバーからご確認いただけます。)

局所で現れる孤独にさいなまれていた私。そこに現れたのが、フィリピンからの学生でした。彼女は信頼を得るために、自分のプライベートを惜しげもなく公開し、懐をたっぷりと観察させていました。そうすることで、抵抗感を減らし、相手に一種の安心感を与えるのです。ですが、それも「信用」でしかありません。「信頼」であるには、「信じること」から「頼ること」への橋渡しが必要となります。

アンコールワットの前での集合写真

1歳にも満たない自らの可愛い子供を皆に自慢し、信用を得たところで、彼女が次に取った行動はとてもクリエイティブでした。文脈の外にあった情報を、今いる文脈に結び付けたのです。具体的に言えば、彼女は母親であるということを、面倒見が良い「わたし」という存在に読み替えて、自分のキャラクターを決定づけたのです。ここで彼女は、「子供の面倒を見る母親」と「身の回りをよく観察し、人に先んじて配慮を行う自分」をうまく重ね合わせ、自分の長所を人に理解させることに成功しています。実際にチームリーダーとして働く彼女はとても優秀で、リーダーとして適切に、チーム内の全ての人に気を配り、プロジェクトを前に進めていました。

そうして、彼女の周りの人々は(私も含めて)、彼女は周囲に気の遣えるタイプの人間であって、頼りになる存在だということを認識するのです。プログラムの間、彼女は終始「皆の姉さん」として慕われ、信頼される存在でした。

では、頼れるということが、配慮できるとか、気が遣えるということと同じなのかと言われれば、そうではないでしょう。「他者から頼られること」は、相手が自分の長所をしっかりと理解していること、相手がその長所を評価していることです。逆に言えば、頼るためには、相手の長所がしっかりと見え、さらにそれが自分、身の回り、社会にとって良いものだと自分自身で認められるものでなければならないということです。

チームメンバーとナイトマーケット

もう一度、彼女の行動を振り返ってみると、「信じること」から「頼ること」への橋渡しの意味が見えてきます。彼女は懐を開いて得た信用をもとに、それを現在の文脈――様々な国の人が集まるグループワーク――に転用しました。ただのプライベートの一面でしかなかった母親像を、チームリーダーとしてメンバーへ配慮できる「今ここにいる私」に拡張した、とも言えます。それは同時に、それが自分の長所であるとアピールすることでもありました。自分には何ができるのか、何が得意かを相手に知らせることで、「頼ること」を獲得したのです。信頼を得るとは、彼女の一連のこうした行動によってもたらされていたわけです。

さて、改めて「信頼」とは何だったでしょうか。「信じて頼りにすること」でした。そこには、①信じること、②頼りにすることという2段階の動きが見られますが、ここで重要なのは、どのようにして信じるか/信じてもらうか、さらに、いかにして「信じる/信じてもらうこと」と「頼る/頼られること」は繋がるか、の2つです。

前者について、彼女は自らのプライベートを共有することで信用を獲得していました。そして後者について、今度はその信用を「今いる文脈」に持って来て、長所として認識してもらっていました。相手が「わたし」の長所を知っているということは、「わたし」が役に立てる部分を相手が知っているということであり、相手は「わたし」を頼りにするということを意味します。したがってここに、信頼の構築を見ることができるわけです。

プログラム終盤にはダンス披露も

「信頼」を解体しながら、それを実際の体験から再解釈してきました。ここまでで、ぼやっとしていた「信頼」というものが、少しは掴み心地のあるものになれば幸いです。信頼関係を築くのが苦手という人も(実は私も)、この春は前回と今回話してきた内容をもとに、相手と向き合ってみると何か変わるかもしれません。

まずは自分からオープンに。それは必ずしもお喋りになれとか、積極的に話しかけろという意味ではなく、自分がコンフォートなレベルでちょっとプライベートな話をしてみるということです。正直に自分の弱い部分も晒してみる。そうしてある程度信用を得たら、今度はそれを自分の長所に繋げる。これも、お堅くて仰々しい(就活のような)「責任感があります」とか「負けず嫌いです」でなくても、相手を素直に褒められるとか、些細なことに感謝を忘れないとか、いつも笑顔だとか、そういった簡単なもので十分なはずです。たとえ「優しい」なんていうありがちなものであっても、それがプライベートと結びついている(つまり、「信じる」から「頼る」になっている)限り、説得力があります。

 

この春、これを読む多くの人が新しい出会いに前向きになり、そこで良い信頼関係が築けるよう、願っています。

市内をトゥクトゥクで走る

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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