読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第4節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第4節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第8章は「挑戦の哲学」と題してお送りします。新年度を控え、この春に卒業・進学・就職を迎える人、あるいはこの春新しいことにチャレンジする人へ向けて、東南アジアで見つけた挑戦と幸せの哲学をご紹介します。

第8章 挑戦の哲学

第4節 感情のフィルター

先日、パーソナリティテストを受けたところ、「感情を表に出さない」という診断結果がありました。確かに友人にはよく「何事にもクールだよね」と言われるので、あながち間違っていません。

感情を表に出さないことの良い点は、誰かを傷つける可能性を排除できることです。ふとした瞬間に表出してしまった正直な感情が、実は他人を傷つけていたということはよくあります。本当は思うところがあっても、ひとまず静かにしておく。そうすることで、誰かを不意に怒らせたり、悲しませたりしなくて済みます。

一方で、その癖がついてしまうと、ありとあらゆるものに蓋をしてしまい、感情の鋭敏さが鈍ってしまうことがあります。他人を傷つけないどころか、自分を奮い立たせたり、自分を愛するための感情にさえ慎重になってしまうわけです。

実は、私自身がそうでした。自分の思っていること、感じていることをわざわざ人に見せる必要はないと澄ました態度でいた私は、多くの感情を見逃していました。何かに感動することはあっても、それは決して人に見られてはいけない禁忌のようなものだったのです。やっと一人で噛みしめる瞬間が来ても、その感動はもはや蝋燭よりも頼りない光になっていて、その一瞬の残り火を大事にすることしかできませんでした。ところが、ネパールでその態度を猛省することになったのです。

一面の銀世界

それが起きたのは、山間部で珍しく降雪があった日でした。私が滞在していた標高2000メートルにある村では、雪が降ることは滅多にないのですが、異例の寒波がネパール全土を直撃した影響で、その日は朝から10センチ以上の積雪が記録されました。3月だったこともあり大した防寒着を持って来ていなかった私は、凍えるような寒さの中、バッグの底に眠っていたカイロを掘り出して、寒波が過ぎるのを今か今かと待っていました。アルプス山脈を真っ白な雪が埋める壮大な光景に目もくれず、ただ部屋に閉じこもっていたのです。

すると、外から子供の声に交じって、女性の声が聞こえてきました。最初は、子どもの雪合戦を大人たちが観戦しているだけだと思っていましたが、いざ外に出てみると、その逆なのです。子供が大人の本気の雪合戦を見て歓声を上げるという奇妙な情景に、私は目を疑いました。大の大人(言うなれば、「おばちゃん」たち)が、何の恥じらいもなく、ほとんど初めて見る雪を前に大はしゃぎで、雪を投げ合っている。洋服が濡れることなど気にも留めずに、ひたすら夢中で雪を手の中で丸めて投げているのです。

初めての雪

私は、なんと美しいのだろうと思いました。初めて見るものに興奮して、我を忘れて楽しんでしまうその正直さ。感情を押しとどめてしまうようなフィルターが一切なく、源泉から湯が溢れるように、ただ喜びだけが笑顔の端から流れ出ています。それは、まさしく私が見逃していた感情でした。生き返ったような感覚がし嬉しくなった私は、気づけば大合戦の中心で必死になって雪玉を投げていました。

集中砲火に遭って避難中

新しい生活が始まると、つい周りの事ばかりに気を配って自分を顧みることを忘れがちです。そのうちには、自分にとって大事な感情を蔑ろにし、空虚な心を抱えることになります。ネパール山間の村で雪合戦を心の底から楽しんでいた女性たちには、それを打破するマインドセットがあったような気がします。自分をウェルビーイングな状態にする感情にはフィルターをかけないで、そのまま表に出してみると、より「感情」というものの深さを実感できるかもしれません。

最後は皆で暖を取る

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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