新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
第9章は「人が去るということ」と題してお送りします。
新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。
この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。
第9章は「人が去るということ」と題してお送りします。
(このエピソードは、前回からの続きになっています。バックナンバーからご確認いただけます。)
「人が去っていくことは、必ずしも悪いことではない。それはときに、『心地よい別れ』であるから」。友人との正直な対話を通して、私はその事実を知ることができました。これだけでも、少なからず、私の人生は何倍も生きやすくなったように感じます。それでも未だに説明がつかないのは、私の中に確かにある「痛み」です。静かな悲しみが、内側から少しずつ「何か」を痛めつける感覚は、どうしても無視できません。
その正体は一体何なのか。「どうしてそうとわかっていても、僕の中には小さな悲しみがあるの?」私はそう友人に聞いてみました。すると、彼女は懇ろに聞き返します。
「それはどうして?」
「わからない。ただ悲しいんだよ。一度はとても仲良くしていたのに、今は完全に離れ離れになっているという状況に」
私は混乱していました。潔く、互いへのリスペクトから別れたのに、「一度は仲が良かった」という事実がむしろ私を苦しめているのです。過去の記憶を抱擁することで気持ちが楽になったのもつかの間、今度はその過去の記憶によって苦しめられているという皮肉。改めて、私が彼女と「友人」であることはいかにして可能なのかについての、合理的な説明を欠いてしまいました。既に悲観的になった私は、またしてもこう聞いてしまいました。
「どうして、僕らは友達同士だって言い切れるの?」
「友情は長く続くものだよ。愛ほど脆くない」
とても詩的で素敵な表現に思わず微笑んでしまいましたが、私はそれに納得できません。痛みは痛みです。そこにどんな綺麗な物語があっても、この違和感は無視できないのです。
そこで私は思います。彼女は、この関係性で私と同じ種類の痛みを抱えたことがないのではないか。だからこそ、「愛ほど脆くない」なんて、響きの良い表現で私の意図をかわそうとしているのではないか。すると、彼女は奇妙なことに、こう言うのです。
「私も多分同じように『痛み』を感じてたよ。でもむしろ、それが私たちが友達であり続ける理由にもなってる」
私は今にも、ワッと声を出しそうでした。「痛み」があるこそ、友達でいられる。考えたこともありませんでした。つまり、彼女は、気持ちよく別れたとしても、そこに「小さな悲しみ」や「痛み」があるのは当然で、むしろそれこそが「別れ」を気持ちよいものにさせ続けるために必要だと言うのです。
「つまり、その小さな悲しみが、君が僕と友達であり続ける動機になってる。そう言ってるんだね?」
「そう。だって、あなたはクールだし、私たちは良い関係性を築いているし、それに私はあなたと話してて心地よいもの」
私はこの瞬間に心から、「この人と友達でいて良かった」と思いました。「痛み」の正体は、何も「後悔」や「喪失」なのではなく、過去の思い出を確かに記憶していることの「証拠」であり、それこそが私と友人をつなぐ糸なのでした。なるほど私は、その痛みによって、彼女と共有した日々をその都度思い出しているのです。
痛みは痛みのままに受け入れて良い。そう気づいて、モヤモヤした何かから救われた心地がしました。人が去る。痛みを感じる。しかし、そのことが、私を前に進めている。思いもよらぬ幸福感を抱きながら、友人に対する、私に対する、あるいは生活すべてに対する確かな手応えを感じました。明日もこうして生きていく。痛みと共に。
今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
永島郁哉
1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。
——Backstage from “ethica”——
今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。
連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。
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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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