読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第1節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第1節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第10章は「雨ニモマケズ」と題してお送りします。

第10章 雨ニモマケズ

第1節 京都と雨

「雨ニモマケズ」で始まる宮沢賢治の詩。日本文学に馴染みのない人でもいくらか暗唱できる文学作品はそう多くはありませんが、雨ニモマケズは間違いなくその一つでしょう。

「雨」というのはどういうわけか世間の嫌われものであるようです。雨ニモマケズなんて言うくらいですから、ほとんど敵対していると言っても過言ではないかもしれません。そんなわけで梅雨というのは、世間の悩みの種、世の中の敵です。髪の毛が広がるとか、長靴が嫌いとか、そんな些細なことがきっかけとなって気分が落ち込む。ときには感情までもが湿ってしまって、日常生活に支障が出ることもあります。

確かに日差しの作り出す表情は何よりも素晴らしい

でも、雨の日にだって良い思い出はあるはずです。そういうものをほとんど葬り去ってしまって、雨=悪と決めつけてしまうのも、なんだか雨に失礼な気がしてきます。慈雨と思うか、陰雨と思うか。夏の香りを育む雨と見るか、陰気をもたらす雨と見るか。

今回の連載では、雨にちなんだエピソードを共有します。読者の方々に協力してもらい、雨の日に起きたあんなこと、こんなことを語ってもらう予定です。一連の記事を通して、皆さんにとって今年の梅雨が、例年のものと違って見えると良いな、と思います。それはつまり、雨の復権であり、雨の脱悪者化です。そうやって日常のウェルビーイングの総量が増えれば良いな、と思うのです。

そんなわけで、まずは私のエピソードから始めたいと思います。

私が「雨の日の良き思い出」として一番に思い浮かべるのは、14歳の夏、京都です。2泊3日の修学旅行。私は中学生です。盆地の京都は東京よりも暑く感じました。どうしてこんな暑いところに都など作ったのだろうか、などと取り留めのない疑問を抱きながら、市内の旅館に到着したのが初日。翌日は、タクシーを一日チャーターして主要な観光地をまわる予定でした。

ところが翌朝目覚めてみると、本降りの雨。軒から大粒の雨が滴り、あたりは水溜りだらけでした。送り出しの先生に玄関口で「雨、残念だねえ」と言われ、憂鬱だった私の心をさらに青色に染めます。清水寺から市内を見渡したり、鴨川沿いの茶屋でお抹茶を飲んだりすることを楽しみにしていた私にとって、思い描いていた観光の邪魔をした雨は憎むべき対象だったのです。

正午にかけて雨脚が強まりました。それにつれて、私たちの歩くペースも上がります。気づけば昼過ぎには、予定していた観光名所を全て訪れてしまいました。すると、タクシーの運転手さんがこう言います。「もう一個別のお寺に連れていってあげる」。そうして辿り着いたのは、聞いたことのないお寺(禅林寺永観堂)でした(中学生の私にとっては、清水寺と南禅寺以外は全て「聞いたことのないお寺」だったのです)。

南禅寺(当時の写真がないので、最近京都に行った際の写真を)

特に興味のない寺で降ろされて、観光してこいなんて、なんとも乱暴だなと思いましたが、特にほかにすることもないので境内をまわります。お堂のある建物に入ると、木の床がミシミシときしみ、それが自然と雨音に調和します。山の斜面に面して建てられたお堂には、長い階段があって、その先には見晴台の様な場所があります。水の滴る音と、床のきしむ音だけがこだまする空間で、私たちはその急な階段を静かに登っていきます。

見晴台にやってくると、途端に雨音が大きくなった気がしました。雨が葉の表面を打ち、石のざらざらとした肌を撫で、お堂の屋根を流れる音。どこかからほのかにお香の香りが漂ってきて、私たちの周りを包みます。耳の奥でザーという雨音が反響し、だんだんと音それ自体に奥行きが出てくると、それに反比例するように心の中に静寂が訪れました。水が高いところから低いところへ流れるように、ほとんど自然に私はそこに腰を下ろし、ただ雨が降るのを眺めていました。どのくらいそうしていたのかわかりませんが、その体験によって私の修学旅行はすっかり良い思い出になったのです。その雨の経験によって、です。雨の再評価。雨の復権。その原初的な体験はこの瞬間にあったのかもしれません。

見晴台からの景色(雲天時)

次回からは、読者の方のエピソードをご紹介します。皆さんの雨のお話、私自身も楽しみです。もしエピソードの共有をしたい方がいましたら、下記のethica編集部の公式facebookページよりご連絡ください。では。

永観堂近くにある石碑。「共に生きる」。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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