(第21話)森の恵みと人の暮らしを結ぶ家具職人【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」 山々に囲まれたのどかな八ヶ岳を巡りながら「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントを再発見
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(第21話)森の恵みと人の暮らしを結ぶ家具職人【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

山や森林に囲まれた八ヶ岳は、家具・木工職人が多いことでも知られるエリア。今回は、(第20話)でご紹介した幻の卵ブランドROOSTER」の徳光さんイチオシ!「自分らしく暮らすための道具」を制作する家具工房『好日工舎』代表の新海義行さんのインタビューです。木の魅力を活かし、人の暮らしと永く寄り添う家具や木工品には、自然に対する敬意がギュッと凝縮されています。70年以上続く老舗写真館に生まれ、家業を継ぐことも考えた新海さんが選んだ八ヶ岳の暮らしと、ものづくりへの思いを伺いました。

将来に対する、漠然とした不安から「木工の道」へ

30代で木工を学ぶために訓練校に通い、家具職人になることを決めた新海さん。八ヶ岳の仕事場で地場産の木々を使って家具を製作する

新海さんは東京都国分寺市出身。創業70年以上続く老舗写真館の次男として生まれました。家業を継ぐため、大学卒業後には撮影スタジオなどで修行を重ねました。一方で、デジタル技術の進化により写真業界にも変革が求められ、巨額の投資が必要な時期に差しかかっていました。そんなタイミングで2011年の東日本大震災が発生。将来に対する漠然とした不安を抱くようになったと言います。

「家業を継ぐことが当たり前だった環境の中で育ちましたが、このまま決められた人生を進むことに疑問を感じていました。自分は接客にはあまり向いていないんじゃないかと思ったこともあります。そんな中、時代の流れに左右されず、自力でできることを職業にしたいと考えるようになったんです。悩みながら見えてきたのが、子供の頃から大好きだった木工デザインでした」

30代半ばに差しかかった頃、木工の職業訓練校に通うことを決めた新海さん。1年間、カンナの刃の研ぎ方、木を切ったり磨いたりする機械の扱い方、木の種類や特徴、そして実際の家具制作に至るまで、木工職人としての技術と実践スキルを身につけました。訓練校を卒業後には先輩の薦めで有名家具の生産地として知られる九州・福岡にある家具メーカーに就職することを決めます。

「生活環境を変えるために心機一転、家族とともに九州へと引っ越しました。ところが就職した会社が2年足らずで倒産に追い込まれ、やむなく東京に戻ることに・・・。しばらく仕事先を探していたのですが、たまたま山梨県の八ヶ岳南麓にある家具工房ご縁があり、この地に移住するきっかけになりました」

八ヶ岳でも有名な家具工房で家具職人としての経験を重ね、その後独立。木工所や工務店からの仕事が急増し、北杜市白州にある広大なブルーベリーファームの一角に自身の工房『好日工舎』を構え、オリジナルの家具づくりをスタートしました。

子供の頃からDIYで何かを作るのが得意だった新海さん。お子さんが生まれた頃から、自らの手でちゃぶ台や小さな小屋をつくっていました。親戚や周囲からも、「家具つくるの、上手ね」「器用だね」と言われ、その腕前には定評があったそうです。

「好きなことをやって身を立てたい」。自分の将来と向き合う中で原点に立ちかえり、ここ八ヶ岳で家具職人として生きていくことを決心したのです。

奥さんの真理子さんは、当時をこう振り返ります。

「木工を仕事とすることに関しては、賭けみたいなところがありました。でも、自分の生き方に迷いながら、行き詰まったり悩んだりしている姿を見て、彼には本当にやりたい道に進んでほしいと心から思ったんです。私自身も、育児をしながら大好きな絵を教え続けてきました。将来への不安はありましたが、やりたいことや好きなことがあれば人生は必ず拓ける。そう信じることにしました」

20年間、絵画教室の講師としてデッサンや工作を教え続けてきたキャリアを活かし、現在も小淵沢・長坂・甲府などに多くの生徒さんを持つ真理子さん。新海さんの人生に寄り添ってきた良きパートナーです。

絵画教室の生徒さんに大好評。新海さんが制作したオリジナルのイーゼルは高さが自在に変えられる上に名前入り。使い勝手の良さが人気の理由

2014年に八ヶ岳に移住し今年で8年目。美大の版画家を卒業し、現在までたくさんの生徒さんに絵画を教える真理子さん

地元で育った木を家具として再生する「森林の循環」

2014年に家族4人で八ヶ岳に移住。森の新鮮な空気を全身で感受しながら、木と向き合う毎日が始まりました。

森林に囲まれた山梨は、高知・岐阜・島根・長野に次ぐ全国5位を誇る有数の森林県。県面積の約78%を森林が占め、日本の中でも緑に恵まれた資源豊かな地域です。しかし一方で、手入れが行き届かずに「荒れた森林」が増え、問題視されています。

「50〜60年ほど前に植えられた木の多くが伐採期を迎える時期に海外から低価格の木材が輸入されるようになり、国内産の材木が売れなくなってしまいました。結果的に植えた木の出荷量が減少し、木の伐採量も減って森林の荒廃につながっているのです。山梨でも製材品の出荷量が年々減少傾向にあると聞きます」

新海さんは同業の友人たち森林整備に関わる地元の林業事業者に声をかけ、伐った木を家具に活用しようと考えました。ヒノキや桜、ナラやクリなど、八ヶ岳周辺で伐採された質の良い木を買い取り、机や椅子、棚などとして再生。薪や木炭といった生活燃料の確保だけでなく、家具や道具としても木を利用すれば、「伐る→加工する→使う→育てる」という森林の循環にもつながります。

清里で伐採された桜材。桜はやや硬めで木目が詰まっているのが特徴。水に強く、箸やスプーンなどにも適した素材

「ここにあるのは清里で伐採された桜の木。コロナ禍が招いたウッドショックで輸入材がなかなか手に入らなくなり、価格も高騰している今は、逆に言えば国産の木を活用するチャンスでもあります。木材自体は九州と比べると量も少なく入手しにくいのですが、八ヶ岳は個人工房のメッカ。オリジナルの家具を作る作家の方が多い地域です。そんな同世代の仲間たちとともに、山梨産の木を使った家具作りにも取り組んでいます。我々職人が、もっと地元の木に目を向け、木の特徴を活かしたものづくりをすることが、“森の文化”を育むと同時に“木の文化”の活性化につながるのです」

昨年は、地元で伐採した木材を白州の製材所で角材や板材に加工し、長野の材木店で乾燥させるまでのプロセスができあがったと語ってくれました。そして、その木材が北杜市と湘南工科大学との連携プロジェクトによって考案された『電動アシストサイクル』の一部に採用され、話題に。

2023年、縄文遺跡群を巡る観光ツアーでの利用を想定し、現在実装試験が行われています。

八ヶ岳の木材に新たな息吹を吹き込み、暮らしに還元する

身延で採れたヒノキとスギで作った1-2歳用の『おままごとテーブル』は、地元の保育園児のために制作。スタッキングすればコンパクトに収納できる

子供用ベンチ。「傷や汚れがついても、それが木でできた道具の表情になっていくことを肌で感じてほしい」という新海さんの思いが込められている

この地に家族と暮らし、日々森を見ながら制作を続けるうちにだんだん木工への思いも変化してきたと言う新海さん。

「節や反りがなく、一級品と言われる見た目の良い木を使って高級な家具をつくるのも、職人の素晴らしい仕事です。その一方で、木が持つそれぞれの表情や質感など、自然の味わいを生かしながら生活に密着した家具や道具をつくることこそ、自分がやりたいことなんじゃないか。そう思うようになりました。八ヶ岳の木材に新たな息吹を吹き込み、暮らしに還元することで誰かの生活が豊かになる。そんな仕事に生きがいを感じます」

目指すは “なかとりもち”のような家具職人。森の木と使い手の間を取り持ちながら、自然と人の間をつなぐ仕事をしていきたいと考えています。

「目の前にあった木が、生活に必要な道具になったとき、“この木はもともとあの山に生えていたんですよ”と、胸を張って伝えたい。自然へのリスペクトを感じてもらえるような作品をつくりたいですね。木が育つ良い環境がなければ、僕らの仕事は成り立たないのですから」

地場産のヒノキを使ったマグカップやトレーを試作中。使うほどに愛着がわく土地の木を使い、県産の木材の魅力をもっと広めて行けたら良いと言う。「山梨の木ですか、良いですね、と言ってもらえる日がいつか来るように、八ヶ岳の木の魅力を発信していきたい」と新海さん

絵を通して生まれる心のつながり。木を通して生まれる人と人との繋がりを大切に育む二人。「ものづくりは自分が楽しんでこそ持続できるもの」。八ヶ岳が育む自然のペースに歩調を合わせ、マイペースでものづくりを続けたいと語る

最近、親しくなった地元の方から600坪の土地を購入したそう。そこに自宅と工房、ショールームを作る計画も進んでいると言います。真理子さんの絵画教室も併設し、家族も友人も、ものづくりに興味のあるたくさんの人が集まるスペースづくりの計画がスタート!山梨産の木材をふんだんに使い、2023年の完成を目指すと言うから楽しみですね。

新海さんの「私に良くて、世界にイイ。」こととは?

「新しい土地に建てる新たな拠点では、絵画を初め、周辺の子供たちに木工による道具づくりの楽しさを伝えたいと考えています」と新海さん。

「地元の資源を生かし、それを活用して出来上がった道具には、市販の工業製品にはない血の通った温もりがあります。本物の良さを知ること。それを自分の手でつくることは子供たちの未来に必ず役に立つ日が来るはずです。自然の循環を共有する場づくりが、いつか誰かの“良いこと”につながることを期待したいと思います」

好日工舎:山梨県北杜市白州町台ヶ原535(小林ファーム農園内)
https://koujitsu-kousha.com

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

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記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

ーーBackstage from “ethica”ーー

家具づくりの現場にも「地産地消」の流れが出来つつあることを教えてもらった今回の取材。国産材の活用は、森林の育成や保護といった観点からもとても大切です。日本には、秋田杉、木曽檜など、産地を冠とするブランド木材がいろいろありますが、世界有数の山岳地帯・八ヶ岳でもこの地域ならではの特性を生かす加工技術が発展すれば、新たな付加価値が生まれるはず。

ワインのテロワールのように、産地の個性を活かした山梨の木工品を世界へ。大きな未来へ続く小さな一歩を、私たちみんなで応援していきたいと思いませんか?

さて次回は、標高1150mの林の中にひっそり佇む工房と8坪の家に暮らしながら、繊細な器を作り続ける女性陶芸作家をご紹介します。八ヶ岳の自然が育んだ色彩と筆線の美しさはため息もの!お楽しみに。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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