読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第3節)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第3節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第10章 雨ニモマケズ

第3節 お天気屋のお天気

雨は、ある意味では、誰の上にも等しく降るわけですが、少し視野を広げてみると、世の中には雨の降る地域と降らない地域があることに気付きます。雨の降らない地域に暮らす人々にとって、雨は文字通り「恵みの雨」。今回エピソードを紹介してくれた読者の方は、雨の少ない地域出身だそうで、彼女のストーリーには独特の価値観が垣間見えます。

私の故郷は、雨のあまり降らない地域です。そこで暮らす人々にとって、雨は望んでも手に入らないもので、ひとたび雨が降れば、皆大喜びするのです。私の家族も、友人も、誰だって雨を見て笑顔になります。

そんな環境で、私は一人違っていました。どうしても雨というものが好きになれなかったのです。雨がお天道様からの恵みだとか、貴重な自然の資源だとか、そういうことはわかっています。でも、どういうわけか、空からお水が降ってきて、辺り一面を濡らしてしまうことに、「身勝手さ」みたいなものを感じてしまうのです。だから、雨が降るたび、私は気分が落ち込んでいました。

もし空の上に、天気をつかさどる存在があって、人々の日常を空の上から見守っているとすれば、私はもっと一思いにやってほしい、と思っていました。つまり、わざわざ思いついたように私たちの頭上に雨を降らさなくてもいいんじゃないか、ずっと晴れにしておいてくれと、そう思ったのです。

とある日、久しぶりに雨が降りました。

私はそのとき、居間のソファーで横になって、午後の気持ちいい陽気を楽しんでいました。周りの世界全体がまどろんでいくような感覚がし、温かい日差しの中でウトウトし始めたころ、不意に空が暗くなりました。私はなんだか嫌な予感がしました。悲劇が起こる前触れに黒猫が目の前を横切ったような、そんな感覚がしていたのです。

すると遠くから紙をこすり合わせるような音が聞えてきました。規則正しく、途切れのない、甲高い音です。そのうち、それはこちらに近づいてきました。同時に、周波数が下がり、また音の輪郭がはっきりとしてきます。ふと庭に目を向けると、花々が水滴に揺らされているのが見えました。地面には小さな染みがいくつもありました。「雨だ」と思いました。すると次の瞬間、大粒の雨が一気に降り注ぎ始めたのです。ものすごい音のせいで、私の眠気はすっかり吹き飛びました。

近くにいた母親に目を向けると、彼女は窓に顔を近づけて笑っていました。「久しぶりね」彼女はそう言いました。その声には嬉しさが混じっていました。私は少しだけイライラしながら、「私は雨が嫌い。だって、気分が落ち込むもの」と言いました。すると、彼女はこう言ったのです。

「お空にだって気分があるのよ。あなたが今落ち込んでるみたいにね。だから、何でもあなたの好きなように考えるんじゃなくて、お空にもちょっと休みをあげなくちゃね」

今思えば、彼女は皮肉っぽくそう言ったのかもしれません。でも、そのときは、不思議とその言葉が私を励ましました。そっか、お空も好き勝手に雨を降らせたりするんじゃなくて、私たちと同じように、笑ったり、怒ったり、悲しんだりする中で、それが雨となって私たちを濡らすんだ。そう思ったのです。

それから、私は雨で落ち込むことはなくなりました。それから雨のたくさん降る地域に引っ越したりしましたが、それでも私は決して雨を嫌いになることはありませんでした。私は今でも、雨に関する考え方をまるっきり変えてくれた母に感謝しています。

雨と人の関係。雨と場所の関係。その独特の様相が生き生きと見えてきます。彼女の雨とのコミュニケーションは、どこか私たち自身のウェルビーイングとも関わっているような気がします。すなわち、他者の感情を推し量ること、共感すること、それによって自分自身の感情と上手く付き合うことを可能にするコミュニケーションの形です。

雨と上手く付き合う方法は、空の擬人化なのかもしれません。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【ethica Traveler】 連載企画Vol.6 宇賀なつみ (第5章)ゴールデン・ゲート・ブリッジ
独自記事 【 2024/3/27 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
そろそろ知っておかなくちゃ! 水素のこと。森中絵美(川崎重工)×中村知弘(UCC)
sponsored 【 2024/3/26 】 Work & Study
2023年の記録的な猛暑に、地球温暖化を肌で感じた人も多いだろう。こうした気候変動を食い止めるために、今、社会は脱炭素への取り組みを強化している。その中で次世代エネルギーとして世界から注目を集めているのが「水素」だ。とはいえまだ「水素ってどんなもの?」という問いを持っている人も多い。2024年2月に開催された「サステナ...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】連載企画Vol.4 宇賀なつみ (第3章)アリス・ウォータースの哲学
独自記事 【 2024/2/28 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【ethica Traveler】連載企画Vol.3 宇賀なつみ (第2章)W サンフランシスコ ホテル
独自記事 【 2024/2/14 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.2 宇賀なつみ (第1章)サンフランシスコ国際空港
独自記事 【 2024/1/31 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

ウェルビーイングな旅行体験をお届けする「エシカ宿泊プラン」事業をスタート
【あむんが行く!第4話】スマイルズが開催する蚤の市「PASS THE BATON MARKET vol.7」体験レポート

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます