読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第5節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第10章:雨ニモマケズ(第5節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第10章 雨ニモマケズ

第5節 雨と浄化

なんだか今年の梅雨は雨が少ない気がします。日常生活を送る上では快適で良いのですが、この企画を進める上では少しだけ都合が悪いでしょうか。

ところで、読者のみなさまは、どのくらい雨が降ると傘を差しますか? ほんの小降りでも差す人、本降りまでは差さない人。いろいろなタイプがいるでしょう。私は傘を持ち歩くのが嫌なので、ほとんど意地みたいに傘を持ち歩きません。おかげで、濡れて帰ることはしょっちゅうですが、まあそれを大して気にすることもありません。

なんだか雨に濡れると浄化されたような気になる、という理由もあるかもしれません。悪いものが洗い流されて、新しい自分になる、とまでは言いませんが、雨が上から下へ流れていくことに神聖な雰囲気を感じたことのある人は少なくないかもしれません。

今回紹介するエピソードは、そんな雨の浄化効果についてです。

「最近、祖母を亡くしました。祖母はとても強い人でした。戦後の混乱期を生きた世代だからか、祖母が苦労の多い人生を送ってきたからなのか。どうであれ、私にとって祖母は常に凛と構えているような人だったのです。

祖母が亡くなったという知らせを受け取ったとき、私は祖母からはとても遠い場所にいました。これだけ高速通信が発達しても、物理的距離というのは、ときに大きな意味を持ちます。亡くなる瞬間に、そこからとても離れたところにいたことを私は少しだけ後悔していました。

それからすぐにお葬式の連絡があって、私は祖母の家へ行きました。その日は青天でした。葬式それ自体に含まれるもの悲しさをまるで打ち消すかのような青空と太陽に、私は一体どういう気持ちでいれば良いのかわからなかった、というのが正直な気持ちでした。

そこで母と合流して、祖母が亡くなったときのことをいろいろと聞きました。その中で、母は『今日は晴れて良かったね』と言うのです。私は『なんで?』と聞き返しました。母の言葉には、『外で待ったり、並んだりするこの日に、雨が降らなくて良かった』という単純な意味以上の何かが含まれている感じがしたからです。すると母はこう言います。

『おばあちゃんが亡くなった日、すごくたくさんの雨が降っていたのよ。だから、お天気に呼応してってわけじゃないけど、その日はみんなとても悲しんだの。悲しみの雨ってまさにこれか、っていう感じで。でも、今日晴れてみて気づいたのは、あの日雨が降ってくれたおかげで、お母さんも含め、みんながおばあちゃんにお別れできたのかもしれないってこと。だから、あの日の雨は私たちにとっては必要だったし、今日の晴れのためには必要なものだったんだって確認できたのよ』

私はこの瞬間にやっと、祖母の死を受け入れることができたような気がします。雨のおかげで、私たちは祖母の死に向き合い、悲しみ、そして次に進むことができる。あの日の雨が、暗く、陰鬱な雰囲気をもたらすと同時に、それらを洗い流してくれたのだ、と。今日の青天はあの日の雨によって支えられ、またあの日の雨は今日の青天によって支えられているのだと感じました。それから私にとって、雨は何かに向き合わせ、そして克服させるような、潔い存在になっています。」

多くの文学作品でも、雨は常に死と結びつけられて解釈されてきました。ところがそこに、浄化の機能を見出すこのエピソードはとても興味深いものです。「正-反」を超えた「合」の提示、極めて弁証法的な雨の転換が起こっている、と言えるでしょう。

雨によってもたらされる何か。雨によって洗い流される何か。そういうものに目をこらしてみると、私たちと雨の関係は自然と変わってくるのかもしれません。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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