(第23話)K2登頂!夢を追いかけて世界最難関の山へ ー前編ー 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」 山々に囲まれたのどかな八ヶ岳を巡りながら「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントを再発見
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(第23話)K2登頂!夢を追いかけて世界最難関の山へ ー前編ー 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

主峰・赤岳をはじめ、硫黄岳や天狗岳など個性的な山々が連なる八ヶ岳。初心者から上級者まで楽しめる“遊び場”が満載の日本有数の山岳エリアです。そんな八ヶ岳をホームグラウンドに、登山ガイドとして活動中の林恭子さん。2018年には、エベレスト(8848m)に次ぐ世界第2位の高峰、K2(ケイツー・8611m)登頂成功という輝かしい記録の持ち主です。

実は林さんがはじめて山に登ったのは2011年、40歳の時。健康のために山登りを始め、わずか2年後にネパール・ヒマラヤへ、さらにその4年後には世界最難関と言われるK2の山頂を目指しました。目標達成のために全力で前進し続けた林さん。

今回は、前・後編の2話にわたり、林さんの挑戦の軌跡をたどります。

健康のために始めた初登山が人生のターニングポイントに

初心者から上級者まで、誰もが楽しめる魅力いっぱいの八ヶ岳で登山ガイドとして活動中の林さん。写真は北八ヶ岳の苔の森観察ツアーの時のもの

赤岳を主峰に、編笠山、西岳、権現岳、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳、天狗岳と2500m前後の山々が南北に連なる八ヶ岳。神秘的な雰囲気の原生林や池沼、貴重な動植物が多く生息していることでも知られています。

そんな八ヶ岳に魅せられ、2019年に東京から八ヶ岳南麓に移住した林さん。この地を拠点に登山ガイドとして活動しています。

 

「八ヶ岳はホームグラウンドのような存在。学生時代からアルバイトなどで何度となく訪れた思い入れのある場所」と言います。その魅力について伺うと、

 

「初心者から上級者まで、登山の醍醐味が味わえる場所があちこちにあるのが一番の魅力ですね。森を歩きながら自然を満喫したいという散歩レベルのトレッキングから、ちょっとドキドキするような、鎖(くさり)場やハシゴが設置された岩場もあって、ルートも多彩でバリエーションが豊富です。テントや山小屋に宿泊して最高峰の赤岳(2899m)に登るといった冒険登山も可能ですし、目的にあった登山がいろいろ楽しめます。遊び場としてこれ以上のところはないと思います」

 

山をこよなく愛する林さん。実は、登山デビューは40歳の時。東京の大学院を卒業後、フリーランスでイベントの企画・運営、映像の仕事などに携わり、多忙を極めて体を壊したことがきっかけでした。

「当時は自分の体のことなど考える余裕もなく、来る仕事来る仕事やれるだけやっていました。ある日、ついに過労で倒れ、病院に担ぎ込まれたのです」

 

そんな林さんを心配した友人にすすめられたのが、登山でした。

「健康のために、山登りでもしたら良いよ」。

そう言われ、さっそくスポーツショップで登山靴と雨ガッパを購入。店のスタッフの方のアドバイスで、日本百名山の一つにも数えられている東京の最高峰「雲取山(2017m)」に登ることを決めます。

登山は全くの初心者でしたが、軍手や紐、ビニール袋など、家にあるもので山登りの役に立ちそうなものをリュックに詰めて出かけました。

雲取山への初登山で使用した靴とリュックと懐中電灯。軍手やビニール紐、ビニール袋も山登りで大活躍

「2011年の3月6日でした。東京は春めいてそろそろ暖かくなるという頃でしたが、何と山はまだ雪に覆われていたのです。登山道は途中からツルツルのアイスバーンで、降りてくる人に、“そろそろアイゼン(靴に装着する金属の滑り止め)を着けたほうが良いよ”と言われたのですが、“アイゼン”という単語さえ知りませんでした。そのくらい登山に関しては無知だったんですよ」

 

案の定、少し進むといきなり地面がツルツルに。斜面もきつくなってきました。滑って転ばないようにと持ってきた軍手を取り出し、四つん這いになって岩や草を掴みながら必死に登って行ったそうです。

「途中、足が痛くなってきた時は地面の氷をビニール袋に詰めて足を冷やしたり、汗で濡れたTシャツをビニール紐でリュックにくくりつけて乾かしたりしながら、とにかく必死で登りました」

 

ひたすら歩き、やっとの思いで山頂にたどり着いたその時、一気に視界がひらけたのです。

「真っ青な空。その向こうに真っ白な富士山がドーンとそびえ立っていました。いろんな準備や工夫をしながら、自分が持ってきたものだけで登頂できたことがすごく嬉しくて、感動で胸がいっぱいになりました」

静寂の森で聞こえる鼓動に「命」を実感。初登山の感動が「挑戦」の原点に

雲取山の頂きから望む富士山。真っ白な雪と青い空とのコントラストが感動的

すぐ目の前を通り過ぎるウサギや鹿たち、鳥の声だけが聞こえる森の静寂。

コンクリートに囲まれた都会でがむしゃらに働き続けた林さんにとって、それは新鮮な驚きでした。

「静まり返った山を登っている時、心臓の音が生々しく聞こえてきたんです。それまで自分の鼓動を意識したことなどなかったけれど、私はいま生きているーー。ふとそう思ったんですよ」

 

仕事の悩みも体をこわした時の苦しさも忘れ、自然の中で過ごした子供の頃の原体験が蘇ってきたと言います。

 

「目の前の鹿やウサギたちと同じ、名もない“自分”がそこにいました」

 

都会でフリーランスとして働く中では、みんなに“私の名前を覚えて欲しい”、“これは私がやりました”と自信をもって言える作品をどんどん積み上げたい。そんな欲もあったと言います。自分の居場所がなく、生きづらさを感じたことも。

 

「私はただひとつの生き物であるだけでいい。もう何もいらないや」

心地良い爽快感と不思議な高揚感に包まれながら、「また登りたい!」という熱い思いが込み上げてきました。

究極のマインドフルネス!私の居場所が「山」にはある

以来、山に登ることが林さんの生活の中心になりました。百名山をはじめとする日本国内の山々に次々と登り、登山学校にも通うようになったのです。

そこで出会った著名な登山家の先生の一言が林さんの胸に深く刺さりました。

「山はいつでも誰にでも平等。誰に対しても同じ厳しさをあたえ、それをクリアする準備をして望めば、老若男女問わず同じ美しさを見せてくれる。」

 

「私の居場所が、山にはある」。そう実感した林さん。登山への情熱はさらに高まり、ネパール・ヒマラヤにも早い段階で登ることになります。

登山学校の先生にネパールのエージェントを紹介してもらい、現地のシェルパ※2名とともに6000m峰を目指しました。初登山からわずか2年後、2013年のことでした。

※エベレスト南麓の高地に住むチベット系ネパール人。ヒマラヤ登山の案内人。

この絶壁をアイゼンと手袋だけで這い上がる。まさに命懸けのヒマラヤ登山

心優しく、そしてたくましいシェルパと登ったピサンピークで「究極のマインドフルネス」を体験!

「ネパール・ヒマラヤ中央部にあるピサンピーク(6,091m)に登りました。岩壁をアイゼンと手袋だけで這い上がるというはじめての体験もあって。次の一歩のことだけしか考えない。それを無心で積み重ねた先に、“着きましたよ”と言われて顔を上げた瞬間、目の前に広がる山頂の景色…。もう、究極のマインドフルネスです!」

 

それまでの人生の中で一度も出てきたことがなかった「ヒマラヤ」という名前。少し前まではまるで違う世界で生きていた林さん。「未来のことは誰にも予測できない。だからこそ今を精一杯生きよう」と思いました。

 

「私はもっと登りたい。登り続けたいーー」

 

ヒマラヤ登頂を成功させた林さんは、帰国後、新たな挑戦へと思いを馳せるようになります。「シェルパのように、次は自分の力で登ってみたい」。

憧れを抱いたのが、世界最難関と言われる8611mの高峰「K2」への登頂でした。

写真提供:本人  / ウェア提供:Marmot

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

林 恭子(はやし きょうこ)さん:プロフィール

奈良県出身。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ取得。2011年に初登山。2013年、ヒマラヤ・ピサンピーク登頂。2018年K2登頂。登山ガイドや登山学校講師の他、映像制作も手がけ、2013年にはカンボジアの子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー番組がギャラクシー賞選奨を受賞。以来、アジア、アフリカなどの貧困地区で生きる子どもたちを訪ねるフィールドワークと番組の制作を続けている。2022年全米ヨガアライアンスRYS500取得、全米ヨガアライアンスキッズヨガRYS95取得、八ヶ岳の自宅スタジオにて「八ヶ岳ヨガスクール」を運営。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

ーーBackstage from “ethica”ーー

長い間、フリーランスとして仕事を続け、自分の居場所がなくてストレスを感じることも多かったという林さん。今、林さんと同じように、どこかで「生きづらさ」を感じている人も多いかもしれません。そんな時にも、自分がやりたいこと、好きなことがあれば世界はどんどん拓けていくに違いありません。人生は、何が起こるかわからない。だから面白いと林さんは言います。

林さんの挑戦はまだまだ続きます。後編では、いよいよK2登頂を目指します!

LINE公式アカウント
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私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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