パネルディスカッション「グローバル企業に学ぶサステナブル・ビジネスの実践法~課題を乗り越えるための方策とは」 フィリップ モリス ジャパン・濱中祥子さん
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パネルディスカッション「グローバル企業に学ぶサステナブル・ビジネスの実践法~課題を乗り越えるための方策とは」

2月19日・20日、パシフィコ横浜で開催された「サスティナブル・ブランド国際会議2020横浜」(SB 2020 YOKOHAMA)では、2日間にわたってさまざまなトークセッションやパネルセッションが行われ、社会課題を解決するための多くの貴重な提言が示されました。その中で、パネルディスカッション「グローバル企業に学ぶサステナブル・ビジネスの実践法~課題を乗り越えるための方策とは」にパネリストとして登壇されたのがフィリップ モリス ジャパンの濱中祥子さんです。一見、サステナブルとは全くの対極にあり、サステナブルについて語ることができるのかと思われがちなたばこ会社が、今何を考え、何を目指しているのか、濱中さんの発表に耳を傾けてみました。(記者:エシカちゃん)

私たちフィリップ モリスは、たばこをビジネスにしている会社です。たばこには本当にいろいろな意見が寄せられます。今、この会場の中にもたばこを吸われる方もいれば、非喫煙者の方で、たばことは全く縁がなく、むしろ、たばこの煙を避けている方も少なくないと思います。

私自身、この会社に入る前はたばことは縁がなく、喫煙をしたことも一度もありません。ただ、身内や知り合いには喫煙者がいて、漠然と健康のことを考えて、止めてくれたらいいのに、と思うこともありました。

喫煙というのは、たばこの葉を乾燥させて刻んだものを紙に巻いて、これに火をつけて燃焼させることによって生じる煙を吸う行為です。この煙には様々な有害物質が含まれており、喫煙関連疾患と呼ばれる重大な病気の原因になります。私たちが扱っている製品は健康に害があるということを最初にお話しすることは、サステナビリティを語る上で非常に大事だと思っています。

企業のサステナビリティを考える上では、自社が社会に与えているインパクトがどういうものか、どういう問題であれば解決の一助を担えるのかを理解することが重要だと思っています。

喫煙の健康への悪影響は、当社が社会に与えている最大のインパクトで、その事実を認識することから当社のサステナビリティが始まります。

今も申し上げたように、喫煙は害のある行為で、今たばこを吸っていない人はこれからも喫煙しないことが一番です。喫煙を始めないことでしか喫煙関連疾患のリスクを完全に避けることはできません。

そして、すでに喫煙をしている人は禁煙することが最善の選択肢です。これは何回もお聞きになった話だと思いますが、お伝えし続けていく必要のある事実です。

一方で、WHOが発表した今後の喫煙者数の推移では、2025年になっても世界中で10億人以上の人が喫煙を続けるだろうといわれています。今後も喫煙という問題はすぐになくなるものではないというこの現実を、私たちはしっかり見つめなければならなりません。

そこで、フィリップ モリスは4年ほど前から、この問題に真正面から取り組むために紙巻きたばこの製造と販売を1日も早くやめることを目指すという姿勢を打ち出していきました。

しかし、私たちが「明日たばこの製造と販売をやめます」と言っても、私たちだけがたばこを販売している訳ではないので、世界から喫煙者がすぐにいなくなるとは考えづらいでしょう。では、今私たちは喫煙問題に対して何をできるのか。フィリップ モリスが選んだアプローチは、紙巻きたばこを吸っていてこれからもたばこを吸い続ける意志のある成人喫煙者に、紙巻きたばこと比較してよりよい製品を提供することです。

吸わない人は吸い始めない。喫煙している人は禁煙する。喫煙していてやめる意志のない人たちには健康リスクが少なくなる可能性のある、新しい製品に変えていただく、それを願ってビジネスを展開しています。

長年の研究から、紙巻たばこを燃やすことによって発生する物質が喫煙関連疾患の主な原因になっていることがわかってきました。そこで、フィリップ モリスでは、紙巻たばこの代替品となる燃焼を伴わない製品の研究開発に励んできました。

しかし、製品を開発しただけでは問題の解決にはなりません。どんなにリスクが低い製品を作ったとしても、こういった製品に成人喫煙者が切り替えなかったら、×(かける)ゼロでその答えはゼロになってしまうからです。

ですから、もう一つの大切な要素は、成人喫煙者が切り替えてもいいと思える製品であること。この二つの要素を満たす製品を、長年をかけて研究開発してきました。フィリップ モリスでは、自分たちが売っている製品そのものを変革しながら、事業自体を変えていくという挑戦を行っている真っ最中なのです。

フィリップ モリスが行っている事業変革の目標についてお話しします。

私たちはWHOが発表した推定喫煙率を参考にして、フィリップ モリス インターナショナルの消費者数の推移を予測しています。

喫煙に関する規制は今後もどんどん厳しくなっていきます。こうした厳しい規制で1500万人の当社製品喫煙者が禁煙すると予測しています。それを補完する形で、さらに4000万人の喫煙者の燃焼を伴わず、煙の出ない製品への切り替えを目指しています。

フィリップ モリスは、製品自体を変えて、紙巻きたばこの煙のない社会へと事業変革を進めています。ただし、当社のサステナビリティはこの事業変革にとどまるものではありません。

たばこを作るためには、長いサプライチェーンが必要になります。たばこ葉の調達から、消費後の製品の廃棄物処理まで広範囲に及びます。当社の活動はこのように社会全体に深く関わっているので、事業変革が社会や環境に悪影響を与えないように配慮することも私たちのサステナビリティの大切な一部です。

「事業変革」、「公正な事業慣行」、「人と地域への貢献」、「環境負荷低減の取り組み」の4つの柱に沿って、課題に優先順位をつけています。どの分野に取り組むことで当社が一番大きなインパクトを持てるのか、社会の期待はどこにあるのかを常に考えながら、必要に応じて見直しながら優先順位を決めています。

次に日本の話をさせていただきます。

私はフィリップ モリス ジャパンという、日本にある法人で働いていますが、日本には当社が契約しているたばこ葉の農家はありません。そして、日本では製造を行っていませんので、工場もありません。

日本市場での私たちの主な活動は、製品の販売促進です。さらに、日本では加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」というブランドで煙の出ない製品を販売していますが、実は、フィリップ モリス ジャパン全体の収益の50%以上がこの製品からきているほど、加熱式たばこが喫煙者に受け入れられつつある市場になってきています。2018年3月時点の古いデータですが、ユーザーは540万人以上に達していて、この数はさらに増え続けていています。

こういった特徴を持つ日本で何をすることがフィリップ モリス全体のサステナビリティに貢献し、ひいては社会全体の課題解決につながっていくのかということを考えて、私たちは昨年2019年に日本独自で取り組むべき優先課題を策定しました。

課題の優先順位を特定するために、当社のフットプリントの現状を把握し、社内外のステークホルダーにインタビューを行い、私たちに対する期待を調査しました。

さらに、日本という国は独特な文化を持っていたり、SDGsに対していろいろな課題を抱えたりしています。そうした文化的背景、社会的背景も視野に入れつつ優先課題を特定し、2019年の11月にレポートという形で発表しました。

最初に申し上げた通り、当社が社会にもたらす一番大きなインパクトは、製品の健康への悪影響です。ある意味、ここまで分かりやすいインパクトを持っている会社は少ないかもしれません。

たばこ会社がサステナビリティを語ることができるのかということに疑問を持つ方もいらっしゃると思います。しかし、私たちは喫煙の害という現実を直視し、日本市場でものグローバルでも、自分たちがどこにインパクトを持ち得るのかを認識しながら、そしてステークホルダーの皆さまの意見を聞きながら、一歩一歩前に進んでいるところです。たばこ会社にも問題を解決するために担える役割があるはずだと信じています。

日本のサステナビリティに関する取り組みはまだ走り出したばかりです。今後も様々な方と意見交換をしながら前に進んでいければいいなと思っていますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

フィリップ モリス ジャパン 濱中祥子

法政大学法学部で国際政治を学ぶ傍ら、一年間、UC Davisに留学。一橋大学大学院社会学研究科では日本におけるフィリピン人女性移民とその家族の市民権に関する研究。卒業後は外国語での広報活動を専門とする代理店に入社。2015年5月にフィリップ モリス ジャパンに入社。フィールドセールスを経験。2016年1月からコーポレート・アフェアーズで渉外を担当。2019年5月からコーポレート・サステナビリティの担当に着任して今に至る。

記者:エシカちゃん

白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

エシカちゃん

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