言葉の壁を越えて
本連載「国木田彩良−It can be changed.」のスタートにあたり、最初にテーマとともに問題に挙がったのが、言語でした。国木田さんが、自分の意思をもっともストレートに伝えられるのは、母国語のフランス語。けれど、それが翻訳によって、自分の意図と異なる伝わり方をすることを危惧してもいました。そして最終的に「日本の読者に向けた発信は、日本語で」という結論に至ったのです。
初回の収録を開始してすぐ、私たち編集部は正直なところ、言語問題については国木田さんの杞憂だったのではと思ってしまいました。国木田さんの語彙力は、日本に移住して5年とは到底思えないほど豊富で、知性にあふれていました。それでも時折、国木田さんはもどかしそうに、英語を交えて何度も言葉を言い換え、捕捉をしながら、2時間ほぼノンストップで話し続けました。国木田さんの思慮深さ、そして、一途さ。私たちはそこに、日本人的な完璧主義と、欧米で培われた果敢なチャレンジ精神の双方の間で揺れるひとりの女性を見ました。
本連載は、最終的に5時間を超えるインタビュー収録を再構成しています。できうる限り丁寧に、国木田さんの言葉を拾っていったつもりですが、ときにウィットに富んだジョークを交えつつ、真剣な眼差しで私たちに語りかける国木田さんの気迫や熱量を、ここにお伝えしきれないことを歯がゆくも感じています。いずれまた、今回ご紹介できなかった国木田さんの思想を発信する場を設ける機会があることを、私たちは願ってやみません。