八ヶ岳南麓の森の中。山梨県北杜市に、また一つ、注目のショップが誕生しました。沖縄で、カフェ併設のセレクトショップを15年間運営していたご夫婦が、2023年1月にこの地で新生活をスタート。「リジェネラティブ」をテーマに、コーヒーと焼き菓子、食品や雑貨類を展開しています。森の中に佇むタイニーハウスが目を惹き、地元の人はもちろん、県外からもお客さんが訪れる人気店です。今回は、小さな店内に夢がぎっしり詰まった『CAMI LOTA(カミロータ)』を取材しました。

八ヶ岳南麓の森の中。山梨県北杜市に、また一つ、注目のショップが誕生しました。沖縄で、カフェ併設のセレクトショップを15年間運営していたご夫婦が、2023年1月にこの地で新生活をスタート。「リジェネラティブ」をテーマに、コーヒーと焼き菓子、食品や雑貨類を展開しています。森の中に佇むタイニーハウスが目を惹き、地元の人はもちろん、県外からもお客さんが訪れる人気店です。今回は、小さな店内に夢がぎっしり詰まった『CAMI LOTA(カミロータ)』を取材しました。
林に囲まれた川沿いの小径を進むと、ふと目に止まるタイニーハウス。
明るいカラマツの外壁とシンプルなトレーラー風の外観に惹かれ、「何だろう」と、思わず立ち寄ってしまいます。
実はここ、2023年1月にオーナーご夫婦の上月太郎(こうづきたろう)さんとミカさんがスタートさせたコーヒーと焼き菓子の店『CAMI LOTA(カミロータ)』。
駐車場の入り口には、『CAMI LOTA(カミロータ)』のサイン。店名は、オーナーの上月太郎(こうづきたろう)さんと美佳さんの名前に由来
店内では、自然環境に配慮した農法で育ったコーヒー豆を使用したコーヒーと、地元産の玄米粉を使ったヴィーガン仕様のマフィンやキャロットケーキなどが楽しめます。ミカさんが毎朝店内で焼き上げるお菓子と、淹れたてのコーヒーの深い味わいがSNSで話題となり、県外から訪れる人も少なくありません。
“リジェネラティブ(regenerative)”をテーマに、素材を厳選し、体にも環境にも優しいものを提供するというのがカミロータのコンセプト。
リジェネラティブとは、環境再生を意味し、自然の生態系の回復を目指して地球のバランスを保とうという考え方です。
環境問題の原因をつくらない、地球に優しく持続可能な脱炭素型生産方式として、「リジェネラティブ農業」という言葉を耳にしたことがある、というエシカ読者も多いのではないでしょうか。
天井が高く、機能的に設計されたカミロータの店内
カミロータでは、リジェネラティブ農法によって育てられ、焙煎された希少価値の高いコーヒー豆も扱っています。
米国Overview Coffeeの日本初の焙煎所である『広島の瀬戸田ロースタリー』のコーヒー豆。健康な土壌を構築するリジェネラティブ・オーガニック農法を支援することで、コーヒーの栽培を通じて気候変動問題の解決に寄与していくことをミッションに掲げる
徹底したリジェネラティブ・オーガニックで知られる米国Overview Coffeeの日本初の焙煎所である『広島の瀬戸田ロースタリー』、そして日本のスペシャルティコーヒーの草分け的存在『ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)』の豆などは人気が高いのだとか。
いずれも生産者の生産状況を把握しながら、トレーサビリティとサステナビリティを重視した運営を行っていて、コーヒー通の間ではよく知られた存在です。
人にも環境にも配慮したリジェネラティブなコーヒーと好相性なのが、美佳さんが焼き上げるヴィーガン玄米マフィン。安心・安全、地産地消を意識して毎日店内で手作りしています。
そのラインナップは、コーヒー&クランベリーやサツマイモ & マッチャ、ルバーブ & ココナッツ玄米マフィンという具合に、その時々でさまざまな種類が登場。
安全・安心な美味しさを求めて多くの人が訪れる。玄米マフィンは週替わりでさまざまな種類がお目見え
「オーガニック、国産、ローカルの原材料にこだわり、身体に優しい旬の食材を使っています。長野の農家さんが作られた玄米粉を使ったマフィンは、食べ応えがありつつも消化が良いのが特徴です」と美佳さん。
グルテンフリーなので摂取カロリーを抑えたい人やお子さんのおやつなどにも最適。週末にはあっという間に売り切れてしまうこともあるそうです。
実は、カミロータを始める前、二人は沖縄・石垣島で15年間カフェを併設するアパレル系のセレクトショップを運営していました。
太郎さんの知人が沖縄でお店を始め、2号店を石垣島に出す時に「ここをやらないか」と、声をかけてくれたのがきっかけだったとか。
二人が石垣島で15年間営んでいた『MAHINA MELE(マヒナメレ)』。併設のカフェ『Lino Coffee&Espresso』(画像提供:CAMILOTA 撮影:Ko Tsuchiya)
島内初のセレクトショップとして2007年にスタートした『MAHINA MELE(マヒナ メレ)』は、環境に配慮した雑貨やオリジナルグッズを展開し、地元の人からも観光客からも愛されていました。しかし、2020年のコロナ禍をきっかけに、惜しまれながらやむなく閉店。
「コロナ禍で人が呼べない時期が続き、今後の事業や人生設計について見つめ直すようになったのです。会いたい人に会いに行くこともできない状況の中で、自分たちが本当に求める暮らしとは何か、二人で何度も話し合いました。結果的に石垣島を離れ、新天地で事業を再スタートすることを決意しました」(太郎さん)
千葉、埼玉、群馬など、いろいろな場所を探して回った末に出会ったのが、八ヶ岳南麓の土地だったのです。
店の敷地の奥には小川が流れ、その奥には森が広がる。期間も空気の流れもゆったりとした自然環境
「それまで海に囲まれて過ごしていた私たちにとって、木々に囲まれた自然環境はとても新鮮でした。二人ともいいね!って、直感でそう思いました」(美佳さん)。
「もともと関東出身でしたし、家族がいて取引先の企業もあって、自然溢れた八ヶ岳は、理想的な生活の場でもあり、この土地と出会ってすぐに購入を決めました。迷いはありませんでしたね」(太郎さん)
2022年1月に石垣島の店舗をクローズすると、同年3月、二人はここ山梨県北杜市に移住しました。
海から山へ。180度環境が変わる中、全てが順風満帆だったわけではなかったようです。最初は思わぬピンチに見舞われたことも…。
「沖縄から八ヶ岳への移住・移転は予想以上に大変なものでした。当初描いていた計画は二転三転してしまいましたが、友人が紹介してくれたタイニーハウスが、一条の光となりました」と太郎さん。
固定概念にとらわれない新しい生き方と今の生活スタイルに、想像以上の満足感を感じていると言う
八ヶ岳でタイニーハウスを手がける『ツリーヘッズ』の代表、竹内友一さんと出会いも、二人の背中を押しました。
タイニーハウスの魅力は、シンプルに暮らせること。自分に必要なものは何かを見つめ直し、人生の変化にも対応できること。どんな未来がやってくるかわからない今の時代、短期的な結果だけを求めず、ちょっと先の未来を見据え、個性豊かな暮らしを応援したい。
そんな竹内さんの考え方に賛同した二人。小さなスペースを活かし、余計なものを排除したタイニーハウスという形態で、人生の再スタートを切ることを決めました。
もともと広いお店をやっていたので、最初はどうなるのか想像もできなかった二人。結果的に沖縄のお店の10/1にリサイズされたけれど、内容的に満足度は高まったそう。
まるで秘密の基地のようなワクワク感。仕事・生活・趣味の垣根を超えた豊かな暮らしへの期待…。今までの概念にはとらわれない新しい生き方を、ミニマルな空間に見出した二人。
「八ヶ岳のこの土地、そしてここに集まってくる人たちにもマッチした世界観が、リアルに目の前に広がっていき、全てが腑に落ちました。今の僕たちにとって、これ以上の環境は他にはないと感じました」
小さくぎゅっと凝縮された二人の想い。中身と質が濃縮され、夢は大きく広がっていきました。ビジネスに対する考え方も、より健全になったと太郎さんは言います。
オープン間もない時期から、さまざまなポップアップイベントに積極的に参加し、横のつながりを広げてきた二人。
カミロータが参加するイベントについて聞いてみると、
「単に来場者数が多く、規模が大きいイベントであれば良いとは考えていません。主催者のコンセプトを基準に参加させていただいています。たとえば、マイバッグ、マイ容器を持ってきてもらうようなイベントだったり、地球環境の大切さに共感してくださる方々が集まる会場だったり。サステナビリティや循環型社会の実現を目指すプロジェクトが集合するような会場です。そこで実際に来店された方々と、直接会話ができる機会を増やしながら、カミロータの考え方を広めてきました」
廃棄の問題やエコな暮らしを考えることをテーマとしているイベントに参加。できるだけゴミやマイクロプラスチックを生まない生活の意義を来場者と共有。継続したアクションが「変える」きっかけになるということを実感している
“お気に入りのマグや容器、お鍋などなど、ぜひご持参ください”と事前にSNSで発信。イベント会場ではプラスチックのカップや蓋、ストローは、可能な限り使用しないよう、資源の削減を心がけています。
森の中に佇むカミロータ。「沖縄のセレクトショップ時代から愛用していたマグカップは今も大切に使っています」と美佳さん
「回を重ねるごとに、“お皿を持っていきます”といってくださる方や、持ち帰りの容器を持参される方が確実に増えてきました。廃棄の問題やエコな暮らしを考えることをテーマとしているイベントでは、他の出店者さんの取り組みなども参考に、私たち自身も発見がいろいろあって勉強になるんですよ」(美佳さん)
私たちが日頃から意識している環境への心がけ。バッグやお皿、持ち帰り容器を持参される方が着実に増えている
サステナブルへの意識を「自分ごと化」してもらえるような場での出会いは、カミロータにとって、何よりの“宝物”。ポップアップイベントを通じ、環境への配慮を自然に発信できる機会を増やしていきたい、と考えています。
沖縄から八ヶ岳に移住し、より環境に良いものを届けたいという思いはますます強まったといいます。そして今後は、生産者の顔が見えるもの、ストーリーのあるものを一人でも多くの方に届けたいといいます。
「昨年の2月、波照間島のサトウキビの収穫の手伝いに行きました。沖縄のお店を運営していたときから使っていた波照間島の黒糖は、昔ながらの方法で丁寧に作られ、独特の風味とコクがあります。
波照間島のサトウキビの収穫を手伝った。希少価値の高い波照間島の黒糖は、店内で発売中
1本1本、機械を使わずに手で刈り取る作業は想像以上にハードワークでしたが、地元の農家の方々が、ただひたすら黙々とサトウキビを刈る姿に感動しました。収穫から完成まで、気の遠くなるような工程を経るからこそ出会える唯一無二の豊かな味わい。私たちが体験した感動を、ストーリーとともにお客様に届けたい。そんな思いで、焼き菓子に使用したり、店内でご紹介したりしています」(美佳さん)
右は波照間島の黒糖。左は波照間島黒糖で作られた『八重山黒糖グラノーラ』
「沖縄時代から一貫して、自然や環境問題の解決に寄与する事業を展開していきたいという想いがありました。沖縄の海でサンゴが減少したり、昔と比べて台風の発生回数が減ったことによって海面水温が高くなったり。地球環境の変化を肌で感じてきたことも大きいかもしれません。自分たちを含め、食べ物や飲み物に使用する原材料は、より自然なものを厳選し、地球や身体に優しいものを提供していきたい。このコンセプトはこれからも変わりません」(太郎さん)
リジェネラティブへの熱い思いを語ってくれました。
「タイニーハウスで再スタートした事業を、より充実したサービスの提供につなげていく」という考えのもと、2024年夏、店舗の後ろにデッキを作り、タープを設置。新鮮な空気に包まれ、木々や小川の流れを五感で感じながらコーヒーや焼き菓子をいただくことができるようになりました。
2024年夏、タイニーハウスの裏手にウッドデッキが完成し、タープの下の開放的な空間でコーヒーや焼き菓子が楽しめるようになった
製造の背景やストーリーを大切にしながら、自分たちが自信を持って紹介できるものだけをセレクトして発信するカミロータ。
「原材料にこだわるのはもちろん、飲んで、食べて満足できるものでなければ先へは進めません。カミロータで紹介している『Son of the Smith(サノバスミス)のハードサイダー(※注)も、パタゴニアの『ペールエール』もとても美味しくて完成度が高い商品です。
Son of the Smith(サノバスミス)は、米国オレゴン州のHARD CIDER・CRAFTBEERの旅からインスピレーションを得て長野県、大町の小澤果樹園と小諸の宮嶋林檎園が共同生産によって生まれたHARD CIDER。「ストーリーのある製法と日本で育ったリンゴの良さを活かした味わいを体験してほしい」と太郎さん
※「ハードサイダー」はビールのようなドライなテイストが特徴。フルーティーな味わいを楽しむことができるほか、果汁ベースのため、グルテンフリーであることも人気の理由
原料の一つである多年生穀物「カーンザ」は、長期的に土壌を健全に保つことで知られている。オレゴン州ポートランドのポップワークス・アーバン・ブルワリーが醸造したペールエール
納得して手に取っていただいたものが、自然環境を守るものである。それが自分にも世界にも良いことにつながる一歩だと思います。そのための事業でありたいと考えていますし、少しずつでも確実に前に進んで行けたら良いですね」(太郎さん)
太郎さんと美佳さんの普段の暮らしについても尋ねてみた。
「畑を作り、ハーブを植えたりコンポストを作ったりしています。ここへ来てからは玄米と野菜が中心の食生活をしています。ベジタリアンになろうと思わなくても、自然と肉の量が減りました。野菜も果実も木の実も、季節ごとの恵みが手に入る環境が素晴らしい」(太郎さん)
「ご近所の農家さんと、野菜を通じてコミュニケーションを取る機会も増えました。人と人とのつながりを実感しながら、環境に配慮した生活を送りたい、と考えています」(美佳さん)
「環境保護に対して意識が高い八ヶ岳だからこそ、カミロータが、持続可能な暮らしのアンテナ的存在になれたら良いなと願っています」(美佳さん)
八ヶ岳への移住者が増える中、二拠点生活、別荘暮らしなど、ライフスタイルの選択肢もそれぞれ。今回ご紹介したタイニーハウスもその一つ。周辺コミュニティのシンボル的存在としても注目されています。「こんな暮らしをしてみたい!」と思う人も多いのではないでしょうか。その小さな空間の中には、環境に配慮した食材、デザイン性に優れたエコバッグなどを発信しているカミロータ。沖縄で人気のセレクトショップを展開していた二人のセンスの良さが伺えるものばかりです。安心して手に取ることができるのは、彼らの揺るぎない「リジェネラティブ」なスタイルが根底にあるから。
毎日行きたい、わざわざ行きたいお店として、これからもたくさんのストーリーを届けてくれることを期待します。
今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。
記者:山田ふみ
多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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