【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (完結編)2025年から見る2023年
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (完結編)2025年から見る2023年

※本連載は当時(2023年1月時点)早稲田大学大学院で社会学を研究していた永島郁哉(現・島根大学 教育学部 附属教師教育研究センター 特任助教)による執筆となります。

これまでやってきたことを信じて頑張れ!

最近は電車のなかで受験生向けの広告を見ることが多くなりました。

これまでやってきたことを信じて頑張れ、というメッセージを見ると、受験生ではない私自身もなんだか励まされているような気がして、自然と大きく息を吸い込みます。

受験といえば、先日大学入学共通テスト(旧センター試験)がありました。学生でないかぎり試験について考えることはあまりないかもしれませんが、実は大学入試はある意味で私たちの生活に直結しています。

2025年1月より共通テストに 「情報」科目を導入、その目的は?

大学入試は学習指導要領に基づいて作成されますが、その学習指導要領は文部科学省が約 十年ごとに改訂します。

つまり、政府がこれから先の数年でどのような人を育てたいかということが如実に現れるのが、学習指導要領であり、大学入試であるわけです。

これはそのまま、私たちの社会でどのような人が必要か、またどのような人がこれからの社会を作っていくのか、という部分に深く関係します。

新しい学習指導要領のテーマは「生きる力」

2022 年度から新しく始まったのが、「情報」という科目。これは 2017 年の改訂で新たに創設された科目です。情報社会に主体的に参画するため、情報技術を適切かつ効果的に活用できるようになることを目的としています。

そして、2025 年からは大学入学共通テストにも情報科目が追加されることが決まっています。2025 年まであと2年。今の高校1年生が高校3年生になるタイミングです。

2018 年に公示された学習指導要領を読みく

改めて、2018 年に公示された学習指導要領を見てみると、「目標」には次のようなことが書いてあります(文部科学省 2018)。

 

1、 効果的なコミュニケーションの実現、コンピュータやデータの活用について理解を深め技能を習得するとともに、情報社会と人との関わりについて理解を深めるようにする。

2、 様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う。

3、 情報と情報技術を適切に活用するとともに、情報社会に主体的に参画する態度を養う。

 

それぞれの項目で重要なのは、①情報社会と人との関わり、②様々な事象を情報とその結びつきとして捉えること、そして③情報社会に主体的に参画すること、です。

情報は、人との関わりの中で存在する

デジタル社会において、情報は独立して存在していると捉えられがちです。データの客観性という観点では、ある程度はそうなのかもしれませんが、一方で情報は常に人との関わりのなかで存在しています。

例えば、20 代の睡眠時間というデータがあるとします。でもそれはある日突然出来上がったデータではなく、誰かがそれを知りたいと思って収集したもののはずです。誰かがそのデータを用いて何かをしたいから、わざわざ「データ」として睡眠時間を測ったわけです。

情報は網のように広がっている

情報は常に人とともに存在していると考えると、情報をまさにネットワーク(網のように広がっていること)として捉えることができます。

すべてが相互に連関して繋がっていることが情報社会であり、それに「人」が主体的に参画することが、これからの社会の在り方である、というわけです。

情報を見極め、その影響を思考する力

こうしてみると、今の高校生は「情報」というものを、とても構造的に理解できる世代なのかもしれません。

情報それ自体の特性はもとより、情報が人とどう関わるかや、ある事象が情報とどう結びつくか、また人が情報社会とどう関わるかということを、とてもよく考える人として育っていくでしょう。

そして、これはそのまま、彼らが社会をどう考えるか、ということに直結しますし、その新しい社会における「幸せ」とは何か、ということにも関わります。

現在は、新しい社会への黎明期

2025 年に情報科目が入試に追加されるまでの今この瞬間に、そのような世代が育成されています。2023 年は、新しい社会への黎明期と考えることができるかもしれません。(完)

<参考文献>

文部科学省,2018,『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)』.

※本記事は2023年1月時点の内容となります。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第1話)逆張り者
独自記事 【 2025/9/5 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (序章)最初の関門
独自記事 【 2025/8/31 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
持続可能な酪農の実現を支える明治の取り組みと、乳業の歴史
sponsored 【 2025/9/3 】 Food
乳製品やチョコレートなどの食品を取り扱うメーカーである明治(Meiji)。大ヒット商品でもある「明治おいしい牛乳」や「明治ブルガリアヨーグルト」などは冷蔵庫に常備され、マストアイテムになっている…なんて家庭も多いのでは?そんな私たちの日常生活に欠かせない明治グループは、2021 年から「健康にアイデアを」をグループスロ...
【単独取材】料理に懸け30年、永島健志シェフが語る美食哲学
独自記事 【 2025/10/9 】 Food
この取材は、かつて学校が苦手な不良少年だった、永島健志さんが、料理という表現と出会い「世界のベスト・レストラン50」で世界1位を5度獲得したスペインのレストラン「エル・ブリ」で修業し、帰国後に体験型レストラン「81」を立ち上げた貴重な経験を語って頂いたものである。
アラン・デュカス氏が登壇「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2025」 記者発表会レポート
INFORMATION 【 2025/9/15 】 Food
今年で開催15回目となる「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」は、少し敷居が高いと感じてしまう人もいるフランス料理を、馴染みのない人にも楽しんでもらいたいという思いから誕生したグルメフェスティバルです。期間中(9月20日〜10月20日)は、参加しているレストランにて特別価格で、本格的なフレンチのコース料理を...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第2話)新天地
独自記事 【 2025/9/25 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...

次の記事

ソーシャルハブ型ホテル「キャプション by Hyatt 兜町 東京」が2025年10月7日に開業
[エシカ編集部 体験企画]東京国立博物館 法隆寺宝物館で開催された「日本のものづくりの伝統と革新が織りなす”至高の晩餐会”」

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます