【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (中編)2050年から見る2030年
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【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (中編)2050年から見る2030年

筆者が参加した植林活動の様子(カンボジアにて)

※本連載は当時(2023年1月時点)早稲田大学大学院で社会学を研究していた永島郁哉(現・島根大学 教育学部 附属教師教育研究センター 特任助教)による執筆となります。

2050年カーボンニュートラル

2050年と聞くと、とても未来のように感じます。今から、27年後に世界がどうなっているのか全く見当もつきません。空飛ぶ車はあるでしょうか。人工知能は人類の脅威となっているでしょうか。期待と不安の両方が交じり合います。

ですが私が最も心配なのは、地球温暖化です。科学技術の発展よりも前に、気候変動によって文明社会が滅亡してしまえば、空飛ぶ車も実現しません。毎年年末になると、世界終末時計が話題になるように、最近では「一刻の猶予も残されていない」という認識が広まりつつあります(ちなみに 2022年は、ウクライナ侵攻も重なり、世界の終末まで残り100秒とされました)。

日本政府は 2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにすること、いわゆるカーボンニュートラルの実現を掲げています。これは、2015年のパリ協定を受けたもので、世界各国も同様の目標を掲げています。

2030年が中継地点

私たちが今いる2023年は、2050年から見てどのような位置にあるのでしょうか。

これを考えるにあたって、2030年が中継地点となります。2021年気候サミットにおいて、2030年目標が設定されましたが、その内容は「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを 2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」というものでした。2030年となると、あと7年。急に現実味が増します。

2050年に向けた具体的な道筋

2022年の報告書(『日本国温室効果ガスインベントリ報告書2022年』)によると、2020年度は 2013年度比で約18%の温室効果ガス削減に成功しています。ちなみに、1990年度比だと9.8%。実は、日本政府が 2013年度を比較基準として設定していることには、各国から批判があります。日本の温室効果ガス排出量の推移を見てみると、2013年度はその数値が最も高く、したがって基準を2013年度に置くと、削減量を多く見積もることができます。例えば、EU諸国やイギリスは削減目標を1990年比、またアメリカやカナダ、オーストラリアなどは2005年比としています。これは、CO2以外の温室効果ガスの排出量統計が始まった1990年、京都議定書が採択された2005年を根拠にしているからです。

温室効果ガス排出/吸収量の推移 参照『日本国温室効果ガスインベントリ報告書2022年』

2050年に向けた具体的な道筋として、政府は、脱炭素電源の拡大(※注1)を掲げました。主力電源を、CO2を多く排出する火力発電から再生可能エネルギーへと移行させ、また産業界が脱炭素の電力を使用するよう後押しするという戦略です。

また、2022年の終わりに発表された中央環境審議会の資料(※注2)では、今年からの10年間の道筋「10年ロードマップ」が示されていますが、その前提となっているのが「サステナブルな経済社会の実現、そこでの人の幸福」です。ウェルビーイングが脱炭素社会の前提として据えられていることがわかります。

(※注1)2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組(経済産業省 自然エネルギー省)

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-3.html

(※注2)GXを支える地域・くらしの脱炭素(環境省)

https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000096596.pdf

あとがき

今年の4月には、5月のG7広島サミットに先駆けて、G7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催されます。また11月には、COP28(国連気候変動枠組み条約締約国会議)もあります。2030年までは残り10年を切り、2050年までは残り30年を切りました。新型コロナウイルスの影響で一時的に停滞していた気候変動対策が、今年から活発に再開されます。

一刻の猶予もないとされる状況で、それでもなおウェルビーイングのために何ができるか。2023年は、2050年カーボンニュートラル社会に向けて、ギアを1速から3速まで一気に上げる年なのです。

「ウォームビズ」は、個人でできるカーボンニュートラルへの取り組み

※本記事は2023年1月時点の内容となります。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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ethica編集部

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