読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第11章:「自己」を捉える(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第11章:「自己」を捉える(第2節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。 

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第11章 「自己」を捉える

第2節 跳ね返りの「私」

今回の連載は、「自分」という存在を改めて見てみようという企画です。ウェルビーイングとは、結局のところ「幸せを感じる自己」を養うものですから、「自己」について考えることはウェルビーイングについて考えることにつながります。

さて、読者の皆さんは、どれほど自分自身のことを「知っている」と言えるでしょうか?もっと具体的に言えば、自分自身の行動をどれくらい意識的に行っていますか?

例えば私たちは日常的に様々な行動を取ります。朝起きて顔を洗うのもその一つです。あるいは、勤勉に働く、お金を稼ぐ、貯金する、そういったものも私たちの行動の一部でしょう。そのとき、もちろん私たちはそれを「意識的に」行っています。勝手に働くとか、勝手にお金を稼ぐとかはしないわけです。

でも、意識的に自分の行動を絶えずチェックしていくことは決して人間に生まれつき備わった能力ではありません。つまり、人間は、あるきっかけがあって、自己の行動を常に反省的に審査していくようになったわけです。

最も重要な社会学者の一人であるマックス・ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という本の中で、そのきっかけを「プロテスタンティズムの出現」だと言います。プロテスタントは、16世紀のルターの宗教改革に端を発しヨーロッパ中に広がったキリスト教の宗派です。では、なぜ宗派の誕生が、人間に自己を振り返るきっかけを与えたのでしょうか?

プロテスタンティズムにおいて、人が死後に天国に行くか地獄に行くかは予め決められています(=予定説)。つまり、現世でどんな生活を送ろうが、天国に行く人は天国に行くし、地獄に行く人は地獄に行くわけです。

すると、人々はとてつもない不安に襲われます。神の審判を予め知ることはできないからです。そのとき、ある人々はこう考えました。現世で一生懸命働いて、もし手元にお金がたくさん集まれば、それは「自分が天国に行ける人」だからではないか?と。神の審判を知ることはできませんが、自分の行動が上手くいくかいかないかは、そのヒントになるだろうと考えたわけです。つまり、自分の行動次第で天国に行けるわけではないけど、自分の商売が上手くいくことは天国に行ける証拠なのではないか、ということですね。

そうして、人々はお金を蓄え始めます(=禁欲主義)。マックス・ウェーバーは、そうして富が蓄積されたことが資本主義の土台となった、と主張します。ただ、それと同時に彼の論で重要なのは、人々が自分の行動を絶えず審査するようになったということです(=近代的自我の形成)。神の意向に沿った行動ができているかを常に自分に問いかけ、自分の行動が「天国に行ける人の行動」かを常に反省的に振り返るわけです。

そうして人間は、神の目に映る自分の鏡像、跳ね返りを頼りに行動するようになります。もちろん現代を生きる私たちがこのような考え方をしているわけではありませんが、自分の行為を絶えず反省する自我というのは、このときに生まれたのです。

考えてみれば、私たちもそのような行動を日常的に取っています。例えば、服装を選ぶとき。知的に見られたければ、襟付きのシャツを着ます。このとき、「私」は「その服装を着ている自分」というのを絶えず眼差しています。ネクタイを締めて気が引き締まるのは、ネクタイをつけている自分を客観的に観察して、それを「礼儀正しい」と感じるからです。

ウェルビーイングに関して言えば、そうして不断に自分を振り返っていくことはとても重要であると同時に、やっかいなことでもあります。自分の行動がどういう意図に基づいているのかということ常に反省していくという点で、それはとても役に立ちます。一方で、何かの目的のために、逸脱しようとする自己を常に修正してしまうという点では、過労やルーティン化とも繋がってしまいます。目的を見失わないという側面もあれば、その目的自体が危険なものの場合、その道から逸れることができないという側面もあるわけです。

そうして考えると、ウェルビーイングというのは決して楽な取り組みではありません。持続的な幸福を手に入れたいと思った時、その「自己」は一体どのようなものなのか。今回は、自己とは「常に跳ね返りの中で反省を行う自己」である、という点から、ウェルビーイングを見てみました。

皆さんは、どのように考えるでしょうか?是非、コメントをお待ちしております。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

 

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ethica編集部

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