自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。

©Yosuke Kashiwakura
自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。
国際モノクローム写真賞(「Monochrome Photography Awards」)のランドスケープ・フォトグラファー オブ ザ イヤーをはじめ、ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテスト、ワイルドライフ・フォトグラファー オブ ザイヤーの入賞など、輝かしい実績を持つ彼に、これまでの軌跡や、15年越しで出版となった悲願の写真集発売についてのこと、これからの展望などのお話を詳しく伺います。
4夜連続配信企画となる(第2話)では、カメラマンとしてのキャリアを築いてきた経験談などを中心にお届けします。
——ファーストキャリアは出版社での編集だったんですね。就職活動はしなかった?
当時ものすごく就職氷河期で、僕は全く就活をしていない中で「山と渓谷社」の編集者に知り合いができた。その人に、新しい雑誌を作るから一緒にやってみないかと声をかけていただき、そのまま自然とフェードインで編集者になった、と言う形でした。
——大学生の時から自分の進みたい方向性が見えていたから、人との出会いも、巡り合わせも手繰り(たぐり)寄せることができて、自然と運命が導かれたのかもしれませんね。
はい、そう思いますね。「山と渓谷社」で作っていた本も、屋久島のムックやガイドブックとか。あとは、アドベンチャーレースやネイチャースポーツと呼ばれている、海外で1週間くらいノンストップで700~800km移動するようなレースがあって、日本でもそういう国内のレースがいくつかあったんですけれど、そういったネイチャーレースを扱う雑誌というのを僕を誘ってくれた自分の師匠にあたる(その編集者の)方が作り始めて、その取材でずっといろいろなところをかけずり回っていました。探検部でやっていたことにも近かったですね。テントに泊まって毎日選手を待って、取材をして、と言うような世界で。無我夢中で取材していました。
パタゴニア地方で行われたアドベンチャーレースのゴール地点で選手を待つ柏倉陽介。顔も服もボロボロである。
——キャンプや野宿はお手の物といいますか、すごくタフですね!カラダ的には辛くなかったのでしょうか。
本当にそうですね。僕もそんなに強い方ではないのですが、気楽といいますか。例えばどこかの会社に入ってノルマがあって、ものすごいプレッシャーの中で仕事をしていく、と言うのとは別で、仕事の中で楽しくやっていれば結果が出た、と言う感じでした。
——遊び感覚の延長で仕事ができる理想的な形ですね。
——大学生以降はずっと自然と密接な生き方をされているのですね。
そうですね。(当時は)いろいろな雑誌があったので、カメラマンに転向した時も編集者の仕事とは一年くらい被っていたのですが、人とか自然、動物、風景と、いろいろなものをバランスよく撮れたのもよかった。駆け出しカメラマンとしてはすごく良いスタートを切れたという感じでした。
——カメラマンの中には、星空だけを取る人や、光や花を専門に取る人、といったような専門性に特化している方も大勢いらっしゃいますが、方向性は最初から決めているものなのでしょうか。
僕の場合はいまだに決めていないという感じですね。基本的には普遍的な風景や動物、その中で頑張っている人間、そういうものテーマにはしているんですけれど、その中で特に動物も定まっているわけでもないですし、風景も、ボルネオから北極圏まで幅広いです。(専門性に特化している方は)まんべんなく撮った中で、自分が得意なところを決めて戦略的に動かれているのだとは思いますが、僕の場合はあらゆる被写体を撮りたいという思いがあるので、あまり決めずに行こうとしています。
青森の最北に生きる寒立馬。青森県下北半島の尻屋崎(しりやざき)周辺で飼育されている在来馬である
伊勢の夫婦岩で祈る人々。普遍をテーマにした作品は自然風景や動物に限定されることはない ©Yosuke Kashiwakura
——ネイチャーフォトグラファーと言う肩書きで、ネイチャーと言う単語一つの意味を考えてみても、ある意味すべてのものがネイチャーに当てはまりますよね。それでも一般的には、ネイチャーフォトグラファーと言う言葉を聞けば、大抵の人は自然を対象に写真を撮っている人だと言う風に認識されるとは思います。ただ、柏倉さんご自身は、ネイチャーフォトグラファーだから、と言う意識を持って取る対象を限定されているわけではないんですね。
そうですね。あまり決めすぎるといつも行く現場が固まってしまうので、いろいろなところに行って(写真を)撮りたいなと言う気持ちがあります。
——その思いは、シンプルに冒険心から湧き上がってくる感情なのでしょうか。
最近、自分の写真を何か役立てられる事は無いかなと思い始めてきています。例えばこの前の仕事で、ネパールの西の果ての村に行ったのですが、そこではカースト制度があって、さらにはそのカーストにも入れない方々がいる。その人たちが、近くの沙羅双樹の森から葉っぱを積んで、それを重ねて熱で圧着し、リーフプレート作る、と言う新しい事業を作るためにいろいろと努力されていて、そうした現場を撮りに行くという仕事でした。僕は今45歳なのですが、今後はそうやっていろいろな場所に行って、自分の撮影技術を役立てられたらいいなと思っています。
ネパールの西部の村で暮らす女性たち。晩御飯のおかずになる魚獲りも仕事の一つ。みんなで歓声を上げながら、追い込み漁をしている ©Yosuke Kashiwakura
——そうした遠い国の内情を伝えるためにも、意義のある活動ですね。ネパールへ行くことになったきっかけは何だったのでしょうか。
ネパールで新しい職を作る事業をやっている財団が日本にあって、その財団の理事の方が知り合いだったんです。竹内洋岳(たけうち ひろたか)さんと言う、8000m峰14座を日本人で初めて登頂した登山家で、以前に取材をしたこともあった方です。僕が幅広く色々撮っていることを知っていたので、どうですか 撮りに行きませんか?と声をかけてもらったのが始まりです。もう3回は(取材に)行っています。とにかくネパールの食べ物が美味しくて、その美味しい料理を食べに行っているなんて言うところもあります。
——ネパール料理というと、豆とかカレーとかですか。
そうですね。豆のカレーでダルバートと言う本当に美味しいものがあって!ネパールに滞在しているときはほとんどダルバートを食べています。
ダルバートがネパールの国民食で、ダル(豆スープ)」と「バート(ご飯)」を基本とした定食スタイルの料理 ©Yosuke Kashiwakura
——そこで撮った写真はどのように使われるのですか?
都内で写真展をやる予定です。そこでネパールの、山だけではない様々な風景を、西も東も街の中も含めていろいろと展開して、その会場ではリーフプレートも販売できるようにしたいと計画しています。2025年の11月1日に都内の青山学院大学で展示をする予定です。
——写真展が開催されたときにはぜひお伺いしたいです!
ありがとうございます。ぜひ見に来てください。リーフプレートはサステナブルな製品ですし、(そもそも)ネパールは出稼ぎによる外価獲得が盛んに行われている国で、日本では来日される方の第5位にネパールの方々が位置しています。(そうした中で)村に残されている女性たちが、旦那さんが出稼ぎしている間に自分たちも何かできることをしようと、そういう背景でリーフプレートを作っているわけです。
ハンドメイドリーフプレート。ネパールの雇用創出事業での撮影シーン ©Yosuke Kashiwakura
——確かに、日本でもネパール料理屋さんは街中にたくさんあって、出稼ぎの方が多いというのにも頷けます。
——柏倉さんの場合は、人とのつながりやご縁が次の撮影地に繋がるんですね。撮影にいかれる時は、どのくらいの期間、現地に滞在されるのですか。
大体10日から2週間、長くても3週間くらい行きます。(帰国後は)しばらく日本で、日本の取材をして、また海外へ、と言うようなスタイルですね。この一年は環境に関わる撮影プロジェクト「エンドレス」を中心に撮影をしています。すでに、ボルネオ島で地の果てまで続いているアブラヤシ農園や20世紀最大の環境破壊と呼ばれているアラル海の様子を撮影しています。このプロジェクトでは、僕の環境に対する思いに賛同してくれた企業が取材費用や環境記事の制作、写真展開催までのサポートをしてくれて、伝えたいことをストレートに表現できるようになりました。エンドレスとは、「終わりのない、果てしない、無限の」という意味があり、ボルネオ島やアラル海で僕が感じたのは悪夢のようなエンドレスでした。地球上には、人間が作り出した果てしない光景がいくつもありますが、それらを撮影し、視覚化することが急務だと感じています。
ゴールドウイン本社ホールにて開催された「Endless Yosuke Kashiwakura Photo Exhibition」の様子 ©Yosuke Kashiwakura
「Endless Yosuke Kashiwakura Photo Exhibition」では、オランウータン孤児とアラル海のドキュメンタリー作品が展示された ©Yosuke Kashiwakura
——砂漠の上に船が放置されていると言う風景は、映画の中のセットかのような、世紀末感を感じますね。
そうなんですよ。世紀末感が半端じゃないです。あとはインドのニューデリーの、大気汚染で風景が空気がモヤモヤっとしているような風景や、ボルネオのプランテーションの農園がどこまで広がっているのか、その景色を再撮影する。他にも、ヨーロッパ・アルプスの氷河の減退を、昔撮った写真と全く同じ画角で撮って、氷河がどのくらい減っているのかというのをわかりやすく画で説明するなど……。そういった写真を撮って、来年(2026年)に大々的に写真展をする予定です。
20世紀最大の環境破壊と呼ばれるアラル海に放置された漁船。今はアラル砂漠と呼ばれ、船の墓場として砂の上に放置されている ©Yosuke Kashiwakura
——なるほど。向こう2年ではそのような計画をされているのですね。
そうですね。実際にはもう本当に時間がないと言いますか……、(あと)五年で気温が高まってきて、今住んでいる場所からどこかに逃げないといけない人たちが増えていると言う研究結果もありますし、これから数年で実際にそういう現象が出てくるわけですよね。過去に例のないような台風や洪水の被害で、想像を超えた災害もどんどん出てくると言うのがこれからの時代なので、そういう現場をちゃんと撮って知らせることも重要だと思っています。
次回予告
自然と密接に過ごし、さまざまな国や地域の光景を目の当たりにしている柏倉さんだからこそ、自分ごととして気候変動や環境問題を捉えている、切実な想いが真摯に伝わってきます。(第3話)ではボルネオでの取材や、写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』を発売するまでのエピソードなどを中心としたお話を詳しく伺っていきます。
ネイチャーフォトグラファー柏倉陽介さん参加トークイベント開催決定!
タイトル:「オランウータンへの贈り物」
日時:12月6日(土)14:00〜18:00
場所:東京都渋谷区神宮前6-31-21東急プラザ原宿(ハラカド)3階HOW’z
料金:入場料無料/1オーダー制 *申し込み不要
内容:講演、柏倉陽介による写展示、BOS Japanオリジナルグッズの販売
ゲスト:黒鳥英俊・柏倉陽介
主催:BOS Japan
柏倉陽介さんの写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』は以下から購入できます。
A&Fブックス(オンライン販売)
https://aandf.co.jp/books/detail/back_to_the_wild
冒険研究所書店(オンライン販売/店舗販売)
文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
|
次の記事 |
|---|
|
前の記事 |
|---|
いいねしてethicaの最新記事をチェック
フォローしてethicaの最新情報をチェック
チャンネル登録して、ethica TVを視聴しよう
スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます
