「電気」から、無数の地域とのつながりをつくる(みんな電力・大石英司社長)
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「電気」から、無数の地域とのつながりをつくる(みんな電力・大石英司社長)

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

『ethica(エシカ)』3月号のテーマは、「暮らしとエシカル」です。

ethicaがメディアパートナーとして参加した「サステナブル・ブランド 国際会議2020 横浜」では、2日間を通じて50を超えるセッションが行われました。その中のひとつ「再エネ調達を通じた地域貢献とサステナビリティ経営ーゼロ・カーボン横浜における『横横プロジェクト』を事例にー」と題したセッションでは、”顔の見える電力”をスローガンに掲げている、みんな電力株式会社社長の大石英司さんをファシリテーターとして、青森県横浜町町長の野坂充さん、日本郵船株式会社グリーンビジネスグループ グループ長の中村利さん、そして横浜市温暖化対策統括本部 本部長の薬師寺えり子さんが登壇。今回はそのセッションの模様をご紹介します。(記者:エシカちゃん)

電気の生産者を選べる「みんな電力」がつくる地域間連携

セッションのテーマにある「Zero Carbon Yokohama」とは、地球温暖化対策として、2050年までに「温室効果ガス実質排出ゼロ」を目指す横浜市の取り組みです。そしてもうひとつの「横横プロジェクト」とは、横浜市が、風力発電で知られる青森県横浜町で生産された電気を購入し、同町の発展を支えていくというプロジェクトです。

そして「みんな電力」は「顔の見える電力」をうたい、風力や太陽光などの再生可能エネルギーで電気を生産している全国の発電事業者と電気を使用する一般消費者をつなぎ、消費者が支払う電気料金でそのような発電事業者を支援する電力会社です。

今回のセッションは、大石さんのこんな言葉で始まりました。

「皆さんの電気代は、石炭や石油を燃やしてCO2を排出する火力発電に払われているのでしょうか。それとも、福島復興のために頑張っている風力発電事業者に払われ、地域貢献につながっているのでしょうか。自分の電気料金の支払先を自分で選びたいという方が増えてきている中、電気を生産する地方の自治体と、そこから送電されてきた電気を消費する大きな自治体、そして、自治体の中で実際に電気を使う企業がつながった、サステナブルな地域間連携が実現しつつあります。今回のセッションでは、電気でこんな関係ができるという事例を共有していきたいと思います」

このセッションで紹介された事例は、横浜の山下公園に停泊し、観光船として利用されている「氷川丸」の取り組みです。現在、氷川丸で使われている電力は、すべて青森県の横浜町で風力発電によってつくられたものなのです。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

「横浜市」と「横浜町」をつなぐ「横横連携」とは

ところで、電力を生み出している青森県横浜町とはどのような所なのでしょうか。横浜町の野坂町長は、このように紹介してくれました。

「横浜町は下北半島の入り口にある町で、人口は4,500人弱。非常に強い風が吹く場所で、青森県で最初に『農村漁村再生可能エネルギー協議会』を起ち上げた自治体です。現在は大型の風力発電機が22基稼働しており、大石社長にご縁をいただいて、ここで発電した電気を横浜市に送電しています」

では、なぜ横浜市はこのような取り組みを始めたのでしょうか。その経緯について、横浜市の五十嵐さんは次のように話してくれました。

「きっかけは、2050年までに温室効果ガス排出をゼロにすることを目標とした『Zero Carbon Yokohama』の制定です。その実現にむけ、横浜市では、着実に二酸化炭素排出量を減らしていますが、まだまだ削減していかなければいけません。そのためには再生エネルギーの活用が必須ですが、首都圏の大都市には土地の余裕がなく、メガソーラーの設置などができないのです。

そこで、横浜町をはじめとする東北地方の12市町村と再生可能エネルギーの利用促進に向けた連携協定を締結し、発電の能力がある土地からエネルギーを調達することで、横浜市の脱炭素化を進めていくことになりました。そのような経緯があって、横浜町から電力を調達させていただいています。

電気の調達先が決まったら、次は横浜市内で、このプロジェクトに賛同してくれる企業に協力を仰ぐ必要があります。今まで使っていた電気を再生可能エネルギーと差し替えなくてはCO2の削減につながらないからです。そこで、横浜町の電気の購入先として相談させてもらったのが、氷川丸を運営する日本郵船さんというわけです」

氷川丸が横浜町の電気を使うようになった理由について、日本郵船の中村さんは次のように説明しました。

「いままで、日本郵船は海運で日本を支えてきましたが、令和になって、環境負荷低減やグリーンビジネスの展開など、脱炭素化社会を支えていくということでも社会貢献をしていこうということになりました。私はいまグリーンビジネスグループという部署でグループ長を務めていますが、その社会貢献の象徴として初めて取り組んだのが、氷川丸で使用する電気をすべてサステナブルなものに変えるという、今回の事業です。

企業内でSDGsの取り組みを進めるには

しかし「環境にいいから」といって、組織は簡単に動いてくれるものではありません。SDGsの取り組みを進めようとした場合、すんなりと社内の承認が進む企業は、現状では多くはないのではないでしょうか。このプロジェクトも、ここにいたるまでには紆余曲折もあったはずです。そこで大石さんは、ご自身の経験も踏まえ、そのような課題をどう解決したのか、登壇者に意見を求めました。

「私がいろいろな企業を回っていていつも直面するのが、『電気代を地域に使って、再生可能エネルギーを増やすという提案はとてもいいと思う。ただ、他の石炭火力会社は、もっと安い見積もりを持ってくる』と言われてしまいます。そのような点についてどう思われますか?」(大石さん)

これに対して、横浜市の薬師寺さんは次のように答えました。

「なかなか再エネ転換が進まないのは、値段が高いからという点は確かにあると思います。でも再生エネルギーの需要が増えて価格が下がり、経済合理性で再生エネルギーを選ぶようになれば、日本でも加速度的に省エネが進むんじゃないかと期待しています。再生エネルギーの需要を増やすために、需要家の背中を押すのが自治体のミッションだと思っています」

この意見に対して、日本郵船の中村さんもうなずきながらこう話します。

「今回の連携では、まさに氷川丸の母港ということもありますが、横浜市の影響力は社内を通すうえで大きな力になりました。その意味では、どの企業にとっても、再生エネルギー導入のためには自治体の後押しは不可欠だと思います」

もうひとつ課題となるのが、実際の需要家の意識変革だと大石さんは指摘します。その一例として、社内での提案の通し方について尋ねられた日本郵船の中村さんは、次のように話しました。

「新しいことを始めるときには、小さな一歩から始めることが大切だと思います。氷川丸で使う電気を変えることは、日本郵船の経営に大きな影響を与えることはありません。ただ、世間に与える影響としては大きなインパクトがあります。氷川丸の歴史は日本郵船の歴史そのものです。このような、大きな一歩になりうる小さな一歩から始めるべきだと思います。あとは、自分がやると決めたら、地道に社内を説得していくことです」

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

電気を通じてクリエイティブな関係をつくりたい

大石さんもこの意見に賛成して、こう話しました。

「これは、すごく大事なことで、いきなり大きな工場からやろうと思うと、ムリが出る。店舗を持っているような企業であれば、そういったところから再生エネルギーを導入して、外部に向けて発表することが、逆に社内に浸透していくきっかけになるんです。できるところ、小さなところから始めるのが重要なキーワードです」

今回ご紹介した「横横プロジェクト」のような大掛かりなものも、小さなところからコツコツと地道な努力を積み上げていった結果なのですね。

大石さんは最後に、次のようにセッションを締めくくりました。

「皆さんが使っている電気が自由に選べるようになれば、電気から、無数の地域とのつながりをつくることができます。自分が使いたい地域の電気によって、サステナブルな影響を与えることができる仕組みが、すでにあるんです。そのような、電気を通じたクリエイティブな関係を、これからも皆さんと一緒に考えていきたいと思います」

記者:エシカちゃん

白金出身、青山勤務2年目のZ世代です。流行に敏感で、おいしいものに目がなく、フットワークの軽い今ドキの24歳。そんな彼女の視点から、今一度、さまざまな社会課題に目を向け、その解決に向けた取り組みを理解し、誰もが共感しやすい言葉で、個人と世界のサステナビリティーを提案していこうと思います。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

エシカちゃん

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