読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第9章:人が去るということ(イントロ)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第9章:人が去るということ(イントロ)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第9章は「人が去るということ(イントロ)」と題してお送りします。

第9章 人が去るということ

イントロ 人が去るという「痛み」

人は去っていくものだということを、私は簡単に忘れてしまいます。そのせいで、一方的な、ほとんど迷惑と言ってもいい喪失感を抱えて、何日間もあちこちを彷徨うことになります。数少ない友人に突然会いに行って、実際迷惑をかけたこともあります。

私は今回の記事を、人間関係の持続可能性に悩める人々のために書きたいと思っています。人間関係の持続可能性とは、一度築いた人間関係を長い間――その長さの基準は人によるかもしれませんが――持続できることです。つまり、1年前は仲の良かった友人と、今はもう全く連絡を取っていないような状態は、持続可能性がないと言えるでしょう。そして、人間関係を長く保持できないことに、不満足感や、空虚さ、喪失の感覚を抱えているとすれば、この一連の記事は、それを和らげないにしても、その輪郭を幾分か掴む機会になるかもしれません。私は読者の方と一緒にそれを考えたいと思っています。

乗客が絶えず入れ替わる列車のように

人は去るとき、決して絶望的で、劇的で、衝撃に満ちた場面ばかりを選ぶわけではありません。視界の端に映るものが、ふと「わたし」が首を回したせいで視界から消えるように、人は去っていくことがあります。つい返信を怠ったが故に、連絡がつかなくなってしまったり、あるいはもっと分かりづらい形で――「近々会おうよ!」という連絡がどういうわけか最後の会話になってしまったりします。

音もたてず、何の合図も出さずに、ただ忽然と消える。「消える」と言っても、このSNS時代、ほとんどの場合はフォロー/フォロワーとして繋がり続け、画面の向こうで「わたし」の知らない誰かと笑って写真に収まるその人を絶えず確認できるわけですが、「わたし」の世界と、その人の世界の重なり合いは消失してしまっています。

別にお互いが嫌いなわけでも、(少なくとも「わたし」は)相手への興味を失ったわけではないのに、ただ「世の中がそうさせた」としか説明できないような、不可抗力の波が2人を飲みこんだが故に、互いの世界は引きはがされてしまうわけです。そのときの得も言われぬ喪失感には、重く、鈍い痛みが伴います。

でも、どうして「痛い」のでしょうか? その「痛み」は私たちに必要なのでしょうか? 「痛み」は私たちに何を教えるのでしょうか?

乗車する人もあれば、降車する人もいる

この「痛み」を、今、ここに感じるからこそ、私たちは改めて「人は去っていく」ということを、しっかりと考え直さなければならない、と思います。しかもそれは、人が去ることそれ自体を嘆きたいから行うのではなくて、なぜ嘆きたくなるのかということを問うためにあるべきだと考えています。つまり、どうして私たちはそのように感じるのか、という社会学的問いの範疇で検討しようというわけです。

人が去るとは一体どういうことか。なぜ彼らは去るのか(あるいは去らないのか)。彼らは、あるいは「わたし」は、そのとき何を考えるのか。なぜ、それが「痛み」となって「わたし」を襲うのか。

私はこれらの問いを検証するために、しばらく連絡を絶っていた友人に連絡を試みました。この章でこれから皆さんと共有するのは、その友人との正直な対話の記録です。もし、これを読む人が人間関係の持続可能性についてなんらかの虚脱感を抱くのだとすれば、これから見ていくものはきっと自分に跳ね返ってくるはずです。

一体どうなるのか、私にもまだわかりませんが、読者と共にドキドキしながら、この試みの行方を見届けてみたいと思います。

冒険の始まり

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第1話)逆張り者
独自記事 【 2025/9/5 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (序章)最初の関門
独自記事 【 2025/8/31 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
持続可能な酪農の実現を支える明治の取り組みと、乳業の歴史
sponsored 【 2025/9/3 】 Food
乳製品やチョコレートなどの食品を取り扱うメーカーである明治(Meiji)。大ヒット商品でもある「明治おいしい牛乳」や「明治ブルガリアヨーグルト」などは冷蔵庫に常備され、マストアイテムになっている…なんて家庭も多いのでは?そんな私たちの日常生活に欠かせない明治グループは、2021 年から「健康にアイデアを」をグループスロ...
【単独取材】料理に懸け30年、永島健志シェフが語る美食哲学
独自記事 【 2025/10/9 】 Food
この取材は、かつて学校が苦手な不良少年だった、永島健志さんが、料理という表現と出会い「世界のベスト・レストラン50」で世界1位を5度獲得したスペインのレストラン「エル・ブリ」で修業し、帰国後に体験型レストラン「81」を立ち上げた貴重な経験を語って頂いたものである。
アラン・デュカス氏が登壇「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2025」 記者発表会レポート
INFORMATION 【 2025/9/15 】 Food
今年で開催15回目となる「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」は、少し敷居が高いと感じてしまう人もいるフランス料理を、馴染みのない人にも楽しんでもらいたいという思いから誕生したグルメフェスティバルです。期間中(9月20日〜10月20日)は、参加しているレストランにて特別価格で、本格的なフレンチのコース料理を...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第2話)新天地
独自記事 【 2025/9/25 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...

次の記事

革新的なことが積み重なれていくからこそ、伝統として継承され続ける 【編集長対談】 アーティスト 舘鼻則孝さん
(第20話)話題の卵「ルースター」で未来に挑戦【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」 山々に囲まれたのどかな八ヶ岳を巡りながら「私によくて、世界にイイ。」ライフスタイルのヒントを再発見

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます