読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第1節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第1節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第13章 肥後のあれこれ

第1節 秋の準備をする

食べ物は私たちの最も身近な存在でありながら、最も遠い存在なのではないか――。私がそう感じたのは、残暑の厳しさと台風の猛威が交互にやってくるような9月のことでした。そもそも9月というのはなんとも微妙な時季で、夏野菜の山場はとっくに過ぎ、秋の味覚はまだ店頭に並ばない、どっちつかずな転換期です。素麺を惰性で消費しながら、時たま梨をつまんでみる。そうやってうまいことやりくりしながら、本格的な秋の到来を待つというのが、ほとんど習慣のようになっています。

だから下手をすれば、私たちは9月に最も「食べ物」というものに無頓着になります。毎日何かしら口にしているのに、何を口にしているかには特別興味がない。ひとまず秋の味覚を味わうまで生き延びられれば、それでいい。秋にはたくさん食べるのだから、今は適当にやり過ごせばいい。別にそれで私たちは「不幸」ではありません。別に不幸ではないけれど、特に心が満たされることもない。

9月という狭間で私たちはどのようにして、食べ物と親しくなれるのだろうか。ちょうどそんなことを考えていた時期に、私は祖父母を訪ねて熊本に行きました。特に予定を決めずに行って、どんなことが起こるか見てみようというのが、私の当初からの態度でした。

ある日、山に行きました。その山には、祖父の所有する蜜柑畑があります。畑と行っても、何種類かの蜜柑の木が数本植えてある程度の、ごく小さな土地です。それでも、毎年、異なる蜜柑種が段ボールいっぱいに我が家に送られてくるほど、収穫はたくさんあります。秋はデコポンの季節。畑には青々としたデコポンの実がいくつも垂れ下がっていました。

そこで祖父と畑作業。小さな実を間引きしたり、日陰になって大きく育たないような実をもいだり、猪の掘り返した土を元に戻したり、デコポンがきちんと秋に収穫できるように手入れをします。すでに立派な実を結んでいるものを見て、秋が待ち遠しくなる。そんな感覚がありました。

大きく実ったデコポン

そこで実感として覚えたのは、9月が受動的に過ぎ去っていくのは、物事のただの一側面でしかなかったということでした。つまり、9月には秋の準備が着々と進行していて、こうして農作業が能動的に行われることで、食卓には食材が並び、私たちの口に入るのだということです。なるほど私は、9月をただ「待つ」時間だとばかり思っていましたが、むしろ秋の入り口にあるそれは、とても忙しく「動いている」時間なのでした。私たちが食べ物と親しくなるのは、まさにその動的な時間を感じることによって可能なのではないか。私はそう思うようになりました。

食べ物に無頓着になりがちな9月が過ぎ、10月になりました。栗や葡萄、梨がとても美味しい季節です。私たちはこれから食べ物と親しくしていきますが、こうして秋の味覚が私たちの目の前にあるのは、9月が忙しく動き回っていたからです。私たちがそのことを意識して食材を口にするとき、秋の風味はより香り高く感じられるかもしれません。

蜜柑山からの景色

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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