【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (前編) 2030年から見る、2023年
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【連載】私たちはどこにいるのか 永島郁哉・著 (前編) 2030年から見る、2023年

※本連載は当時(2023年1月時点)早稲田大学大学院で社会学を研究していた永島郁哉(現・島根大学 教育学部 附属教師教育研究センター 特任助教)による執筆となります。

2030アジェンダ

毎年1月になると、何か新しいことを始めたくなるのは、文明社会に生きる上での定めなのかもしれません。

そして、1から12までカウントアップしていく暦を採用している以上、何かを「加える」とか「積み重ねる」感覚で私たちは生きています。新しい何かを始める、これまでよりももっと高いところへ行く、と聞くとワクワクするのは、とても自然なことです。

一方で、世の中には、カウントダウンしている物事もあります。砂時計の砂が上から下へ着実に落ちていくように、今現在から、ある地点までの時間は、刻一刻と減少していっています。例えば、明日の午前零時にピンを打てば、「あと何時間何分」という数字が止まることなく降下していくのがわかります。

2023年になった今、私たちは積み重ねると同時に切り崩してもいます。

そして、今回はあえて、私たちは未来のある地点から見てどこにいるのか、あとどれくらいの時間が残っているのか、ということを考えてみたいと思います。

これは暗い、陰鬱な話ではありません。

むしろ、この連載の冒頭で書いているように、ふと立ち止まって、自分たちが今どこで何をしているのかということを考えるきっかけになる、と私は考えています。何をつくるか、ではなく、何が残されているかを想像することで、今年の生き方もまた変わってくるだろうと思うのです。

さて、初回は、2030年という時間を設定したいと思います。

これは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限です。

この連載でも何度か登場していますし、ethicaでも重要なテーマとして扱われていますが、このSDGsは、2015年から2030年にかけての15年目標として掲げられました。

世間では、「国連で採択されたSDGs」という言われ方がいますが、実際には、国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかで、アジェンダの実行手段としてSDGsが掲げられています。

したがって、SDGsの本体は、この「2030アジェンダ」ということになります。

2030アジェンダは、(外務省の仮訳ですが)簡単にアクセスできるので、興味がある人は是非読んで欲しいと思います。

筆者はこれまでさまざまな場所でSDGsに関わる活動をしてきた

その序文には次のようなことが書いてあります。

「このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求するものでもある。」

昨今は、SDGsが人口に膾炙(※じんこうにかいしゃ )しましたが、この2030アジェンダの存在はあまり知られていません。

「SDGsウォッシュ」という言葉が示す通り、なぜSDGsが設定されなければならなかったのかという部分がすっかり抜け落ちてしまうと、見せかけだけの取り組みが横行してしまうわけです。

『人新世の「資本論」』がベストセラーになった哲学者の齋藤幸平は、SDGsを「大衆のアヘン」、つまり「SDGsは、とりあえずやっておけば何だか良いことをしている気になれる、一時的な責任逃れにすぎない」ということを主張していますが、こうした批判が出てくるのももっともです。

ただし、2030アジェンダの一部としてSDGsが国連で採択されたということ、しかも国連加盟国196カ国すべての国の全会一致での採択だった、ということはとても大きなことでもあります。

以前、NYの国連本部でSDGsの制定に関わった外交官の方とお話し、当時の状況を詳しく伺ったことがあります。196カ国すべての国から外交官が集まる状況では、各国の利害対立が当然起きます。それでもなお、最終的に合意を得るためにどれほどの努力が必要だったかをお聞きし、1つのアジェンダが全会一致で採択されたことがどれほど大きな一歩であったかを痛感しました。

※[慣用句]人々の話題に上ってもてはやされ、広く知れ渡る(美味しいものを多くの人が好んで食べるように、良い評判が広まる様子を表す)

ネパールでの様子

ベトナムでの様子

カンボジアでの様子

2023年1月現在、この目標の達成期限である2030年まで残り8年を切りました。2015年から考えると、私たちはちょうど折り返し地点にいることになります。この8年はただの8年ではありません。全世界が同じ方向を目指して進める(現時点では)最後の8年です。

言うまでもなく、SDGsの達成は、個人のウェルビーイングとも深く関係しています。2023年を生き始めた私たちが、今どういう場所にいるのか。2030年から見ると、私たちはSDGs達成まで残り8年という場所にいます。こうして一度立ち止まり、足元を見つめてみることから、2023年のウェルビーイングが始まるのではないでしょうか。

※本記事は2023年1月時点の内容となります。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第1話)逆張り者
独自記事 【 2025/9/5 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (序章)最初の関門
独自記事 【 2025/8/31 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...
持続可能な酪農の実現を支える明治の取り組みと、乳業の歴史
sponsored 【 2025/9/3 】 Food
乳製品やチョコレートなどの食品を取り扱うメーカーである明治(Meiji)。大ヒット商品でもある「明治おいしい牛乳」や「明治ブルガリアヨーグルト」などは冷蔵庫に常備され、マストアイテムになっている…なんて家庭も多いのでは?そんな私たちの日常生活に欠かせない明治グループは、2021 年から「健康にアイデアを」をグループスロ...
【単独取材】料理に懸け30年、永島健志シェフが語る美食哲学
独自記事 【 2025/10/9 】 Food
この取材は、かつて学校が苦手な不良少年だった、永島健志さんが、料理という表現と出会い「世界のベスト・レストラン50」で世界1位を5度獲得したスペインのレストラン「エル・ブリ」で修業し、帰国後に体験型レストラン「81」を立ち上げた貴重な経験を語って頂いたものである。
アラン・デュカス氏が登壇「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2025」 記者発表会レポート
INFORMATION 【 2025/9/15 】 Food
今年で開催15回目となる「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」は、少し敷居が高いと感じてしまう人もいるフランス料理を、馴染みのない人にも楽しんでもらいたいという思いから誕生したグルメフェスティバルです。期間中(9月20日〜10月20日)は、参加しているレストランにて特別価格で、本格的なフレンチのコース料理を...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【連載】評伝小説「ボルネオ・サラリーマン」 (第2話)新天地
独自記事 【 2025/9/25 】 Work & Study
この物語は、大阪を拠点とする一企業・サラヤが20年にわたり、ボルネオという地で環境保全活動に取り組んできた軌跡を一人のサラリーマン・廣岡竜也の目線から辿った記録である。 人と地球にやさしい「ヤシノミ洗剤」を生み出したサラヤが、環境を破壊しているという誤解を受けたことが発端となり、次々と困難が立ちはだかるも、諦めない者た...

次の記事

【連載】季節のプラントベースレシピ(第29話)「梅味噌だれの車麩ステーキ」
【連載】八ヶ岳の幸せ自然暮らし(第29話)八ヶ岳発・アートと人をつなぐ場所『Gallery Trax』を訪ねて

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます