自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。

©Yosuke Kashiwakura
自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。
国際モノクローム写真賞(「Monochrome Photography Awards」)のランドスケープ・フォトグラファー オブ ザ イヤーをはじめ、ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテスト、ワイルドライフ・フォトグラファー オブ ザイヤーの入賞など、輝かしい実績を持つ彼に、これまでの軌跡や、15年越しで出版となった悲願の写真集発売についてのこと、これからの展望などのお話を詳しく伺っていきます。
4夜連続配信企画となる(第3話)では、長らく出版できなかったオランウータンの写真集のこと、写真集を出版した後に起きた反響などのエピソードをお伺いしていきます。
写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン 』の表紙にはタオルを被った孤児の写真が選ばれた
写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン 』の中面
——自分の写真を世の中に役立てられないかと考え始めている、と言うことをおっしゃっていましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
この15年ぐらいずっと、オランウータンの写真集を出そうと思って出せずじまいだったのを、最近ようやく出版ことができて、手ごたえのようなものを感じたといいますか……。と言うのも写真展をしたときに、ボルネオで何が起きているのかと言うことを、子供たちや子供世代のお母さん、若者も含めて(足を運んだ方々が)興味を持ってくれたんです。やっぱり、それがきっかけで知った人や、知らなかったとショックを受ける人がたくさんいて、そういう写真展での実体験があった。それでようやく、もっともっと自分の写真を役立てていきたいなと言うふうに思った……、そういう経緯ですね。15年間、写真集を出せなかったと言うのも、日本は「猿(サル)」と言えば、日本猿かゴリラかチンパンジー、このどれかなんですね。実際に、僕が写真集を出して読んでくれた知り合いでも、あのチンパンジーの写真集よかったよ!なんて感想を言われるくらいでして……。
別にチンパンジーが嫌いと言うわけじゃないんですけれど、やっぱりそういった(混同される)方も写真展でも5〜6人はいらっしゃって、これはオランウータンの名前そのものも広めなきゃいけないなと。日本ではオランウータンの認知度が低いし、ボルネオと言う島もどこにあるのか、いまいちよくわからないと言うのが現状です。なので写真集として発行するのは難しいです、とずっと言われてきました。それより猫の写真集なら出せますけれど、猫は撮ってないんですか?なんて事を言われてしまったり!僕も猫は大好きなので、猫いいですね〜、とは言いつつも、そんな具合に毎年毎年、今年も出せなかった……、と挫折を繰り返して、ようやく今年、出版社も持っているアウトドア輸入販売会社のA&F(エイ アンド エフ)の赤津孝夫会長が、出しましょう!と言ってくれたんです。ずっと自分の中で、誰も興味ないのかなぁと思いながら過ごしてきた時間が、一気に反転したと言う感覚でした。この写真集を通して、実はみんな話を聞いて写真を見ればちゃんと理解してくれるし、感情が動くんだな、ということがよく分かったんです。そうした中で自分の写真をもっともっと(世の中に)役立てたいと言う想いが生まれました。
ロハスフェスタというイベントで写真集を読む親子。好奇心旺盛な子供に母親が文章を読んでくれた ©Yosuke Kashiwakura
——『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』の展覧会を既に開催されたと言う事ですね。展覧会はいつだったのでしょうか。
2024年の3月に本を出版して、7月には「えこりん村」(※)と言う北海道の恵庭の施設で開催しました。その後は、8月に旭山動物園、9月に札幌の円山動物園で開催しました。3箇所での巡回展になります。
2025年は、世界最大の霊長類保護支援団体であるBOS財団が主催する「MOVING PICTURES展」がスイスで開催されました。日本国内ではゴールドウイン本社ホールにて「Endless Yosuke Kashiwakura Photo Exhibition」やフジフイルムスクエアの企画写真展「希望(HOPE) ~みんなで考える動物の未来~」など、大きな個展やグループ展として展開することができました。
——なるほど。動物園のような、生き物に関連する場所で展覧会を開かれていたんですね。
そうなんです。と言うのも、見てもらいたいのは写真と言うよりも、写真の現場で何が起こっているのかというものだったので。それだったら美術館やギャラリーのような写真関係の世界じゃなくて、動物園だなと言う気づきがあって、そういった観点から決めました。2026年もオランウータン孤児に焦点をあてた写真展を継続して開催したいと思っています。
旭川市旭山動物園・えこりん村・札幌市円山動物園にて開催された「オランウータンと緑の津波展」 ©Yosuke Kashiwakura
——次回、関東圏で開催されたときにはぜひ子供連れで見に行きたいです。今回のこの写真集を読んでみて、絵本みたいに制作されているなと言うのが印象的だったのですが、ストーリー仕立てで子供に読んでもらうのも、とても良いなと思います。その、ストーリーテリングをしていると言うアプローチ方法もすごく感動的でしたし、特に子供を対象として、人に勧めやすいなとも思いました。私は絵本感覚で、寝る前に子供に読み聞かせをしたんですけれど、素直に、オランウータンかわいい!とか、かわいそう……、と言う反応をしていました。自分が子供に読むときに工夫したのは、あまり(内容を)押し付けがましく感じて欲しくないなと思ったので、淡々と読んで、自然と子供の心が動くような状況を作れればいいなと考えながら読んだ点で、本人の湧き上がる思いを大切にしてあげたいなと。ただそれで自然と、カワイイとか可哀想と言う感情が芽生えていて、最後はオランウータンのぬいぐるみを欲しがっていたり、どうして生きる場所がなくなっちゃっているのと、その因果関係を疑問に思っている様子だったり、そういった反応を自然と引き出すことができていました。写真集からは、きれいな写真をただ並べていると言うわけじゃなくて、ほんとに現状を伝えると言う想いで作られていることが伝わってきました。
ありがとうございます。そうなんですよね。写真だけ載せて、自由に感じてください、だとどうしても難しいことがあって……。(自分の中に)浮かんできた言葉をそのまま掲載しているだけで、ストーリーの落ちもないんですけれど、
(※)「えこりん村」とは、北海道の恵庭で、草地農業を実施している日本最大級の羊牧場の中に、レストラン、キャンプ場、お土産プラザ、体験学習施設などがある複合施設
——確かに最後はオープンエンディングのような、読者に委ねる形でしたね。
はい。その場所で起きていることをなんとなく知ってもらって、ボルネオでは今こうでこういう場所にあるんだなぁとか……、あとは読んだ読者の方に任せたいな、と言う思いがあり、このような作りになりました。値段も何とか2000円を切って制作しました。
——そうですよね。フルカラーの写真集で単行本レベルのこの値段はすごいなと思いました。
はい。そこもすごく努力していただいて。
——この写真集を読んでいて、私の大好きな本、レイチェル・カーソンの『センス オブ ワンダー』を読んだときと非常に近い感覚を受けました。『沈黙の春』などを描いたレイチェル・カーソンの遺作になった作品で、最後まで書き終えることができずに亡くなってしまったので短い本なのですが、柏倉さんの世界観にもぴったりな内容だなと思いました。本当に、彼女が亡くなる直前、最期に次世代の子供たちに伝えたいと言う思いで子供に向けて書いた本で、ざっくり言うと、自然の中で感覚を研ぎ澄まして、霊性を高めて生きると言う方向性を示してくれている内容なのですが。自然と共に人間はどう生きるべきか、と言ったことを子供にもわかるように優しく書いているので、私も子供たちにそのバトンを繋げていきたいと思っているんですけれど、柏倉さんの作品は、それと同じ想いが広がる感覚がしました。
そうなんですね。僕はまだ読んだことがなかったので、すぐに購入して読んでみます。これからやっていく環境問題の(それらを題材とした)撮影も、どういう立ち位置で見ればいいのか可能性を広げたいと思っているので、『センス オブ ワンダー』からヒントをもらえないか考えてみたいと思います。
——私は気に入った本をよく人にプレゼントするので、『センス オブ ワンダー』も何度か手渡したりしているんですが、今回この写真集(『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』)も、すでに何人かプレゼントしたいなと思う人の顔が浮かんできたりしていたので、また購入したいと思います。
ありがとうございます。本当にうれしいです。
——写真集の帯には、「書籍の売り上げから印税として著者に支払われる全額と本の売り上げ金の一部をセピロクオラウータンリハビリテーションセンターに寄付します」と書かれていて、その思い切りの良さに感嘆しました。ただ、本の中身を読めばこれはそのくらい思い入れのある人が撮っている写真、書いている文章だな、ということはすぐに分かりました。愛情とか、やるせない思いや、どうにかしなくては、と言う切迫した気持ちが伝わってきたので、だからこその(寄付といった)取り組みなのだなと。
そうですね。もちろん本自体はたくさん売っていきたいとは思うんですけれど、そんなに大層な売り上げになるわけではありませんし、今は円安なので…。しかし、ようやく今年の8月に初版の印税を全額寄付することができました。オランウータンの保護施設と連絡がつかなかったり、個人での海外送金が思った以上に難しかったり、とても苦労したのですが、たくさんの人に助けられて無事に届けることができました。
湘南Tサイト蔦屋書店に並ぶ写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン 』
——この取り組みを決めたときの思いは、どんなものだったのでしょうか、
(売上の)0.1%を寄付と言うことでしたら、割といろいろなところで行われている取り組みだとは思いますが、そう考えたときに、例えば自分が0.1%分、数万円の売り上げを手にしてもなぁと言う気持ちがあって、だったらいっそのこと全額寄付でいっか!と。表紙にもなっているオランウータンの写真、この写真は10年前に撮った写真なんですけれど、これを撮影した当時はこの写真集を世に出したら世界が変わるかもな、という淡い期待を持っていたものの、何もならなかったんです。当時のその自分を思い出して、あの時の自分だったら全額寄付っていいそうだなぁと。そんなことを思って決めました。
次回予告
オランウータンの写真集を出すことを長年諦めずに、時期を待っていた末にようやく出版に結びついたお話には、学ぶことがたくさんありました。。(第4話)ではボルネオでの取材や、柏倉さんの今後の活動への展望も含めたお話を詳しく伺っていきます。
ネイチャーフォトグラファー柏倉陽介さん参加トークイベント開催決定!
タイトル:「オランウータンへの贈り物」
日時:12月6日(土)14:00〜18:00
場所:東京都渋谷区神宮前6-31-21東急プラザ原宿(ハラカド)3階HOW’z
料金:入場料無料/1オーダー制 *申し込み不要
内容:講演、柏倉陽介による写展示、BOS Japanオリジナルグッズの販売
ゲスト:黒鳥英俊・柏倉陽介
主催:BOS Japan
柏倉陽介さんの写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』は以下から購入できます。
A&Fブックス(オンライン販売)
https://aandf.co.jp/books/detail/back_to_the_wild
冒険研究所書店(オンライン販売/店舗販売)
文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
|
次の記事 |
|---|
|
前の記事 |
|---|
いいねしてethicaの最新記事をチェック
フォローしてethicaの最新情報をチェック
チャンネル登録して、ethica TVを視聴しよう
スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます
