自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。

©Yosuke Kashiwakura
自然に関わる分野を中心に幅広い題材を撮影し、数多くの世界的なコンテストに入賞してきたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介氏。
国際モノクローム写真賞(「Monochrome Photography Awards」)のランドスケープ・フォトグラファー オブ ザ イヤーをはじめ、ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテスト、ワイルドライフ・フォトグラファー オブ ザイヤーの入賞など、輝かしい実績を持つ彼に、これまでの軌跡や、15年越しで出版となった悲願の写真集発売についてのこと、これからの展望などのお話を詳しく伺っていきます。
4夜連続配信企画となる(第4話)では、ボルネオでの取材で体験したこと、そしてこれから柏倉さん自身がどのような使命感を持ってどんなアプローチで活動をしていこうと考えているか、その想いをお届けしていきます。
写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン 』の表紙にはタオルを被った孤児の写真が選ばれた
——30代の時に初めてボルネオに行かれたんですよね。
はい。その後現地に行き直してセピロク オラウータン リハビリテーションセンターに入らせてもらい、そこで長期滞在しながら撮ったときの写真が表紙のオランウータンの写真にもなっています。それを撮ったときは、ようやく撮れた!という手ごたえがすごくありました。帰国したらいろいろな雑誌社に発表して、こんな問題が起きていると言うことを世界中にわかってもらえるだろうなんて思っていたんですけれど、どこにも引っかからず……。世界的な雑誌含めて、すべてのところでフルスイングで空振りしてしまいました。当時は本当に悔しかったですね。自分の見立てが甘かったと、まさに打ちのめされたような感じでした。
——そうだったんですね。でも、そんなふう期待してしまっても仕方がないくらいのパワーを写真から感じました。世の中の認知、関心がそんなに高くないという中で、もがいた15年だったんですね
毎年毎年、この写真集どうでしょう?と企画自体は、出版社に持っていき続けていました。それだけは忘れなくてよかったなと思います。
——細細(ほそぼそ)でもアプローチはやめずに、動き続けていたんですね。
そうですね。(出版社からは)いや〜難しいですねぇ、という風に言われ、やっぱりそうですよね、と納得してすぐ帰る。毎年そんなやりとりをしていました。
——時代の流れが(良い方に)変わったなと言うような節目もなかったのでしょうか。
自然災害や気候変動などの環境問題がどんどん大きくなるにつれて、オランウータンの世界もどんどん認知されるんだろうなと、そう予測はしていたんですけれど、(むしろ)オランウータンとかボルネオの問題をポーンと飛び越えて、世界中が災害だらけになってしまったので、逆にその飛び越えてしまって、(オランウータンやボルネオは)誰にも気にされていないと言うような、そういう感覚がありました。
——なるほど、そちらの方向へ行ってしまったと……。ただそれは後々、自分が写真で何か役に立つことをしようと言う意識にも繋がるわけですね。ボルネオのリハビリテーションセンターに滞在していたとき、現地でそこを取材する人は皆無に近かったと聞きましたが。
そうですね。誰か来ていますかと聞いたら、誰も来ないんだよねぇと返されて。ただ、ナショナル・ジオグラフィックやBBCなどがオランウータンの画を撮るために来ているという事はあって、そういう(オランウータンや動物たちの画を撮影したいと言う意図があっての)撮影にはすごく便利な場所なんだなぁと言う気づきとショックがありました。
——リハビリセンターの現状を伝えると言うよりは、動物たちが木に登っている姿や生息している様子を撮りたいと言う、そういう話ですよね。
そうなんです。後は、ボルネオに来たもののオランウータンを見ることができなかった、という人たちがそこに行ってオランウータンたちの写真を撮ると言う(観光の一部のような)そういう意味合いでは便利な場所になっている状況でした。その入場料が、(動物たちの)ご飯代や、おそらくセンターの方々のお給料などにもなっているので、その活用の仕方は良いと思いますが……。まぁ本当は訓練をする場所なんですけれど、オランウータンを見る場所としての(便利な)側面が有名なのが正直なところですね。
ボルネオ島のセピロクオランウータンリハビリテーションセンター。人間を母親と思い込む孤児はくっついて離れない ©Yosuke Kashiwakura
——ジャーナリズム精神でそこに撮影に行く人はというのは少ないのかもしれませんね。柏倉さんの、写真を通じた社会への貢献と言う気持ちの発端は、ボルネオを訪ねたときにあったのかと思っていましたが、写真展を開催したときのお客さんの反応に引力があったと言う点は意外でした。もともと冒険部の頃から、自然へのシンパシーやセンサーの強さはあったかとは思うのですが、これから自然災害や気候変動問題にフォーカスした活動を中心にしていきたいと言う気持ちの変化はいつからあったのでしょうか?
僕が47歳と言うのもあって、今ある問題をもう自分たちの世代では解決できないかもしれないけれど、次世代の子どもたちが少しでも生きやすい世界になるように何とか行動には移したいという想いが、徐々に強くなってきたというのがあります。大自然の中を縦走や横断して、北極圏を歩いたりしていると分かりますが、自然って容赦がないんです。甘く見たら甘く見た分だけ、その何倍(もの力で)人間におそいかかってくる。とにかく自然は、本当に恐ろしい目にも遭いますし、予想もできない。だから、自然の怖さと言うことも伝えながら、できるだけそこで起きていること、人間のせいで環境破壊が起き自然災害も大きくなって、人間がやったことの何十倍と言う力が返ってくるかもしれないと言ったことなどを、きちんと取材していきたいと言う思いがあります。
——啓蒙や警告といった観点もあるんですね。
そうかもしれません。ちょっと上着を忘れてしまうだけで、山の上でガタガタと震える。ほんとに容姿がないんです。明け方、再び太陽が昇るまでどんどん気温が下がって、これは死んじゃうかもしれない、みたいな気温になってきて……。ようやく太陽が昇ると、生き延びた、と言う実感がある。そんなことを何度も何度も経験しているので、自然の怖さは正確に伝えながら、僕らの行動も修正できるところはしっかり迅速に修正しないと間に合わないと言うことを伝えられたらなと思います。
ただ、(そうは言っても)頭のどこかで、伝えたところでどうなるのかと言う疑問もあるのが正直なところです。例えば夜景が綺麗だと言って、(人は)いろいろなイルミネーションを見に行くじゃないですか。でもそれは電気で光っているし、じゃあその電気はどこから来るのかと考えると、(その背景からは)いろいろなことを考えさせられるんですけれど、それでも今だにまだ夜景が宝石のように綺麗だと言って、たくさんの人がそこに行くと言う現実は昔と変わらずある。僕ごときが写真を撮って、それをどうこうできるわけでもないし、自分がやろうとしていることと、その結果に自信がない部分も正直あります。ただ、だからやらないのではなく、やらないよりはやったほうがいいと言う気持ちで動こうとしています。
光の洪水のような歌舞伎町のネオン風景。 ©Yosuke Kashiwakura
——そうですか。こうして写真集を出されて、端から見ればやりたいことを実現できて、順風満帆な様に思う人もいるかもしれませんが、そうやって柏倉さん自身は、悩み、弱さも感じながら日々活動されているんだな、と言うお話は聞かせてもらえてありがたいです。ただ、自然の怖さを人一倍経験から感じてこられて、身につまされる経験談ではありつつも、その割には撮られる写真がすごく美しいなと思うのですが、自然の怖さをわかった上でこんなふうに美しい写真を撮るんだなぁと言うところが面白いと感じました。そういった葛藤を抱えた上で作られる作品だからこそ、深みがあって、心に訴えかけてくる作品になるのかもしれませんね。
ありがとうございます。雨に降られてずぶ濡れになってぶるぶる震えながら撮っている写真などもありますが。
——やはり過酷な現場ですよね。ネイチャーフォトグラファーと聞いて、私が思い出すのが『LIFE!』と言う映画なんですけれど、あの映画にはショーン・ペンが演じるカリスマフォトグラファーが出てきます。映画の終盤に、雪山の中で伝説のユキヒョウを撮るために寒い吹雪の中で待ち伏せしているシーンがあって。ずっと待っていた念願のユキヒョウが登場するのに写真を撮らなかったと言うのがとても印象的でした。
そうなんですよね。あれシャッターを押さないですよね。
——はい。すごく好きなシーンなんですけれど、「本当に美しいものは人前に現れない」と言うような台詞があって、シャッターを押すのかと思いきや、カメラに邪魔されたくないって、ユキヒョウが消えていくまで肉眼で観察するという。
僕はあのシーンを見たときに、自分だったら押しちゃうだろうなぁって思いながら見てました。
——そうですよね!肉眼で見つつも、そこはちゃっかりと写真にも収めたいところですよね。リアルな写真家の人は、あのシーンをどう思うんだろうと疑問に思っていましたが、解決しました。
ファインダーを見ながら押していると記憶に残らないというか、記憶として写真的な記憶になってしまって、立体的な記憶には残りづらいと言うことがあるんですよね。そういうことも含まれているのかなぁと思いながら見ていました。ただやっぱり僕は押すだろうなぁ!
——あの流れは映画的でしたね。今の時代でしたら、すぐに写真を撮ってネットにアップする行為に結びつけてしまうSNS時代への皮肉かなとも思いますが。
確かに、そういうことにも捉えられますね。僕は(映画の中で)飛行機の上に足をくくりつけて、そのまま上に立って撮影すると言う(シーンを見て)、僕はあんなことまでやらなきゃいけないのかなって!あの時ものすごくびっくりしましたけど。
——柏倉さんの写真も、自然の一部となって長い時間そこに張って撮影をしているのかなと思って見ていました。
そうですね。待つ事はやはり多いですね。
——過去のインタビューでは、待つこと無駄じゃないと言うような話をされていましたね。
そうですね。ボルネオなどでは待っていると、だんだんヒルが服を這い上がってくるなんてこともあるので、(服装など)万全の用意をして待つ。まぁヒルくらいだったら、指でピンッと弾いてしまえば問題ないと言う感覚ですね。
——……すごいですね。とても自分には真似できそうにありませんが、自分にできる些細なことで、こうして本を手に取って人にお勧めして、と言う様なことで、1ミリ前進することに協力できたらなと思います。
僕もそうですね。ちょっとずつ前進をしていきたいと思います。
——柏倉さんから読者の方へ伝えたいことや望むことがあればお聞かせいただけますか?。
僕としては、まず、アジアの中にオランウータンという、ゴリラとチンパンジーと同じくらい面白い動物がいて、ボルネオという、アマゾンとはまた違う熱帯雨林があるということを認識してもらえたら嬉しいと思います。
「Endless Yosuke Kashiwakura Photo Exhibition」で開催されたトークイベント ©Yosuke Kashiwakura
——まずは知っていただいて、認知することが大切ですね。本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました。
ネイチャーフォトグラファー柏倉陽介さん参加トークイベント開催決定!
タイトル:「オランウータンへの贈り物」
日時:12月6日(土)14:00〜18:00
場所:東京都渋谷区神宮前6-31-21東急プラザ原宿(ハラカド)3階HOW’z
料金:入場料無料/1オーダー制 *申し込み不要
内容:講演、柏倉陽介による写展示、BOS Japanオリジナルグッズの販売
ゲスト:黒鳥英俊・柏倉陽介
主催:BOS Japan
柏倉陽介さんの写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』は以下から購入できます。
A&Fブックス(オンライン販売)
https://aandf.co.jp/books/detail/back_to_the_wild
冒険研究所書店(オンライン販売/店舗販売)
文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)
私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp
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