(第25話)稲刈りとごはんつぶ【連載】かぞくの栞(しおり) 暮らしのなかで大切にしたい家族とwell-being
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(第25話)稲刈りとごはんつぶ【連載】かぞくの栞(しおり)

心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態であることを意味する「well-being」。

一人ひとりがwell-beingであることが、社会や環境をより良くしていくことにつながるのだと思います。

では、「私にとって良い状態」ってどういうものなんだろう?

そのヒントは、意外と何気ない日常の中に散りばめられているのかもしれません。

新しく何かを始めるのも大切だけど、まずは身近な人や自分が「ごきげん」でいることから。

家族と過ごすなかで感じる、そんな一瞬一瞬を切り取って、綴っていけたらと思います。

山と田んぼと古民家

先日、友人の田んぼで稲刈りを体験させてもらいました。

 

家から車で1時間ほど走って高速を降りると、間もなく山と田んぼと古民家という、昔ながらの風景が目の前に広がります。

真っ青な秋の空とのコントラストが美しく、とっても清々しい気持ちに。

 

友人から稲刈りのやり方を教わり、一人ひとり鎌を片手に稲刈りがスタートです。

 

重たそうに頭を垂れている稲を一株ずつつかんで、鎌で刈っては三束ごとに重ねて麻ひもで縛る。

ザクッと切れる鎌の手応えが気持ちよく、一刈りするごとに体が軽く、頭の中がスッキリとしてくるのを感じます。気がつけばみんな黙々と、作業に夢中に。

 

娘もそんな大人たちの姿を見てか、自ら、刈り取った稲を運ぶ作業を見よう見真似でお手伝い。

体ほどの長さのある稲を両手に抱えて、転んだりよろけつつも気をつけて落とさないように運んでは、また次の束のところへ走っていく。もう気持ちは立派に一人前なんだなぁとしみじみ。

「お米一粒一粒から、お茶碗一杯分くらいのお米ができるんだよ」。

学生のころ、知り合いの農家さんから聞いて衝撃を受けたお米の生命力。

 

ごはんは一粒残らず食べなさい、と小さい頃から言われていたけれども、その一粒の重み、言葉の意味がストンと落ちた瞬間でした。

 

稲刈りが一段落してお昼ごはんの時間、釜戸で火を起こし羽釜で炊いたピカピカの新米を前に、ふと思い出したその言葉。

 

友人が田起こしから苗を育てて田植えをして、夏の暑い時期草抜きや虫の駆除をし、自然災害の心配もあるなか、ようやく稲刈り、それから脱穀して精米して。

 

いつも何気なくぱくぱく食べているごはんだけれど、ここに至るまでにはたくさんの手間がかかっている。そんなことをあらためて実感し感謝の気持ちが湧くと同時に、ごはんの一口ひとくちがより一層味わい深く感じたのでした。

ちなみに、そんな気持ちの変化は娘にも。

いつもならお茶碗に残ったごはん粒は、「あつまれしてー」と人任せにしがちなところが、一緒に稲刈りをしたその日から「みて、ぴかぴかやで!」「おこめさん、よろこんでるかなぁ」と自分で残さず集めようとする姿もちょっぴり出てきました。

 

残さず食べなさい、とか苦手な物も食べてみよう、とか口酸っぱくして言うよりも、どのように作られているのか、誰が作っているのか、食のつながりが見えることがやっぱり大事なんだなぁとしみじみ。

 

この秋の経験が、豊かなものとして娘のなかに残っていってくれたらいいな。

そんなことを思いながら、稲刈りの心地よい疲れとともに眠りについた秋の夜長なのでした。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】かぞくの栞(しおり)

季子(キコ)

一児の母親。高校生のころ「食べたもので体はできている」という言葉と出会い食生活を見直したことで、長い付き合いだったアトピーが大きく改善。その体験をきっかけに食を取り巻く問題へと関心が広がり、大学では環境社会学を専攻する。

産後一年間の育休を経て職場復帰。あわただしい日々のなかでも気軽に取り入れられる、私にとっても家族にとっても、地球にとっても無理のない「いい塩梅」な生き方を模索中。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

季子(キコ)

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