読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第6節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学(第6節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第8章は「挑戦の哲学」と題してお送りします。新年度を控え、この春に卒業・進学・就職を迎える人、あるいはこの春新しいことにチャレンジする人へ向けて、東南アジアで見つけた挑戦と幸せの哲学をご紹介します。

第8章 挑戦の哲学

第6節 変化を記録する(後編:メディアにやどる感情)

この記事は前回の続きになっています。バックナンバーからご確認いただけます。

変化の最中で、その時に覚えた感情を記録しておくのは、大変な作業です。かと言って、それを怠った先に待っているのは、「なんだか成長したらしい」という根拠のない、空虚な達成感です。では、一体どうすれば良いのか。その答えが、ベトナムにありました。

学生の多くが実践していたこと、それはスマホで写真を撮ることでした。ただし、これは元々この問題とは全く異なる文脈で行われていたことです。詳細は以前、別の記事に書きましたので、気になる人はそちらもチェックしてみてください(第5章第4節 )。とにかく、多くの学生が写真を撮るのにつられて、私自身も普段以上に多くシャッターを切りました。一体そこに何の意味を見出せばよいのかもわからない、道端の植物まで写真に収めては、削除ボタンを押す未来を容易に想像したりしていました。

一見すると、本当に何の写真かわからない(答え:お風呂)

帰国すると、いつもの通り、「なんだか一回りは成長した」という、もはや慣れ切った感覚が全身を包みました。また私は、なんだかわからないまま、大きくなった器だけを空しく手に抱えているのだ、と思いました。ところが数日後、友人にベトナムでの写真を見せていたところ、思いもよらない波が私を飲みこんだのです。それは、被写体に付随していた、紛れもなく私自身の感情がつくる激浪でした。

静かな朝

私がなぜ、宿泊していたホステルの玄関だけをただ写真に収めたのか。それはホーチミン市を経つ朝、これから静かになるであろうその玄関で夜通し行ったミーティングの記憶と、そのときの感情を閉じ込めておきたかったからです。恐らく私は、その写真を撮ったときに、「長く苦しいあのミーティングからやっと解放されるのだ」という徒労感を、その誰もいない玄関に向かって覚えていたのです。つまり、私が写真に写したものは全て、その時の感情と深く関係しているわけです。

写真というメディアにやどる感情に気付いた瞬間、私は全く救われた気持ちになりました。紙に書いて記録しておくことはできなくても、その当時撮った写真が感情の記録へと導くメルクマールなのです。その対象物を写真に収めたという事実そのものが、私がそれを収めたかったという、とある感情へと繋がっている。道端の植物を撮るのにもきっと感情的な理由があるはずで、例えばその時に、全く別の感情を持っていれば、私はそれを撮らなかったでしょう。

少女の笑顔が今と当時を繋ぐ

そのようにして、私は数日かけて、ほとんど全ての写真に目を通しました。なぜその写真でなければならなかったのか、何を思い、私はシャッターを切ったのか、そういったものに向き合うことで、私は失ったパズルのピースを拾い集めるように、成長の根拠を積み上げました。結果的に、私はたくさんの感情からできた学びの引き出しをつくることに成功しました。この連載も含めて、私は未だに、多くのことをその引き出しから取り出しては眺めているわけです。

実は、『ライ麦畑でつかまえて』の記述には、次のような続きがあります。

「同じように、もし君に提供すべき何かができたなら、誰かがいつの日か君からその何かを学ぶことになるだろう。それは美しくも互恵的な仕組みなんだよ。それは教育みたいなことにとどまらない。それは歴史であり、詩なんだ」(キャッチャー・イン・ザ・ライ,村上春樹訳,2006,p.321)

私がこの連載で目指すのは、正にそのようなポエティックな仕組みかもしれません。

見慣れないお菓子

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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