【ethica Traveler】エシカ編集部が誘う大阪・関西万博の旅 中欧編(上巻)ハンガリー
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【ethica Traveler】エシカ編集部が誘う大阪・関西万博の旅 中欧編(上巻)ハンガリー

パビリオンの管内通路に映し出されたショートフィルム

人生で一度きりの体験ができるとしたら、あなたはどんな景色を想像しますか? 日々の忙しさに追われる中でふと、壮大な旅に出る自分を想像してみたことは? もしも世界一周旅行ができたら…、そんなふうに想像したらワクワクしてきます!

実現が難しそうな、そんな大きな夢もいま、大阪で開催中の「大阪・関西万博」へ行けば、まるで世界一周旅行をしているかのような体験を一日で味わえるのでは? そんな気づきから、エシカ編集部が世界の旅を皆さんにお届けしていきます。

今回は中欧編として、ハンガリーとポーランドを巡ります!

「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい、ハンガリーのブダペスト

ヨーロッパのほぼ真ん中、内陸に位置するハンガリーは1000年以上の歴史を持つ国。7カ国と隣接しており、周りはオーストリア、スロバキア、ウクライナ、ルーマニア、セルビア、クロアチア、スロベニアと言った国々に囲まれています。

ハンガリーは内陸国で、温暖な大陸性気候です。夏は30度前後まで暑くなり、冬は氷点下まで冷え込むこともあります。カルパチア山脈は中央ヨーロッパを約1500キロにわたり取り囲み、その一部は「カルパチア山脈とヨーロッパ各地の古代および原生ブナ林」としてユネスコ世界遺産に登録されています。ハンガリーはこの山脈に囲まれたカルパチア盆地に位置し、その大部分がパンノニア平原と呼ばれる平地です。とくに東部には「プスタ」と呼ばれる広大な草原が広がり、毎年秋になるとヨーロッパ中から数え切れないほどの渡り鳥が集まる壮大な光景で知られています。

 もう一つ欠かせないのは日本人にも馴染み深い「温泉」です。温泉大国でもあるハンガリーでは、首都ブダペストにもたくさんの温泉施設があり、入る温泉だけでなく飲む温泉も身近にあるのだそう。中でもヨーロッパ最大級の温泉である「セーチェーニ温泉」は100年以上の歴史を持つ、地元の人にも観光客にも人気の場所で、水着着用で入る男女混合の温泉複合施設のそこは、1913年に建設された荘厳なネオ・バロック様式の建物が印象的です。

ヨーロッパ最大級の温泉「セーチェーニ温泉」

約1200mの地下から組み上げられる温泉はミネラルやカルシウム、マグネシウム等が豊富に含まれていて、常時32度という、ぬるめのお湯に長くゆっくり浸かるのがハンガリー流。お湯に浸かりながらチェスをしたり、読書をしたりと、思い思いにゆったりとした時間を楽しんでいる光景が日常で、温泉好きなら一生に一度はぜひ一度訪れてみたい場所でしょう。

首都「ブダペスト」は、「ヨーロピアン・ベスト・デスティネーション2019」において第1位に選出されいてる。ドナウ河に隣接し聳え立っている国会議事堂の建築が、象徴的な存在を放つ

数々の有名人を輩出し、世界的な功績を残しているハンガリー

ハンガリーでは、ノーベル賞を受賞した科学者や、有名な発明を数多く世に送り出してきた人物など、世界的な評価を受けてきた優秀な人材を数多く有している点も見逃せません。

化学の世界で著名なのは、例えば、ハンガリーのパプリカから始めてビタミンCを抽出し、生理学者のセント=ジェルジ・アルベルト。何でも、パプリカとキャベツはハンガリーでは代表的な野菜で、ハンガリー料理にもたくさん使われているのだそうです。

そんな身近なパプリカから、ビタミンCが発見されていたとは知りませんでした。近年では、新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチンに利用された技術も、ハンガリー人であるカリコ・カタリンが研究したものです。

もっと身近なところで例を挙げると、私たちが毎日のように手にしているボールペンの発明も、ハンガリー人であるビーロー・ラースローによって発明されました。そして、世界中で愛され続けて50年以上になるおもちゃのルービックキューブ。これは、ハンガリーの建築学者であるルビク・エルネーが考案したもの。なんとルービックは人の名前だったのですね! 知れば知るほど、私たちの生活のそこここにハンガリー出身の方との繋がりがあり、実は日頃たくさんの恩恵も受けていたのだという事実に驚きを感じます。

フォルクス/volks(民衆)とネイチャー/nature(自然)から学ぶ未来への架け橋

大阪・関西万博のハンガリーパビリオンを見てみましょう。パビリオンの設計はハンガリーの建築デザイン事務所 ZDA(Zoboki Design & Architecture)によって、カルパチア盆地の神秘的な森を散策しているようなランドスケープをテーマにデザインされています。前景は野生の森を、アプローチ部分は盆地に広がる草原をイメージし、後方のドームは干草の山を表しています。

入口通ってすぐのホールの壁に掲げられているのは、最も偉大なハンガリー人と言われている政治家のセーチェーニ・イシュトヴァーンの言葉、「過去を尊重することで現在を理解し、未来に取り組むことができる」。その文言が象徴的なように、このパビリオンでは、未来は伝統に根ざしていること、そして先人たちから受け継がれたものを大切に子どもたちに伝えること、そして友人たちと分かち合うことの大切さを伝えようとしているのです。そしてもう一つ、ハンガリーには「一緒に歌うことは天国への玄関口である」というコトバがあるのだそうで、その世界観を取り入れた、パビリオンを訪れる人々を民謡の世界へ誘う演出と仕掛けが随所に施されているのです。

繊細なガラスアート Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

展示空間に入ると、そこに並ぶのはレイヤー状に重なってそびえ立つ繊細なガラスアート。デザインには民謡の歌詞が表現されていて、よく観察してみると日本語で書かれている部分も見つけることができます。ハンガリーはガラス細工を作ることに長けており、パビリオン内で展示されている技巧が凝らされたこれらのガラス細工は、全てハンガリーで作られ日本に運んでいるのだそうです。暗く静謐な空間で、ライトに照らされ輝きを放ちながら佇む美しいガラス細工のデザインに、時間を忘れて見惚れてしまいました。

頭上を見てみると、上から下がっている花のようなシャンデリア調のオブジェはスズランを模したもの。森に多く自生していて、ハンガリーの昔話にも出てくるというスズランが自然や伝統文化を表すものとして展示に盛り込まれていて、その香りも再現しているのだというから驚きます。意識して嗅いでみると確かにほんのりと花のフラグランスが感じられ、五感を刺激する仕掛けに楽しくなりました。

自然や伝統文化を表す象徴と言い伝えられるスズランをモチーフとしたインスタレーション Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

最後にたどり着く天井が高いドーム空間で、待っていたのはハンガリー民謡のパフォーマンスです。美しく繊細な民族衣装を纏った歌い手が、360度囲んだ観客たちの中央に立ち、闇の中でスポットライトを浴びて、ハンガリー民謡の「春の風が水を満たす」を歌います。ゆっくりと一筋の煙が立ち登るように緩やかにはじまった音楽が段々と盛り上がり、やがて地面が回転し始め、歌い手自身もくるくると自転しながら速度を上げ、踊りと歌が最高潮の盛り上がりを見せます。

ハンガリー民謡のパフォーマンス Photo=Kentaro Ohtani ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

その美しい歌声と、ドーム空間に響く荘厳な音楽が宇宙空間を漂うような浮遊感を持って、ハンガリーの長い歴史と伝統を垣間見ることができるような夢のような心地を味わわせてくれました。この民謡は小学生の頃に教科書でも習うような有名な曲だそうで、こうして歌に乗せて後世に世界の理(ことわり)を継承してきた歴史があるのだなぁ、としみじみ。広い世界を感じさせてくれる体験はまさに旅の醍醐味だと思った瞬間でした。

中欧編(下巻)ポーランドに続く

文:神田聖ら(ethica編集部)/企画・構成:大谷賢太郎(ethica編集長)

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私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

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