読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第2節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第13章 肥後のあれこれ

第2節 どうして人は花を育てるのか

「コロナ禍による変化」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。マスクとかソーシャルディスタンスはさておき、日常にどんな変化があったでしょうか。特に、変化がいつのまにか日常になったものとして、どんなことが身の回りにあるでしょう。

私は真っ先に「植物の増加」を思い浮かべます。つまり、家にプランターがやたらと増えたことです。外から苗を買ってきたものもあれば、自分で植えて発芽させたものもあります。コロナ禍以降、花や観葉植物がじわじわと増えていって、ベランダや玄関先、部屋のなかにも緑が茂っています。

どうして人は花を育てるのでしょうか。最近、マーセル・セローの『極北』という小説を読みました。村上春樹の翻訳です。そこには、法秩序の失われた過酷な極北の環境で、主人公が庭作業に一種の安らぎを感じるシーンがでてきます。種が発芽し、成長し、花を咲かせ、また種を落とす。そうして生命が続いていくことに主人公はどこか希望を抱いているのです。

花に希望なんて、と思うかもしれません。あるいは、小説の話なんだから、とも。でも、私たちは花が咲く喜びを日常の至る所で見出しています。春に桜が見たいと思ったり、道端のコスモスに秋を感じ取ったり、たとえ都市で暮らしていたとしても、私たちは花に思いを馳せながら暮らしています。

私が熊本で祖父母の家に滞在していたとき、その庭に彼岸花の蕾がありました。今にも真っ赤なその花弁を広げ、太陽に顔を突き出そうとしている蕾です。祖母は毎日のように「明日には咲くかな」と言いました。

それから私たちは数日待ちました。そしてある日、勇気ある最初の1輪が咲きました。その大きな花は、その手足をすっかり広げて、すがすがしいほど陽を浴びていました。晩夏の柔らかい光のなかで、その紅色が煌々と輝いて見えたのを覚えています。それから次々に他の花も咲きました。

私はその一連の出来事を、とても良い気持ちで思い出します。開花をいまかいまかと待つときの感覚には、どこか特別なものがあります。それはどこか他では感じることのできないもの、例えば新製品の発売を待つときの感覚とは質的に違うものです。「摂理」と言うといやに大げさですが、何か私たちの手の届く外側にあるものと対峙する感覚、押したり引いたりすることができないものをただじっと眺め待つ感覚。私たちが花を育てるとは、そういう感覚と共に生きるためなのかもしれません。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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