読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第5節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第5節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第13章 肥後のあれこれ

第5節 この世の果ての家

将来、あなたはどこで何をしているでしょうか。例えば、「終の住処」として、あなたはどのような場所を思い描きますか。そこで、あなたは一体どんな生活を送っているでしょうか。

どんなに世の中が不安定で曖昧でも、私たちはどうしても将来について思いを巡らさざるを得ません。かろうじて来年どこで何をしているかがぎりぎりわかる程度なのに、自分が死ぬそのときについて予定を立てるなんて、なんとも馬鹿げているなと思いながらも、それでもやはり数少ない事実からできる限り現実的で、少しだけ理想的な未来を描くことが、現代を生きる私たちに共通することなのかもしれません。

マイケル・カニンガムは「この世の果ての家(A Home at the End of the World)」という小説のなかで、不確定でリスクにあふれた世界を生きる人々の様相を描いています。1960年代~70年代のオハイオ、そして1980年年代のニューヨークを舞台に展開するこの物語は、まさに人々が、これまでの近代的な家族や職業から「解放」され、「自由」になった時代に関する記述です。当時、そうした近代の作り出した制度からの脱却は、ある程度ポジティブな文脈で捉えられていました。だからこそ「解放」であり「自由」だったのです。しかし、それは同時に、人々が自分たち自身でリスクを背負うということを意味しました。「この世の果ての家」の主人公たちは、そうした「自由」と「不安」の間で必死に生を創り上げています。

決して定まらない将来についての漠然とした希望。終の住処を考えるときには、そうした感覚があります。

そもそも、どうしてこんな話をするのかと言えば、それは「残りの人生をそこで終えるような家」という存在が、私にとって身近ではないからです。これを強く認識したのは紛れもなく熊本で、私にとって祖父母の家とは、私が未来を考えるために私の手元にある「数少ない事実」でした。私は、一体どのような家に暮らし、どのような生活を送るのか。祖父母がそこで生を紡いでいるという現実が私にとっての参照点となることで、私は将来に対し、現実的でありながらも理想的な像を抱くことができるわけです。

私たちはかつてないほどの「自由」と「不安」を抱いています。もはや拠り所とするものが社会的に用意されない時代に、私たちは生きざるを得ません。参照点を見つけることが個人の仕事となり、責任となっています。それに良い悪いの判断を下すこともできますが、より重要なのは私たちが「既に」その仕事と責任を負っているという事実です。

私たちは自分たちが思っている以上に、現実の生を作り上げて生きています。私にとって、熊本という土地や、祖父母の家が参照点であるように、読者の皆さんにもそうした点があるでしょう。「この世の果ての家」を考えることは、自分たちや自分たちの周りにある事物に目を凝らし、自分自身の歴史を作る作業です。それはとても大変な仕事ですが、必要な(あるいは、そうと考えられている)仕事です。生の個人化に伴って登場したウェルビーイングという概念を捉えるうえでは、この重要な問題について考えることを避けることはできないと私は考えています。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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