読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第12章:アリストテレスとわたし(第6節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第12章:アリストテレスとわたし(第6節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第12章 アリストテレスとわたし

第6節 「ちょうどいい」を探る

さて、これまで『ニコマコス倫理学』を読みながら、アリストテレスの考える「幸せの方法」について見てきました。ここまで来ると、なんとなく彼の主張の方向性が掴めてきたのではないでしょうか。

「哲学ってなんだか難しそう」とか「アリストテレスはきっと難解な書物ばかり出しているに違いない」と思っていた方は、彼の議論のシンプルさに驚いているかもしれません。ある意味では「当たり前のこと」を言っている、と考える人もいるでしょう。ところが、その「当たり前」に、わたしたちが実は見逃している事柄が隠れている、というのが『ニコマコス倫理学』の最大の魅力なのです。

今回紹介する部分は、わりに雑ぱくな話です。簡単に言ってしまえば、「人間、適当にやるのが良いよね~」という感じです。『ニコマコス倫理学』の中で、これは「中庸」と呼ばれています。

「徳がある状態が望ましい」と言ったとき、それはどういう状態を指すのか。アリストテレスは、そのことを『ニコマコス倫理学』第2巻第6章で探求しています。彼によれば、徳の本来の性質は、「等しいもの」です。ここで言う「等しさ」は、「『超過』と『不足』の中間」を意味しています。

例えば、0から10まで数字が並んでいるとき、0が「不足」、10が「超過」だとします。すると、このときその中間にあるのは5であり、この5は0からも10からも等しい距離離れています。ちなみにアリストテレスは、これを「算術的比例関係」と呼んでいます。

ただし、彼は、人間に関しては、これをそのまま当てはめるのは良くないと言います。例えば、「食べなさすぎ(不足)」と「食べすぎ(超過)」があるとします。ある人にとっては、米1合は「食べなさすぎ」、米3合は「食べすぎ」です。したがって、その人にとっての中間は米2合になるでしょう。一方で、スポーツ選手にとってはどうでしょうか。体力をつけたいスポーツ選手にとって、米3合は「食べすぎ」でも何でもなく、むしろそれが「中間」かもしれません。

このように、アリストテレスは人間に関して「中間」と言ったときには、「事柄における中間」ではなく、「われわれとの関係における中間」が大事だと言います。それぞれの状況や、人によって、中間の位置は異なっており、それは必ずしも「不足」や「超過」から距離が全く等しいということを意味しない、というわけですね。これこそが「中庸(メソテース)」です。

その上で、「不足」や「超過」は悪徳であり、「中庸」は徳である、とアリストテレスは言います。例えば、お金の使い方を見てみましょう。悪徳である不足と超過は、それぞれ「ケチ」と「浪費」です。一方で、中庸は「気前の良さ」です。アリストテレスは、勇気や節制、正直さや、機知などを中庸としています。

さらにここで重要なのは、「中庸とは困難なことである」ということです。『ニコマコス倫理学』の中では、中庸は「中間にうまく命中させる」と形容されています。中庸とは狙って実現するものなのです。日本語には「適当」という言葉がありますが、これは「適切な程度」という意味であり、すなわち、ものごとの中間=中庸を表しています。

冒頭で、「人間、適当にやるのが良いよね~」と言いましたが、これは決して簡単なことではありません。むしろ、狙ってやらないとできないことなのです。そして、恐らくわたしたちが「ウェルビーイング」と言うときには、この「適当さ」「ちょうどよさ」が鍵になるはずです。

「不足」でも「超過」でもない「中間」。状況によって移り変わる中間=「中庸」を、まさに矢を射って命中させる。それが「ウェルビーイング」で目指されることなのではないでしょうか。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

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ethica編集部

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