読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第4節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第4節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第7章は「旧正月とベトナム」と題して、お送りします。旧正月をお祝いするベトナムには、ウェルビーイングのヒントとなる出来事が溢れています。

第7章 旧正月とベトナム

第4節 路面の花売り

先日、駅前の喫茶店でエスプレッソコーヒーを飲みながら、向かいにある花屋を眺めていました。若い女性定員は、1輪の花を大きな壺から少しだけ引き抜いて、花の正面を店先に向けたり、レジ横に積んであるユーカリの束をひと掴みして茎下を切り落としたり、忙しそうにしていました。休日だからか客の出入りも多く、ネクタイを締めた年配の男性から、膝の下まで隠れるベルベットのコートに身を包んだ若い女性までいます。各々が包みを持って出ていく様を見ながら、ふと私の頭に思い浮かんだのは、真黄色の菊の花たちが路上に陳列され、誰かの手に取られるのを待っている姿です。簡易テントの下で煌々と照らされた黄色の花たちが、目の前を通り過ぎるバイクの騒音に負けじと、一層花弁を広げている光景です。

それはちょうど、3年前の今頃でした。ホーチミン市から離れた、のんびりとした田舎町で旧正月が訪れるのを待っている間、私は友人とよくバイクで町を散策しました。ほとんどの場合は、友人の運転する後ろに乗っていましたが、たまに私自身が運転することもありました。もちろんベトナムの交通ルールなど知らず、それどころか当時は日本の運転免許さえ持っていなかった(!)ので、今思えば明らかな法律違反でしたが、そうした些細な冒険があの時の私たちには必要だったのかもしれません(※真似してはいけません)。

ドライブ風景

バイクでの散策にこれといった目的地はありません。市場のある方に行ってみたり、ちょっと高級な家の並ぶ通りを走ってみたり、とにかく気ままに走らせていました。深夜にドライブにでかけることもあり、街灯もほとんどないような道を颯爽と走り抜けるのは、これ以上にない快感でした。

その日も夕飯の後に、友人と市場の方に行ってみようという話になり、バイクに乗りました。旧正月が近づくにつれ、町は華やかさが増していきますが、とりわけその日の市場は人で溢れていました。ほとんどの人はバイクに乗っていましたから、「人で溢れていた」というより「バイクで溢れていた」という方が正しいかもしれませんが、そのおかげで特に屋台が並ぶ通りはほとんど渋滞したように思います。

タピオカやフルーツなどが入ったドリンク

屋台では、蒸し暑い夜にピッタリな冷たいドリンクや、魚醤の匂いが空腹を誘う炒め料理が売られていました。それに加えてひと際目を引いたのが、菊の花を売る露店です。テントの下に収まりきらないほどの鉢が10メートル以上も横に並ぶ様は圧巻で、まるで黄色の絨毯が敷いてあるよう。1つ1つの花、1つ1つの花弁がピンっと伸びきっていて、月明かりを照らし返しています。沢山のバイクがその脇を通りすぎていく中で、菊たちはいつ自分が買われても良いように必死にアピールしているようにも見えました。

菊の奥には向日葵も

ただ、写真ではあの花の持つ力は伝わらないだろうなとも思います。花というのは、触って、匂いをかいで、色んな角度から見て楽しむものです。あの路面で売られていた菊が、私が見て、かいで、感じた「私だけのもの」であるように、向かいの花屋で買われていった花たちも「それを抱える人たちだけのもの」なのでしょう。

つまり、私たちが「知っていること」や「持っているもの」は自明では決してなく、私たちの身体性によって初めて意味を与えられているというわけです。例えば、菊の花の写真を見ても「知っていること」にはなりません。実際に触覚を使って感じることが、その菊の花を「知る」ということなのです。アーティストのライブでも同じでしょう。「ライブに行った」と言えば、身体がそこにあったことを意味します。決して記録映像を見て、頭の中でライブに参加した気分になったことを、「ライブに行った」とは言いません。

私たちが「ライブ体験」を大事にするのは、そこに身体があるからです。記録や記憶の再生には、身体は不在です。私があの蒸し暑い夜に菊の花を感じ、そこに美を見出したのは、私の身体がその時そこにあったからです。

巷では、ヴァーチャル旅行が登場していますが、身体が不在している映像にどこまで期待できるだろうかと私は懐疑的です。ヴァーチャル旅行で、現地に行った気になって満足するのは、嘘の身体を充足させることに思えるからです。だったら私は、旅行に行きたいというフラストレーションを身体の内に溜めておく方がよっぽど良いのではないかと考えます。

実は、この連載を通して私がやっているのは、その実践であったりします。読者の方がこの連載を読んで東南アジアに行った気になるよりも、「この筆者と同じような経験をしてみたい」と思ってくれれば良いな、と少し期待しています。場所は必ずしも東南アジアでなくても良くて、実際の体験からウェルビーイングを拾い上げる作業を、そのあなたの「身体」を通して行って欲しいわけです。

菊の花が綺麗だったということを言うのにかなり遠回りしてしまいましたが、読者の方には是非「へえ、ベトナムの菊の花は綺麗なんだ」で終わらずに、「私の周りにはどんな綺麗なものがあるかな」と思慮を巡らせて欲しいと思います。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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