誠実努力で「なくてはならない会社」へ 【サステナブル・ブランド国際会議2019東京】レポート『セイコーエプソン編』
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誠実努力で「なくてはならない会社」へ

「サステナブル・ブランド 国際会議2019 東京」の初日に、基調講演を行ったセイコーエプソン株式会社 代表取締役社長の碓井稔氏。

2019年3月6日・7日の二日間、当媒体がメディアパートナーを務めた「サステナブル・ブランド 国際会議2019 東京」が、ヒルトン東京お台場で開催されました。サステナビリティ(持続可能性)とブランド戦略の統合をテーマにした同会議、日本では2016年から開催されていますが、年々各界の関心も高まり、今年は国内外から2,200名を超える参加がありました。

本記事では、「Plenary Sessions」(国内外のサステナビリティ有識者、先進ブランドの代表者による基調講演)で初日に登壇したセイコーエプソン株式会社の代表取締役社長、碓井稔氏のスピーチ「経営理念の実践による持続可能型社会の実現」の内容の一部をご紹介します。

セイコーエプソン株式会社は、「SB2019 東京」のプラチナ・スポンサー。サステナブル・ブランドのリーダー企業の社長講演に、多くの聴講者が真剣に耳を傾ける。ホールはほぼ満席だった。

豊かな自然と日本人の勤勉さが生み出したクオーツの技術を礎に

セイコーエプソン株式会社の前身である大和工業は、風光明媚な信州・諏訪湖の湖畔に1942年に創業しました。精密機器の製造は、水が豊かで空気の澄んだ場所が適しています。同社は「誠実努力」という創業者の理念のもと、ウォッチの開発を行い、創業から二十年余で国際スポーツ大会の公式時計を製造、そして世界初のクオーツウォッチを発表し、世界的な評価を得ます。日本アルプスの豊かな自然の中で、日本人の高度な技術が育まれていった諏訪地域は、いつしか「東洋のスイス」と呼ばれるようになりました。

そして、ウォッチ開発で磨き上げた超微細・精密加工技術を各分野に応用し、1975年に「エプソン」ブランドが誕生。セイコーエプソン株式会社となったのち、90年代以降「プリンター」「プロジェクター」「デバイス」の三本柱で事業を展開し、企業として大きな飛躍を遂げました。

碓井社長は会社の沿革を説明したのち、壇上のスクリーンに一枚の写真を投影しました。青空の下、山脈に囲まれた大きな湖の水面に、白い氷塊が立ち並んでいます。

碓井社長: これは、諏訪湖に生まれる「御神渡り(おみわたり)」という現象です。非常に寒くなりますと、諏訪湖の氷がこのように割れて、盛り上がる現象が起きます。しかし近年、温暖化の進んだせいでしょうか、数年に一度しか、こういった現象が生まれなくなってしまいました。

私どもは創業当時から、地球環境と共に歩む会社でありたい、という思いがあります。自分たちの活動の中で、なんとかこの温暖化を防ぐべく、80年代の後半から、オゾン層破壊の元凶であるフロンの撤廃に取り組み、92年には世界に先駆けて、フロンの全廃を達成しました。

会社の発展になくてはならない美しい水と空気。セイコーエプソンの地球環境に対する意識は、早くから芽生えていたのです。

碓井社長が紹介した諏訪湖の「御神渡り」の風景。「御神渡り」は全面氷結した湖面に、氷の道が現れる自然現象。温暖化の影響もあってか、近年「御神渡り」が起こらない年が増えている。(画像は諏訪市提供)

創業当初の理念をふたたび コストと環境負荷を抑えて顧客価値を再認識

クオーツとプリンターの開発で培ってきた創造と挑戦の精神を以って、企業として順調に成長を遂げてきたセイコーエプソン株式会社。90年代に売上規模は1兆円を超えるまでに。しかし2000年以降、その成長に翳りが見え始めます。

碓井社長: 2000年代、私どもも(同業他社と同じように)、プリンター本体を安く売り、インクなどの消耗品で利益を回収するビジネスモデルを採用しました。また液晶ディスプレイの事業についても、多くのコンペティターに勝つことを優先したあまり、「お客様の期待に誠実に向き合い、その期待に応える」という創業からの姿勢を見失っていたのです。その結果が、業績の大きな低迷につながりました。

「これではいけない。」碓井社長が社長に就任した2008年、同社は企業としての大きな岐路にあったと言えるでしょう。

碓井社長は、プリンターの黎明期とも言える1979年に信州精器株式会社(現、セイコーエプソン株式会社)に入社後、長らく同社でプリンターの開発に携わってきました。日本のインクジェットプリンターの来し方行く末を見据えてきたエンジニア社長が下した大きな決断が、プリンター事業におけるインクカートリッジモデルからの決別、そして液晶プロジェクターの開発強化でした。

碓井社長: やはり、社会に貢献し、地球環境とともに歩める会社にならなければならない、と感じたのです。プリンターというものは、お客様にコストや環境への影響を気にせずに印刷をしていただけるものでなければなりません。そのために、従来のインクカートリッジモデルをやめ、大容量インクタンクモデルに切り替えました。そうすることで印刷のコストは1/10以下になります。「これで勝負をしよう」と。そしてまた液晶の事業も、他社との競争に明け暮れるのではなく、もっと小さな液晶パネルを使って、新しいプロジェクターをつくることにフォーカスしました。

「創造と挑戦」。私どもは、その言葉にこだわるあまり、他社との競争に奔走し、お客様が真に求めている価値を見失ってしまった時期がありました。しかし、そこに「世の中の期待に応え、真摯に努力する」という精神を融合させることで、新たな価値を生み出すことができると思っています。世界中の皆さんから「エプソンがあるから、私たちの生活は豊かだし、持続可能な社会が実現できるんだ」と言っていただけるような、社会にとって「なくてはならない会社」を目指したのです。

創業時の精神に立ち返った、この大きな方向転換が功を奏し、2012年からふたたび同社の利益は伸び始めました。

長年にわたり培ってきた「省・小・精の技術」をベースに、お客様の快適さの追求と地球環境への配慮を両立させるエプソン。

「省・小・精の技術」で「省・小・精の価値」を

会社の危機を乗り越え、ものづくり企業の精神と技術で「なくてはならない会社」を目指す碓井社長。講演の最後は、持続可能な社会の実現に向けたセイコーエプソン株式会社の取り組みを紹介してくださいました。

碓井社長: 私たちの価値創造のプロセス、これは世の中の皆さんの期待に応え、さらにその期待を超える新しい価値を創り出す、というものです。社会課題に真摯に向き合い、技術的なイノベーションでそれを解決し、私たちにしかできない新しい価値を創り出していく。そのような想いで活動を進めております。

腕時計やプリンターなど様々な事業で培ってきた「省・小・精の技術」は、まさにエプソンのDNA。そこから生み出される「スマート」「環境」「パフォーマンス」という「省・小・精の価値」は、あくまでも「お客様」の視点に立っています。

そして同社では現在、「インクジェットイノベーション」「ビジュアルイノベーション」「ウエアラブルイノベーション」「ロボティックイノベーション」の4つのイノベーションを通じて、SDGsが掲げる社会課題の解決に取り組んでいます。碓井社長はこの日、4つのイノベーションの中から、2つのイノベーションの事例を紹介されました。

まずは「インクジェットイノベーション」。同社では、日常的な印刷の需要が最も高いと言えるオフィスの環境を変えていこうと取り組んでいます。現在、広くオフィスに普及したレーザー方式のプリンターは、印刷のプロセスが非常に複雑で熱を使用するため消費電力が高く、また多くの消耗品が出ます。そして、安価に本体を提供するものの、プリントコストが高くなってしまっている従来のビジネスモデルに、碓井社長は疑問を呈します。

碓井社長: 将来の社会を考えたときに、もっと環境に優しく、コストを気にせず印刷をする方法があるはずだ、と。この問題を解決できるのが、私どもが長年培ってきた、インクジェットの技術、ピエゾ方式をつかったインクジェットプリンターなのです。たとえばエプソンのインクジェット方式による高速複合機は、一般的なレーザー方式の複合機に比べて、消耗品の交換頻度が低い上に耐久性が高く、印刷コストは1/10に、消費電力は1/8に抑えることができます。しかもプリントスピードは2倍を実現できるのです。シンプルでありながらデジタル時代にマッチした技術を使って、私どもは、新しいオフィスをつくっていこうとしています。

さらにそのイノベーションは、印刷をする紙にも及びます。同社が開発した「PaperLab(ペーパーラボ)」は、ほとんど水を使わずにオフィス内で再生紙をつくることができる機械です。

碓井社長: 「PaperLab」は、森林資源へのダメージを心配せずに印刷できる環境をつくるソリューションです。私どもの会社では本年より、印刷したすべての紙を、この「PaperLab」によって再生し、ふたたび使用する循環型のオフィスを実行いたします。

この「PaperLab」、すでに諏訪市役所などの一部官公庁や企業でも導入されています(導入事例はこちら)。さらに、印刷工程における無駄の少ないインクジェットの技術が、産業インフラにも応用できることを碓井社長は紹介しました。

そしてもう一つご紹介いただいたのが「ビジュアルイノベーション」。プロジェクションの技術は、いまや単なる情報の表示を超えて、新しい空間演出とコミュニケーションを可能にしています。その例として、10,000m²の大空間に470台のプロジェクターを設置した「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」(東京・お台場)や、全国各地の病院や特別支援学校を訪問し、子どもたちに体験型の映像空間を提供する「ゆめ水族園」の活動などを紹介されました。これらは、プロジェクターの機能を柔軟な発想で活用し、新しい価値を創造していると言えるでしょう。

「SB2019 東京」の会場からほど近いお台場の「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」。夢のような映像空間は、エプソンの470台のプロジェクターによって生み出されている。

碓井社長は最後に講演を以下のように結びました。

碓井社長: 私どもエプソンは、よりよい社会の実現に中心的な役割を果たし、「なくてはならない会社」でありたいという志をもって、新しい価値の創造に挑戦し、サステナブルな社会に貢献して参ります。

ethicaでは、この講演のあと、碓井社長の単独インタビューも行いました。ぜひ併せてご覧ください。

セイコーエプソン・碓井社長が思い描く、色彩豊かな未来のヴィジョン

セイコーエプソン株式会社
代表取締役社長 碓井稔

1979年セイコーエプソンの前身である信州精器に入社、ミニプリンターの企画・設計を経験した後、インクジェットプリンター開発部門に異動。ピエゾ素子を使った小型・高性能なプリントヘッドの開発に取り組み、1993年にマイクロピエゾテクノロジーを搭載したインクジェットプリンターの商品化に成功。2005年には全社の生産技術強化を目的に生産技術開発本部長就任、2007年には研究開発本部長を兼任し、新しい技術の可能性を探り、成果に繋げる役割も担う。
2008年の社長就任の翌年、長期ビジョンSE15を策定。自社の強みに集中し、既存事業領域におけるビジネスモデル・製品構成の転換、新規事業領域の開拓、さらに事業構造再構築を行い、安定的かつ継続的にキャッシュを創出できる会社へと変革した。2016年、10年後のエプソンが向かうべき方向を示した長期ビジョン Epson 25を策定。「世の中になくてはならない会社」でありたいという志を示し「省・小・精の技術」を基盤として、事業を通じたイノベーションを起こすべく強いリーダーシップを発揮している。2001年ヨハネス・グーテンベルク賞受賞。2018年藍綬褒章受章。

記者:松崎未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

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http://www.ethica.jp

松崎 未來

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