読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第1節)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第4章:歓迎の意を込めて編(第1節)

連載企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第4章は「歓迎の意を込めて」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国で受けた歓迎の形を例に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第4章 歓迎の意を込めて

第1節 ネパールのもりもりご飯

腹八分目に医者いらず。健康を考えるなら、お腹いっぱいになるまで食べずに、腹八分目ほどでやめておくのが良いという意味のことわざです。確かに普段の食事は気を付けていないと、ついつい胃がポコッと飛び出てしまうくらいに食べてしまうこともあります。まだ少し食べられるなという時に箸を置くことで健康寿命も延びるし、次の食事も楽しみになります。

 

ただ、その基準で言えば、私のネパールでの生活は「不健康極まりない」ものだったでしょう。毎食腹がはちきれるほど、限界の一歩先まで食べていましたから、腹十一分目と言っても差し支えありません。元来私は大食いというわけでもないのですが、ネパールにいたときだけは日本にいるときには考えられないほどの量を食べていたのです。

 

それは何も僕がネパール料理を心底気に入ったからではなく(もちろん美味しいけど)、たらふく食べることがどうしても必要だったからです。私と皆の幸せのためにです。

ホームステイ先の村人

ネパール山間の村では、夕食は午後5時ごろです。電気が通っていない村なので就寝は9時ごろ。そのために、夕食の時間が早まるということでした。

 

夕飯の声がかかると、キッチン横のダイニングに向かいます。その頃にはあたりは真っ暗(本当に何も見えない暗闇)ですから、懐中電灯を照らしたり、手にろうそくを持って移動します。席につくとぼんやりと金の食器が目の前に浮かび上がって、キッチンからいい匂いが漂ってきます。全員が揃うと、ホームステイ先のおばあちゃんが鍋を持って、米、スープ、野菜、漬物などを順に私たちの皿に盛っていきます。特に米は大きめのお玉でドカンと皿を叩くように盛るので、それだけで1合はゆうにありそうな感じです。

ダルバートカレー

全ての食材を盛り終えると、ネパールの方はお祈りを、日本人は「いただきます」と唱え、皿の上のものを混ぜながら食べます。ダルバートカレーの話はこの連載でも過去にしていますので、気になる方はそちらも是非お読みください。

 

お喋りをしながら美味しくダルバートカレーを頂き、さて皿の上ももう片付こうかという頃、決まっておばあちゃんが鍋を片手にキッチンから出てきます。そして誰にも何も聞かずにさらに米を追加していくのです。最初の半分くらい、半合ほどの米がいつの間にか盛られ、呆然としていると、今度は野菜やスープを持って来て同様に盛っていくのです。

 

盛られてしまったものを返すことも出来ないので、八分目だった胃にそれを運び入れます。やっとそれも平らげて、「もう限界、腹十一分目だ」と思っていると背後から気配が。やばいと思ったときにはもう遅く、念押しの野菜が盛られていました。そこで次が恐ろしくなった私がおばあちゃんに「もうこれで最後。お腹いっぱい」と告げると、おばあちゃんはニッコリ笑って次の犠牲者のところへ向かうのです。

 

これは決してとある一回の食事の出来事ではなく、朝昼晩の毎食起きるのです。途中からは先手を打つ方法が分かってきて、腹十一分目で止めることが出来ましたが、決まって毎食後「苦しい」と唸ってしました。

食後は焚火を囲んで

一度おばあちゃんに聞いたことがあります。どうして勝手にお皿に料理を盛るのか、という不躾な質問でしたが、おばあちゃんによれば「それはゲストの人がお腹いっぱいなって欲しいからに決まってるじゃないか」とのこと。それでも私が「おかわりしたい人が自分で申告すればいいのでは?」と食い下がると、おばあちゃんは一息置いてからこう言うのです。

 

「ゲストの中には気を遣っておかわりをしない人がいる。でも、こっちはお腹いっぱいになって欲しくて料理を出してるからね。皆が確実にたらふく食べられるように、ストップって言われるまで勝手に盛り続けるんだよ。それで満足してくれれば、私も嬉しいし、ゲストも幸せでしょ。」

 

なるほど、あの強引に見える盛り方もゲストとホストの双方の幸せを考えた結果なのです。言われてみれば、もし少量の食事しか皿に盛られなければ私はおかわりをしなかったかもしれません。村が自給自足なのを知っていたし、カバンにはスナックが入っていたので、お腹いっぱいにならなくても良いと考えたかもしれません。ところがそれはある意味で独りよがりな意見です。勝手に気を遣ってする善意が、実は相手を不安にしてしまうこともあります。ゲストにお腹いっぱいになってほしいし、私もお腹いっぱい食べたい。その双方の願いのために、あの一連の行為が繰り返されているのです。

 

それを聞いてからは私の食欲にも火がついて、もりもり食べました。横から見ればお腹が出っ張って見えるほどにネパール料理を堪能し、毎回満たされた気持ちになりながら、おばあちゃんも今きっと幸せだろうなと思うのです。

ダイニングの窓

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
【エシカ独占インタビュー】宇賀なつみ 初エッセイ本『じゆうがたび』刊行記念
独自記事 【 2023/6/19 】 Work & Study
先月、長らく続いていた新型コロナウイルス感染症が5類感染症の位置付けとなったことで、ようやくマスクをはずして外出や旅行に繰り出す人々が増えてきました。旅行や観光業界の中では、近年世界中で注目されているものに「ウェルネスツーリズム」(※)というものがあります。そのトレンドを大々的にピックアップしたイベント、「ウェルネスツ...
インターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン2 第二話の見どころをご紹介
独自記事 【 2022/12/5 】 Work & Study
11月7日(月)より配信がスタートした、SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン2!「森キミ」ことモデルの森貴美子さんと、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんが共演して、身近な話題や気づきから、持続可能なアクションやサステナブルについて考えを深めます。今回は、12月5...
SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組のシーズン2がスタート!
独自記事 【 2022/11/7 】 Work & Study
持続可能な開発目標(SDGs)が国連サミットで採択された2015年から7年。サステナブルやSDGsといった価値観は耳に馴染んできたものの、まだまだ知らないことがたくさんありそうな奥の深い世界です。エシカでは、「森キミ」ことモデルの森貴美子さんと、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんが共演するSDGsやエシカルに...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
【あむんが行く!第1話】 TBSのSDGsプロジェクト!「ミツバチ教室」で蜜ろうキャンドルづくりを体験
独自記事 【 2022/3/7 】 Work & Study
ethica編集部員の娘(5歳)が、様々なエシカルな体験を繰り広げていく、新企画「あむんが行く!」 “あむん”という名前の由来は、紀元前1000年頃より、二千年の長きにわたって栄えたマヤ文明のマヤ語からきています。意味は“森の神”。自然と親和性のある名前を持つあむんが、今後様々なエシカルな体験を繰り広げていきます。娘の...
“自分にも環境にもやさしい”インナーウェア「WACOAL ナチュレクチュール」
INFORMATION 【 2022/2/21 】 Fashion
肌に直接身につけるインナーウェアは着心地が大事。加えて、環境に寄り添ったアイテムであれば、なおさら手に取りたくなります。「Wacoal ナチュレクチュール」は“自分にも環境にもやさしい”を目指したインナーウェアラインです。肌ざわりの良さに加えて、環境や社会に配慮した製品へのこだわりが光ります。今回はそんなアイテムの魅力...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

好奇心の火を決して消さない。相川七瀬さんの「今と未来」 デビュー25周年記念 独占インタビュー企画 Presented by SARAYA
(第24話)娘の「できない」に思うこと【連載】かぞくの栞(しおり) 暮らしのなかで大切にしたい家族とwell-being

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます