読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第7章:旧正月とベトナム編(第2節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第7章は「旧正月とベトナム」と題してお送りします。旧正月をお祝いするベトナムには、ウェルビーイングのヒントとなる出来事が溢れています。

第7章 旧正月とベトナム

第2節 愛の詰まったお年玉

前回から引き続き、今回もベトナムでの旧正月についてお話したいと思いますが、今回のテーマは「お年玉」。読者の皆さんの中には、お年玉をもらう側の人もあげる側の人もいると思いますが、みなさんにとってお年玉に関係した一番の思い出は何でしょうか?最後にお年玉をもらったとき。あるいは、最初にお年玉をあげたとき。憧れのゲーム機を買えたとき。

そんな私は、ベトナムでもらったお年玉が忘れられないでいます。

ベトナムの旧正月にも、お年玉の文化があります。それは日本のものとほとんど同じで、親戚同士が集まれば、子どもたちにはお年玉をあげるのが風習です。旧正月の頃に、ベトナムの友人の実家でお世話になっていた私は、友人家族に連れられて親戚の集まりに参加したことがあります。

そのとき私はたしか20歳で、友人は17か18だった気がしますが、彼の親戚たちは異国から来た私にも気を遣ってくれて、友人にお年玉を手渡すのと同時に私の分もくれたのでした。親戚でもない、しかも20歳の私がもらっていいものかと最初は躊躇しましたが、あまりに強く断るのも失礼だと思い、彼らの寛容さに甘えて、ありがたく頂きました。ちなみに後に、もらったお年玉を使って、その友人も含めた4人の旧友たちと美味しいご飯を食べに行きました。

前回も書きましたが、ベトナムは若年層の人口が多い国。したがって、親戚の集まりになると、40歳未満の人がわんさかいて、みなこぞってお年玉を配っています。何軒か家を回って、気づけば、私の手はお年玉袋でいっぱいに。

最初にもらったお年玉は友人の両親から

まるで最初から私が彼らの家族であるかのように、「チュックムンナンモイ!(あけましておめでとう!)」とポチ袋を渡してくれることに、至極感動したのを覚えています。私には下手くそなベトナム語で「カムオン!(ありがとう!)」と言うことしか出来ず、ただただ歯がゆかったですが、彼らは私の言わんとすることを察してか、肩に手を置いてくれるのでした。

お年玉は親戚からだけでなく、友人からもありました。

友人家族・親戚に別れをつげて、ホーチミン市内に戻ったとき、私は民泊を利用して市内にいた友人数人を宿泊部屋に招待しました。そのとき、友人の1人が裸のお金をちょいと渡すので、何かと思うと、「お年玉!」と言うのです。裸で渡すとはなかなか大胆だなと思って、紙幣に目を落とすと、それは200ドン、日本円にして約1円札でした。

最初は冗談かと思い彼女に笑いかけようとしましたが、どうやらそういうわけでもないようで、「これは何?」と聞くと、200ドン札はもう発行されておらず、ほとんど流通していない貴重なものだとのことでした。彼女はその貴重なお札の端に、小さくサインと日付を書き込んで、私に渡してくれたのです。

「思い出に」そう言った彼女の表情は忘れられません。

実際の紙幣。裏面にサインと日付が記されている

ベトナムでのあの数日は、お年玉には単なるお金のやり取り以上に、感情の受け渡しがあるのだということを再確認した時間でした。モノに宿る感情。身の回りを見てみると、私の周囲には多くの人の気持ちが散らばっているのだなと思い知らされます。モノに宿る念などと言うと、気味の悪い感じがしてしまいますが、私たちはモノを通して他者とのつながりを認識することができます。

モノを大事にするサステイナブルな生き方は、そこにある感情を大事にするウェルビーイングな生き方でもあるのではないでしょうか。みなさんにとって、大切なものは何ですか?それにはどんな思い出が詰まっていますか?

私にとっては、今タイピングしているこのパソコンが、読者のみなさんとの繋がりを表す大事なモノです。

お世話になった友人家族

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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