読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学編(第1節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第8章:挑戦の哲学編(第1節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第8章は「挑戦の哲学」と題してお送りします。新年度を控え、この春に卒業・進学・就職を迎える人、あるいはこの春新しいことにチャレンジする人へ向けて、東南アジアで見つけた挑戦と幸せの哲学をご紹介します。

第8章 挑戦の哲学

第1節 予想外の展開

今回からは新章「挑戦の哲学」です。4月を控え、新しいことが始まる予感が少しずつ街に増えてきました。「春になったらやりたいこと」を温めている人も多いのではと思います。

そんな私はハイキングに行きたくてうずうずしています。冬のハイキングも気持ちいいですが、山に緑が戻ってきた春のハイキングは1年のうちでも格別なものがあります。ただし、ハイキングはただ楽しいだけのものではありません。どんなに低い山でも、相手は自然。いつでも予想外で対処の仕様がないことが起きます。それ自体は避けられるものではありませんから、そこで問題になるのはマインドセットです。

私は一度、ベトナムでハイキングをしたとき、予想外の豪雨に遭ったことがあります。しかも「軽い運動程度」と聞かされていたのに、実際は往復で5時間以上もかかる登山でした。さらには、森にはヒルが大量発生。泥の中に潜むヒルは肉眼では視認できず、どんなに気を付けていても30分歩けば必ず足にかみついています。おかげで足の至る所から出血して、靴下は血だらけ(ちなみにヒルは吸血中に血液の凝固を阻止する物質を出すので、一度かまれるとしばらく出血します)。

そんな状態では、普通自然を楽しむなんて余裕はありません。ハイキング参加者は全体で30人ほどいたと思いますが、半数以上はその過酷な状況に今にもギブアップしそうな表情でした。肌着までびしょびしょに濡れ、足からは出血、あとどれだけ歩けば帰れるのかもわからない状況では、無理もありません。

泥だらけの道が続く

ところが、列の先頭は全くの異世界でした。現地のガイドを先頭に、アクティビティ全体のマネジメントを務める役所の方々、学生たちが、歌を歌いながら意気揚々と進んでいくのです。何だこれは、と思いました。最初はランナーズハイのようなものになってしまったのかと心配するほどでしたが、どうやらそうでもない。いくら自然に慣れていると言っても、重く肩を打つ雨の中、泥で茶色く染まった足を軽々と前に進めることは異様に見えます。

そこで気付いたのです。彼らは元来打たれ強いとか、意志が固いのではなく、むしろその逆だと。つまり、彼らにはとてつもない柔軟性が備わっているのではないかということです。予想外の物事に対して自分自身を変容させる力、未知のものを拒絶せずに受け入れてみる思考。そういったものが、この状況を楽しませる手助けをしているのではないか。そう考えると、彼らは異様でもなんでもなく、「予想外」のスペシャリストなのだと納得できます。

つかの間の休憩

カルチュラルスタディーズの分野では、文化は変容するものだという認識が共有されています。文化は一見ある決まった形をとっているように思えますが、実際には変容している過程にすぎません。アイデンティについての議論でも同様です。アイデンティは「自己の連続性」と言われますが、これは「連なっている」ということを言っているだけで、「変わらない」ということは言っていません。すなわち、変容していく可能性は常に残されているわけです。

新しい環境に飛び込めば予想もしていなかったことが起こるのは“予想の範囲内”です。そのときに、これまでの自分を確立された、揺るぎない存在だと考えると、目の前の新しさへ対処できず、拒絶反応を起こします。もし、自分を適応可能・変容可能な存在と認識できれば、泥だらけの足でも前に進めることができるはずです。

春は挑戦の季節。柔軟性を合言葉にすると、豪雨も「雨の調べ」に変わるかもしれません。

激闘の勲章

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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