読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第11章:自己を捉える(第1節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第11章:自己を捉える(第1節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第11章 「自己」を捉える

第1節 「私」ってなんだ?

先日、久しぶりに金縛りにあいました。意識は覚醒しているのに、体が全く言うことを聞かないというのは何とも不思議な感覚です。

金縛りに限らず、私たちは時に、自分の身体が自分のものではないような錯覚に陥ります。なんだか体の調子が優れない気がするけど、一体何が起こっているのかわからないとき、「私」は「私」の身体の一体どれだけを把握できているでしょうか。もっと身近に言えば、つけた記憶のない傷跡があったとき、「私」の身体は本当に「私」のものだったのでしょうか。

これは意識についても同様かもしれません。今ここにいる「私」は「私」の意識のどれくらいを把握できているのでしょうか。人間は脳みその10%しか使っていないという話はよく聞きますが(なおこれは科学的根拠に欠けています)、私たちは「私」という存在をどれくらい認識できているのでしょうか。昨日食べた夕飯を思い出せないとき、私は私自身の記憶を全く支配できていないことに気付きます。

趣味の自転車に乗る「私」

自己とは何か。これは哲学や社会学、心理学において、何世紀も議論されてきたことです。それでも、私たちは未だにコンセンサスの取れた回答に辿り着いていません。ですが、「規定出来ないことが『自己』だ」と言う前に、そもそも自己がいかにして形成されたのかを確認することには意味があります。

今回から見ていくのは、「自己の発現」というテーマで考察を行った議論です。具体的には、マックス・ウェーバー、エミール・デュルケム、ミシェル・フーコー、ノベルト・エリアスという哲学者、社会学者たちの議論です。彼らは、「自己」というものがいかにして形成されるのか、あるいは私たちが「自己」と名指すものが決して普遍的なものではないことを示唆しています。

なんだか難しそうだと思われるかもしれません。確かに彼らの議論は難解で読解が難しいのですが、「ウェルビーイング」を補助線にすると、こうした議論がいかに私たちと直接関係のある事柄なのかが理解できます。私はなるべく、この日常生活の地平で、自己という抽象的な議論を検討していきたいと思っています。

バンドでベースを弾く「私」

ウェルビーイング連載で哲学の話ってなんだか遠回りじゃない?と思う方もいるかもしれません。ところが、ウェルビーイングという概念は極めて「自己」と結びついたものだということは忘れてはいけないでしょう。幸せであると感じるのは、紛れもなく、今ここにいる私自身に他なりません。「幸せな『私』」という存在を認識することが、幸せと感じることと同義だとすれば、「ウェルビーイング」と「自己意識を持つこと=私が私だと思うこと」は切っても切り離せないものだとわかります。つまるところ、私に自己という意識がなければ、幸福だと感じることはできないというわけです。

だからこそ、ウェルビーイングの議論においては、幸せだと感じる自分は一体どういう存在だろうか、と問うことがとても大切になってきます。おいしいとか、気持ちいいとか、すっきりしたとか、そういった感覚を抱く「私」を議論の射程に置いてみること。これはスポーツでいうところの、ルールの検討に近いかもしれません。何かがゴールだとか、ファールだとか、アウトだとかを判断する根拠となるルールの成り立ちをしっかり見てみようということです。

私って何だろう。その疑問を探す旅へ一緒に出掛けましょう。

アビーロードを渡る「私」

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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