読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第5章:フリータイムの哲学編(第5節)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第5章:フリータイムの哲学編(第5節)

日本料理を振舞った際

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第5章は「フリータイムの哲学」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジア各国それぞれに、フリータイムをめぐる哲学があります。それらを基に、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第5章 フリータイムの哲学

第5節 ものごとの意味について

突然ですが、「意味」とはどこにあるのでしょうか。例えば、椅子を見たときに、「あれは人が座るものだ」と感じるのは、なぜでしょうか。

一つ考えられるのは、「椅子」それ自体に「座る」という意味が含まれているという見方です。これは一見、最も確からしいような気がします。椅子という物質が「座る」という意味を作り出す、と言っても良いでしょう。

あるいは、椅子を見るわたしたち自身に「意味」が含まれているとする見方もできるかもしれません。椅子を見て「座るもの」と認識するのは、紛れもなく「自分自身」ですから、「『座る』という意味はわたしたちの中に作り出される」と考えるのは妥当に思われます。

ただ、今回話したいのはそのどちらでもありません。それは「意味」が人々同士のやり取り、相互作用によって作り出されるとする見方です。つまり、今まで自分や他の人がそれを「座るもの」として使ってきたからこそ、目の前の椅子は「座るもの」としての意味を与えられているというわけです。少々ややこしいですが、私がベトナムで体験した次の例を見てみると少しわかるかもしれません。

ベトナムのパゴダ

日本の文化を共有していない人とご飯を食べるときに経験する典型的なものは、「ITADAKIMASUって何?」という反応です。「食べ物への祈り」とか、「慣習的に言っているだけ」とか、「料理人への感謝」だとか、いろいろな回答をしたことがありますが、実際のところ「いただきます」の「意味」は自分でもよくわかっていません。

ベトナムでもやはり「ITADAKIMASUって何?」と聞かれて、上のどれかを答えた記憶があるのですが、その後のベトナム人との交流で、この「意味」が別の形で構築されていったのです。それは次のような形で始まりました。

交流期間中、日本人が毎度「いただきます」と唱えてからご飯を食べ始めるのを見て、一部のベトナム人が同様に「いただきます」と手を合わせるようになりました。最初は、ただの真似事、異文化への興味程度のものだったと思いますが、日を経るごとに、数も増えていき、気づけば皆が当たり前のように「いただきます!」と言ってから食事を始めるのです。学校の給食のような光景に、私は懐かしい感覚がしたのを覚えています。その後も、食事のときには必ず、スナックを食べるときだって「いただきます」と言うようになり、さらには「いただきます」と言わないで食べ始めたベトナム人を他のベトナム人が注意するようにもなりました。

そんなわけで、この「いただきます」は、交流プログラムにおいて、一種の儀式、全体の連帯感を高める掛け声のような意味を獲得していったのです。「『いただく』ことに感謝する」、あるいは「つい口をついて出てしまうもの」、「言わないと気持ち悪いもの」という意味とは他に、「プログラムのキーワード、掛け声」という意味が形成されていったと言えます。

食事時の様子

これこそが、さきに説明した、相互作用による「意味」の構築です。そして、「意味」が構築され得るということは、つまり、ものごとの「意味」は相対的ということです。異文化との出会いというのは、このように日常世界に溢れる「意味」を相対化する効果があります。

これは東南アジア特有の哲学ではありませんが、ベトナムでの交流で体験した「意味内容の構築」という視点はとても興味深いものです。もっと言えば、もしこれがヨーロッパで起きた場合、そこで構築される意味はこれと同じではなかった、ということもあり得ます。「意味」というものを、「その時、その場所」性を持ったものとして考えると、「ベトナム」という文脈がとても強く作用していると考えることができるわけです。

春巻きと寿司の多文化皿

今回は少し、フリータイムの哲学から一歩外に出てみた内容でしたが、根本にあるのは、哲学というものが、いつでも認識の枠組みを転換してくれるものだということです。これを読むみなさんが、第5章を通して様々な価値観に触れて、新しい視点を得ることができたとすれば幸いです。次章からは「教育」という観点から、ウェルビーイングについて考えていきますので、お楽しみに!

田舎の原風景

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
インターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン3 第1章の見どころをご紹介
独自記事 【 2023/10/12 】 Work & Study
2023年10月から配信がスタートした、SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン3!エシカちゃんと、「森キミ」ことモデルの森貴美子さんが、身近な話題や気づきから持続可能なアクションやサステナブルについて考え、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんの案内のもと時空を超えた...
SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組のシーズン3がスタート!
独自記事 【 2023/10/10 】 Work & Study
持続可能な開発目標(SDGs)が国連サミットで採択された2015年から8年。サステナブルやSDGsといった価値観は耳に馴染んできたものの、まだまだ知らないことがたくさんありそうな奥の深い世界です。エシカでは、「森キミ」ことモデルの森貴美子さんと、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんが共演するSDGsやエシカルに...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
【エシカ独占インタビュー】宇賀なつみ 初エッセイ本『じゆうがたび』刊行記念
独自記事 【 2023/6/19 】 Work & Study
先月、長らく続いていた新型コロナウイルス感染症が5類感染症の位置付けとなったことで、ようやくマスクをはずして外出や旅行に繰り出す人々が増えてきました。旅行や観光業界の中では、近年世界中で注目されているものに「ウェルネスツーリズム」(※)というものがあります。そのトレンドを大々的にピックアップしたイベント、「ウェルネスツ...
インターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン2 第二話の見どころをご紹介
独自記事 【 2022/12/5 】 Work & Study
11月7日(月)より配信がスタートした、SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組『家族で学ぶSDGs』シーズン2!「森キミ」ことモデルの森貴美子さんと、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんが共演して、身近な話題や気づきから、持続可能なアクションやサステナブルについて考えを深めます。今回は、12月5...
SDGsやエシカルについて学べるインターネット教養番組のシーズン2がスタート!
独自記事 【 2022/11/7 】 Work & Study
持続可能な開発目標(SDGs)が国連サミットで採択された2015年から7年。サステナブルやSDGsといった価値観は耳に馴染んできたものの、まだまだ知らないことがたくさんありそうな奥の深い世界です。エシカでは、「森キミ」ことモデルの森貴美子さんと、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさんが共演するSDGsやエシカルに...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
【あむんが行く!第1話】 TBSのSDGsプロジェクト!「ミツバチ教室」で蜜ろうキャンドルづくりを体験
独自記事 【 2022/3/7 】 Work & Study
ethica編集部員の娘(5歳)が、様々なエシカルな体験を繰り広げていく、新企画「あむんが行く!」 “あむん”という名前の由来は、紀元前1000年頃より、二千年の長きにわたって栄えたマヤ文明のマヤ語からきています。意味は“森の神”。自然と親和性のある名前を持つあむんが、今後様々なエシカルな体験を繰り広げていきます。娘の...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

世界が注目するデザイナー吉本英樹が手がけたツリーが登場! 夜景にフードに!クリスマス気分を目一杯楽しめて環境にも優しい「Roppongi Hills Christmas 2021」
(第32話)いつもの道を歩いてみたら【連載】かぞくの栞(しおり) 暮らしのなかで大切にしたい家族とwell-being

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます