歌舞伎を楽しむならここも見て! 歌舞伎の美しい道具たち
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
6,182 view
歌舞伎を楽しむならここも見て! 歌舞伎の美しい道具たち

4月に新しい歌舞伎座がオープンしたり、市川海老蔵さんのブログの更新頻度が話題になったりと、最近何かと話題の歌舞伎。皆さん、歌舞伎を観たことはありますか? 観たことがある人もない人も、次に見る時にはぜひ着目していただきたいものがあります。それは、歌舞伎に使われる道具類。

 

道具類に注目していただきたい理由は、2つあります。1つ目の理由は、歌舞伎の道具類にはそれぞれ非常に細かい決まり事があり、それを知るとさらに歌舞伎が楽しめること。2つ目の理由は、歌舞伎の道具は大道具や小道具、衣裳やかつらまで、手抜きのないこだわりのある道具が使われていることです。舞台で輝く俳優の演技を下支えしているものが道具だと言っても過言ではないほど、徹底した美意識が道具類にも宿っているのです。

「道具に注目するとさらに歌舞伎が楽しめる」ということと、道具の「決まり事」や道具に見いだせる「美意識」を教えてくださったのは、フリーライターの田村民子さん。歌舞伎や能楽の職人の仕事や道具に魅せられて、歌舞伎などの伝統芸能で使う道具類を未来に継承する活動を行う「伝統芸能の道具ラボ」を主宰しています。

繊細な心配りで作られている道具

例えば、歌舞伎のかつらは、同じ俳優が同じ役を演じる場合でも作り置きをせず、公演ごとに新たに作ります。その理由は、頭のサイズが俳優の体重の増減などによって微妙に変わっていくから。約一ヶ月の興行期間中に俳優が最高の演技をできるよう、頭にぴったり合わったかつらを毎回準備しています。また、サイズの問題だけではなく、他の俳優との兼ね合いで微妙に形を調整するなど舞台全体のバランスを考えて、様々な配慮をもって作られています。このように、かつらひとつとってみても、俳優が最高の状態で観客の前に立てるように徹底した美意識をもって整えられているのです。

 

女方の髪飾りに注目して「決まり事」と「美意識」を感じよう!

歌舞伎の道具類の「決まり事」と「美意識」を感じるための方法として今回提案したいのは、女方の髪飾りに注目すること。歌舞伎の世界では、役柄によって「お姫様は、だいたいこういう着物でこんな髪型」というように衣裳や髪型に決まりがあってパターン化されています。女方の髪飾りも同様。役柄によって特徴的なものを使用しています。そして、その髪飾りからもしっかりと歌舞伎の美意識を感じることができます。

細工が美しい「花かんざし」

1.お姫様のかんざし=花かんざし

お姫様の定番のかんざしは、この「花かんざし」と呼ばれるもの。遠くからでもティアラのようにかつらに乗っているのが見えるので、舞台にこれを付けて出てきた俳優がいたら、その人はお姫様だとぱっとわかります。

花かんざしをよく見ると花の隙間に蝶が飛んでいます。しかも、この蝶には小さなバネが付けられていて、俳優が動くとわずかに揺れるのです。客席からはほとんど見えない部分にまでこだわっていることがわかる道具です。

花魁のかつら。ピンクと水色のふわふわした布が鹿の子

2. 花魁や町娘のリボン=鹿の子

かつらにフワッと柔らかそうなリボン状の布が付けられていることがあります。このリボン状の布は鹿の子というもの。鹿の子は花魁や町娘のかつらに付けられます。花魁は鹿の子だけでなく非常にたくさんのかんざしを付けているので、町娘とは見分けがつきます。

かつらに使う鹿の子は非常に軽いものでなければなりません。絞り染めの高度な技術が必要な大変貴重な布で、一時期製作ルートが途絶えていましたが、田村さんの働きかけにより、床山(かつらを結う職人)と京都の織り職人の協力で復元されました。歌舞伎に関わる人たちは小さなパーツも疎かにせず、徹底して伝統を守ろうとしているのです。

ちなみに紫色のリボンは、「病鉢巻(やまいはちまき)」と呼ばれるもので、その役が病気であることを表しています。

赤い鹿の子の上に乗せられているのが「すすきのかんざし」

3.田舎娘定番のかんざし=すすきのかんざし

銀色の一輪挿しのようなかんざしがかつらについていたら、その人は田舎娘です。田舎娘の場合、緑色の着物を着ていることも多いので、緑の着物を着ている人が登場したら、かんざしに注目してみてください。

このすすきのかんざし、植物のススキとは形は違い、タンポポのような形をしています。非常に細かくできており、花弁の一枚一枚が丁寧に作られています。こういった細部へのこだわり方は、観客に向けたものというよりも、役を演じる俳優に向けたものであり、俳優の演技を鼓舞する効果があるのかもしれません。

陰の存在であろうとする裏方や職人

女方の髪飾りだけを見ても徹底的にこだわっていることがわかるのですが、裏方や職人は、たとえ自分たちの仕事が注目したり誉められたりしても「俳優が映えなかったら意味がない」と語るそうです。裏方や職人は常に陰の存在であろうとしているのです。

しかし現在、裏方や職人が「陰の存在」に徹するが故に存在をあまり意識されることがなく、そのために継承者問題に悩まされたり、道具類の製作ルートが途絶えてしまいそうになったりしています。しかし、歌舞伎が今のまま高い芸術性を保ち続けるためには、俳優の輝きを支える裏方や職人、道具類の存在は欠かせません。

みなさんもこれから歌舞伎を見る時は今よりも少しだけ裏方や職人、道具類に注目し、それが俳優の輝きの下支えするものだと意識して歌舞伎を観劇してみてはいかがでしょうか。

 

取材協力、写真提供=伝統芸能の道具ラボ 田村民子さん

FelixSayaka

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
[エシカ編集部 体験企画]環境や人権に配慮したエシカル素材で心地の良いナチュラルな香りと時間を実感「Care me(ケアミー)」のインバスグッズ
sponsored 【 2024/3/29 】 Health & Beauty
一日の終わりのバスタイムは、その日の自分をとびきり労って心とからだを回復させてあげたい愛おしい時間。そんなセルフケアの習慣にほんの少し、地球環境や自分以外の人にもちょっと良いアクションが取れたら、自分のことがもっと好きになれる気がしませんか? 今回ご紹介するのはエシカ編集部が前々から注目していた、エシカルな素材を使って...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.6 宇賀なつみ (第5章)ゴールデン・ゲート・ブリッジ
独自記事 【 2024/3/27 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
そろそろ知っておかなくちゃ! 水素のこと。森中絵美(川崎重工)×中村知弘(UCC)
sponsored 【 2024/3/26 】 Work & Study
2023年の記録的な猛暑に、地球温暖化を肌で感じた人も多いだろう。こうした気候変動を食い止めるために、今、社会は脱炭素への取り組みを強化している。その中で次世代エネルギーとして世界から注目を集めているのが「水素」だ。とはいえまだ「水素ってどんなもの?」という問いを持っている人も多い。2024年2月に開催された「サステナ...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】連載企画Vol.4 宇賀なつみ (第3章)アリス・ウォータースの哲学
独自記事 【 2024/2/28 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【ethica Traveler】連載企画Vol.3 宇賀なつみ (第2章)W サンフランシスコ ホテル
独自記事 【 2024/2/14 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.2 宇賀なつみ (第1章)サンフランシスコ国際空港
独自記事 【 2024/1/31 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

今から始めて夏には「友産友消」パーティ! ベランダ菜園のススメ
愛着のあるものを長く使う。大量消費に流されない生き方のススメ エシカルファッションブランドINHEELS共同代表岡田有加さんの考えるおしゃれとは?

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます