国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Chapter 3-2】
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Chapter 3-2】

撮影:平間至

本記事は、あらゆる女性のエンパワーメントを目指し、モデルとして国際的に活躍する国木田彩良さんに、ファッションの歴史を紐解きながら、セクシャリティやジェンダーの問題について、フランクに語っていただく連載コラムの第5回です。

プロローグを読む>>

Chapter-1を読む>>>

Chapter-2-1を読む>>>

Chapter-2-2を読む>>>

Chapter-3-1を読む>>>

Chapter-3-2を読む>>>

Epilogueを読む>>>

日本に来てわかったこと、変わったこと

——長くフランスで生活されていた国木田さんには、現代の日本社会の矛盾や弱点が、よりはっきりと見えているように思います。

カルチャーショックを受けるというのは、とても大切な経験だと思います。自分にとって、それまで当たり前だったことが、そうではないことに気付けるのですから。私がセクシャリティやジェンダーについて、深く考えるようになったのは、日本に来てからです。私の考える「女性らしさ」——「セクシャル」や「センシュアル」と言った方が正しいかも知れません——と日本人の「女性らしさ」には、大きな開きがありました。

国が違えば、恋愛観も家族のあり方も違います。もちろん同じ人間ですので、根本の部分——愛を求め、子を授かり、家庭を築く——は一緒だと思っていますが、その周縁は国によってまるで違いました。

言語の違いもあると思います。フランス語は語彙が豊富で、ひとつひとつの言葉の意味や用法がシャープです。対して日本語は、ひとつの言葉がいくつもの意味を持っていたり、指し示すものが曖昧だったりします。文法も、日本語は最後まで聞かないと、話の主旨が見えません。日常的に「空気を読む」ことが求められるのでしょうね。

日本人のそうした価値観や思考の傾向には、良い面と悪い面があると思います。私自身、日本の文化から大いに影響を受けました。日本に来て、以前より我慢強くなりましたし、他人のことを考えられるようになりました。人として成長できたと思っています。

撮影:平間至

セクシャリティとは、人と人をつなぐもの

——「女性らしい」という言葉の用い方、受け取り方は、人によってかなり差があると思います。私たちメディアも、慎重に用いるべき言葉だと思いますが、国木田さんの考える「女性らしさ」あるいは「セクシャリティ」について、もう少しお聞かせいただけますか。

セクシャリティとは「人と人をつなぐもの」だと私は思っています。本来は生殖が前提となっているものですが、現代の私たちは、子供を授かるためだけにセックスをするわけではありません。多様な恋愛があり、いろんな家族のかたちがあります。

異性へのアピールのために存在してきたファッションが、いま徐々にジェンダーレスな方向に進んでいるのも、そうしたセクシャリティに対する人々の意識の変化を受けてのことだと思います。

ただ、そうした世界の動向から、日本はだいぶ遅れていると思います。欧米人は、人を愛することに対して自由で積極的ですが、日本人は自分の気持ちよりも前に、「こうあるべき」という制度や慣習に縛られていると感じます。日本でシングルマザーが生活しづらいのも、男性が働き女性が子育てをするのが圧倒的なスタンダードだからでしょう。

こうした性に対する意識は、中絶や婚外子の法律の問題、卵子凍結や代理母出産などの技術導入にも関わってくることだろうと思います。医療的な観点や倫理的な観点から、賛否があるのは当然ですが、より多くの選択肢があり、本人の意志で選べる、ということが望ましいと私は思っています。日本では女性の生き方の選択肢がまだまだ少ないです。選択肢が少ないと、人はそれだけ追い詰められてしまいますから。

もしかしたら、日本人はあまり自分の感情について他人と話さないので、人間の感情の働きについて深く考察する機会を得ないまま、恋愛や結婚をどこか形式的にとらえてしまうのかも知れませんね。人を愛するって、自分という核が大きく揺らいで、心身ともにすり減るので、たしかに既存のルールに則った方が楽なのかも知れません。

ただ、その揺らぎが人を変えていくんです。愛とは何か、セクシャリティとは何か、人と人とのつながりとは何か。これらは各自の経験と内省の中で学んでいくものだと思っています。

恋をして変わることができた

——国木田さんの中で、ご自身が変わったと思われるターニングポイントはありますか?

私は18歳のときに、ある人との出会いを通じて大きく変わりました。人と人とは、こんなにも精神的に深い部分でつながれるのだということを、知ることができたんです。10代の頃の私の周りには、家柄や財力で人を評価するような人たちがいて、私も、この社会ではそうしたステータスが重要なのだと思っていました。けれど、その人は違ったんです。かなり自分勝手な人でしたけれど、それだけ自分のことを真剣に考えている人でもありました。

次の大きなターニングポイントは日本に来たときです。日本に来て、私は恵まれた家系に生まれ育ち、同種の人々のコミュニティの中で守られていたのだと気づくことができました。単身日本に来て、頼れる身内もいなくて、自分のアイデンティティが大きく揺らいだんです。それまでの自分のアイデンティティが、いかに家系や資産に依拠していて、周囲の人々によってつくられたイメージで成り立っていたのかわかりました。モデルの仕事が軌道に乗るまで、かなり逼迫していたのですけれど、その時期に、いわゆるたたき上げの人たちと交流できたのは、私の人生にとって、とても幸運なことでした。

——かなりプライベートなお話までうかがってしまいましたが、同世代の読者にとっては、国木田さんがより身近に感じられるエピソードだったと思います。シリーズタイトルの「It can be changed」という言葉も、国木田さんご自身の経験に基づいているものとわかると、より説得力を持ってきますね。

プロローグを読む>>

Chapter-1を読む>>>

Chapter-2-1を読む>>>

Chapter-2-2を読む>>>

Chapter-3-1を読む>>>

Chapter-3-2を読む>>>

Epilogueを読む>>>

国木田彩良/Saila Kunikida

1993年、イギリス・ロンドン生まれ。フランス・パリで育ち、高校卒業後に服飾の名門スタジオ・ベルソーでファッションの歴史、デザイン、マーケティングを学ぶ。日本人の母とイタリア人の父を持ち、明治時代の小説家・国木田独歩の玄孫にあたる。

自身のルーツである日本に興味を持ち2014年単身来日、モデル活動を開始。2015年、三越伊勢丹の企業広告「this is japan」のイメージビジュアルに登場し注目を集める。国内外のハイファッション誌を中心に活動の傍ら、パリで形成された感性と日本で暮らす中で見えてきたことを発信していこうとSDGsに携わりながら、主にフェミニズムに関するトークショーに参加したり文章書いたりするなど活動の幅を広げている。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
戦後の日本で衛生環境を改善したサラヤが、何故?アフリカの女性支援活動を始めたのか。安田知加さんに伺いました 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/14 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.7 宇賀なつみ (終章)『Returning to TOKYO 〜サステナブルなフライト〜』
独自記事 【 2024/4/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.6 宇賀なつみ (第5章)ゴールデン・ゲート・ブリッジ
独自記事 【 2024/3/27 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】連載企画Vol.4 宇賀なつみ (第3章)アリス・ウォータースの哲学
独自記事 【 2024/2/28 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【ethica Traveler】連載企画Vol.3 宇賀なつみ (第2章)W サンフランシスコ ホテル
独自記事 【 2024/2/14 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.2 宇賀なつみ (第1章)サンフランシスコ国際空港
独自記事 【 2024/1/31 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
【Earth Day】今年も地球環境について考えよう!「在日米国商工会議所」と「在日フランス商工会議所」が主催するethicaコラボイベントのご案内
イベント 【 2024/4/15 】 Work & Study
地球環境について考え連帯する国際的な記念日、アースデイが今年も近づいてまいりました! 私たちethicaは、2022年、2023年とアースデイイベントに基調講演を行い、3度目となった今年もメディアパートナーを務めます。2023年のアースデイを振り返りつつ、まもなく開催のイベント『Earth Day 2024: Movi...

次の記事

9/7〜9/9は全国のスターバックスへ! エシカルなコーヒーの未来を考える「99キャンペーン」開催 〜味わって応援! 一杯の向こう側にある生産者の暮らしや気候変動に目を向けよう〜
言語と私 【スミレのドイツ留学 回顧録】

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます